【SF短編小説】星空の海賊娘ジョセフィーヌはちゃめちゃ冒険譚

藍埜佑(あいのたすく)

第1章 - 宇宙海賊の少女

「ジョセフィーヌ、お前また市場で盗みを働いたらしいな」

 宇宙海賊団のリーダー、カプテン・ブラックは眉間にしわを寄せて言った。

「だって、あのオッサンが私の尻を触ってきたんだもの。お仕置きされて当然でしょ」

 ジョセフィーヌは無邪気な笑みを浮かべる。

「お前みたいなガキンチョに興味を持つ奴がいるか。勘違いも甚だしい」

「ガキんちょ?! 失礼しちゃう。私はもう立派な女盗賊よ。カプテンだって私の実力を買ってくれてんでしょ!」

「実力というか、評価してるのはお前の泥棒の才能だけだけどな。ったく、両親が泥棒とは因果な」

「ま、私がこの宇宙一の女海賊になる日も近いってことよ」


 そう言って、ジョセフィーヌはくるりとカプテンに背を向けた。細い体に不釣り合いな大きな銃を腰に下げ、颯爽と歩いていく。

「ジョセフィーヌ、待て。今日のお前の仕事はこれだ」

 カプテンが、彼女を呼び止める。

「なになに? また退屈な荷物運び? 私はもっと刺激的な仕事がしたいの」

「違う。今回は大仕事だ。軍の極秘設計図を盗み出してこい」

 ジョセフィーヌの瞳が輝いた。

「ほんと?!やった!これでいい稼ぎになるわね」

「もちろん、報酬は山分けだ。だが、もし失敗したら、お前は宇宙の藻屑と消えるがいいわ」

「ご心配なく。私に任せて。ベガバスター、行くわよ!」


 ジョセフィーヌは、彼女の愛機であるベガバスターに飛び乗る。まるで空飛ぶバイクのような形をした小型宇宙船だ。

「よし、軍事基地に潜入するには、まずは偽の IDが必要ね」

 ジョセフィーヌは顔をしかめた。

「あのデブいコンピューターおたくに会うのは嫌だけど、仕方ない」

 ベガバスターを操縦し、裏市場へと向かう。そこには、あらゆる違法品を取り扱う店が軒を連ねている。


「やぁ、ジョセフィーヌ。また君か」

 目的の店に入ると、店主が彼女を出迎えた。

「偽IDが欲しいんだろ?」

「わかってるじゃない、ハック。相変わらず頭がキレるわね、そのデブい体に似合わず」

「君こそ、俺みたいなガリ勉コンピューターオタクをバカにしてるけど、俺の頭脳がなきゃ、君も仕事できないんだぜ」

「わかったわよ。で、値段はいくら?」

「君の心臓くらいかな」

「冗談きついわ。じゃあ、私のファーストキスなんてどう?」

「やめてくれ。君のキスなんて、宇宙一不味そうだ」

 ジョセフィーヌは舌を出して見せた。

「ちぇー、つまんない」

「冗談はさておき、今回は特別だ。極秘軍事設計図を盗むって話は聞いた。だから、サービスしておくよ」

 ハックが特殊なチップを取り出す。

「それじゃ、サンキュ。じゃあ、行ってくるわ」

「ああ、気をつけろよ。君が捕まったら、俺も困るんだからな」


 新しい偽IDを手に入れたジョセフィーヌは、意気揚々と軍事基地へ向かった。服装も、いかにも女性兵士という出で立ちに変えている。

「よし、これで偽IDはバッチリ。あとは中に入るだけ」

 彼女は基地の前で、ベガバスターを降りた。

「ストップ!そこの女性IDを見せろ」門のガードマンが彼女を呼び止める。

「はいはい、どうぞ」

 ジョセフィーヌが軽ぅ~くIDを差し出すと、ガードマンは不審げな顔でIDをスキャンした。

「うーん…」

「どうかしましたか、紳士さん?」

 ジョセフィーヌが甘い声で尋ねる。

「いや、ちょっと変だなと思って。このIDは、確かに正規の軍人のものだが…」

「まさか、あなた私のことが怪しいとでも?」

 ジョセフィーヌは、涙目で訴えるような目でガードマンを見つめる。

「女だからって甘く見るんじゃないわよ!」

「い、いや、そういうわけでは…」

 ガードマンがいささかたじろぐ。

「こういうのは、セクハラって言うのよ!」

「す、すみません!どうぞ、お通りください!」

 ガードマンは慌てて彼女を通した。


「はぁ、男ってホント単純」

 ジョセフィーヌはため息をついた。

「さて、設計図はどこかしら」

 基地の中を探索し、やがて目的の部屋を見つける。

「よし、あそこね。ちょちょいのちょい」

 彼女は部屋に忍び込み、目的の設計図データを盗み出した。

「やったわ! これで大儲けよ!」

 意気揚々と部屋を出ようとしたその時、警報が鳴り響いた。


「なに? バレたの?!」

 ジョセフィーヌは驚いて走り出す。

「侵入者発見! 犯人は女性! 繰り返す犯人は女性!」

 アナウンスが響く中、彼女は必死で出口へ向かう。

「ちょっと、お嬢ちゃん。どこ行くんだい?」

 突如現れた屈強な兵士が、彼女の行く手を阻む。

「邪魔しないで! 私、急いでるの!」

「そりゃ、盗んだデータを売り払いに行くのなら大急ぎなんだろうけどな」

 兵士がニヤリと笑う。

「くっ…」

 ジョセフィーヌは観念した。

 彼女には、この兵士に勝ち目はない。

「捕まったら、宇宙の藻くずになっちゃうのね…」

 その時、不意に爆発音が響いた。

「なんだ?!」

 兵士が振り返る。

「ジョゼ、急げ!」

 聞き覚えのある声がする。

「カプテン!」

 乱入してきた宇宙海賊団が、戦闘を始める。その隙に、ジョセフィーヌは兵士をかわし、脱出した。

「ったく、間一髪だったじゃねーか」

 カプテン・ブラックがぼやく。

「助けに来てくれたんだ! ありがとう!」

 ジョセフィーヌが感謝する。

「お前じゃない、データを助けに来たんだ。肝心のデータは盗めたのか?」

「もちろん!」


 こうして、ジョセフィーヌは見事に極秘軍事データを盗み出すことに成功した。

「ジョセフィーヌ、お前もなかなかやるじゃねーか」

 カプテンはほくそ笑む。

「へへん、私がこの宇宙一の女海賊になる日も近いってことよ」

「はいはい、その前にまずは報酬の分配だ。データを売って、きっちり山分けしねーとな」

「了解よ、ケチケチカプテン」


 二人の笑い声が、宇宙船内に響き渡った。ベガバスターは、次なる冒険の舞台へと旅立っていく。

 ジョセフィーヌの宇宙海賊人生は、まだまだこれからなのであった。

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