第6話 : 計画 [2]
「私の言葉を簡単に信じられないのは当然でしょう。第一印象がイマイチだったでしょう?その時のことについては謝ります。私にも事情があったのです。」
「わかりました。」
「私は人を説得することに才能がありませんが、駄目で元元ではないですか? 理由が何であれ、重要なのは、あなたが相手が誰なのかを知る機会だということではないでしょうか。」
「あ!そしてもう一言!」
「選択は自由ですが、答えはしっかりと出してほしいです。これも一種の約束ですから。相手ががっかりしないように気を付けてください。いくら私が憎くても、その程度の配慮はお願いしたいです。」
「わかりました。」
「それではよく考えてみてください。」
「はい。」
桃香は宏がこの提案を拒否するはずがないと断言した。少し前に短い沈黙の後、宏が答えてくれた。
桃香もやはりその事実を知っていたからこそ、堂々としていられたし、予想もすぐに的中した。
桃香は自分の計画が成功したのと同じだと思い、すぐに栞奈に電話する。
「もしかして明日時間が大丈夫?」
「明日ですか?」
「あ、明日。大丈夫だよね?」
「大丈夫ではあります。」
「ところで、どうしてですか? 何かあったんですか?」
「いや…まあ大したことではなくて… 以前… うちの部室を訪問したいと言ったじゃないか?」
「はい!」
「それが気になるんだ。」
「あ…」
「だから明日時間があれば、うちの部室に遊びに来て。」
「本当ですか?」
「小説を書くのに忙しいのかな?」
「あ…いいえ。 大丈夫ですよ。」
「そう?じゃあ、明日はどう? 部室で会って、仕事はどうなっているのか少し話し合ってみよう。」
「はい、楽しみにしています。」
何が起こったかは正確に知らなくても、行ってみれば分かると思う。
翌日、学校の日課が終わり、部室に先に到着したのは栞奈だ。
部室に誰もいないことを発見し、桃香に電話をかける。
「あの、今着いたのですが、どちら様でしょうか?」
「あ…急用ができて。 すぐ行くよ。ちょっと待ってくれる?」
「あ… はい。」
栞奈はそのように電話を切って部屋の中を一度見て回ろうと思う。
ちょうどその時、弘がドアをこっそり開けて入ってくる。 自分の相手がいるだろうと思い、緊張している。
弘は誰かを見つけて慎重に話しかける。
どこかなじみのある後ろ姿だ。
「あの…」
栞奈が突然の気配を感じてさっと振り向く。
弘は栞奈をじっと見つめる。
栞奈もやはり弘と目が合う。
「え?」
「え?」
同時に吐き出した一言驚きとともに言葉を失ってしまう。
しばらく二人ともどうすればいいのか分からずぐずぐずして先に話を持ち出すのは弘だ。
「どうしてここに君がいるの?」
「それは私が言いたいことだけど? それでは君こそどうしてここにいるの?」
「私はここに見に来た人がいて…」
「それは私も…」
弘はふと変な予感がする。
「もしかして…その相手って君なのか?」
どうしても信じられないので、違うと答えてほしい。
「相手?何の相手?」
栞奈は分かりきっていながらも、わざと知らんぷりをする。
「文化祭で入部する条件として賭けをする相手。」
「あ…何だ? 知っていた? どうして分かったの?」
「いや…。たった今あなたが言ったから分かったんだ。」
想像すらできなかった相手を確認して呆然とする。
「じゃあ、あなたが会いに来た人って私?」
「そうだね。でも、君だけに会いに来たわけじゃないのに…」
「もしかして君も会いに来た人って私?」
「そんなはずが… 私はあなたがここに来るとは思わなかったのに。」
「他に誰かいるみたいだね。 誰に会いに来たの?」
「桃香先輩。 私を選んだ人。 もしかして君をここに呼んだのが… まさか…」
「えっと… 私の相手を見せるって言ってたよ… じゃあ、あなたももしかしてこれのために来たの?」
「そう、そう。 疑問が解けたね。 何か怪しいとは思った。 私をここに呼び出しながら別に理由を言わなかったの。 内心何かあるとは思ってたんですが、 あなたに私が相手だということを見せようとしたんだね。」
「でも、あなたはすごく淡々としているね。 私は君が相手だと知った時、頭の中が真っ白になったけど。」
「そうだね。確かに2回目だからか、最初よりはましだね。 何か再確認する感じっていうか? 私も実は初めて知った時びっくりした。 表情を管理するために本当に大変だったよ。」
「2回目?もう知ってたの? いつ知ったの?」
「昨日。」
「昨日?」
「そうだね。昨日教室であなたが言ってくれたでしょ? 小説を書くと言ったじゃない。 文化祭の時に出品して賭けで勝つと、それで文芸部に入る。 私もそんなに急に分かるとは想像もできなかった。」
弘はそれを聞いて自分が昨日言ったことをかみしめてみる。
はっきり覚えている。
「そう、私がそんなことを言ったの。 どうしてあの時私に言ってくれなかったの? どうして自分が相手だと分かっていながら知らないふりをしたの?」
「えい!そこでどう話すの? その時の雰囲気を考えないと。 そんな状況じゃなかったじゃん? 良かったと思うよ! そこで私が相手だと言ったら、ただ驚いて転んだはずなのに。」
「…」
弘はそれを聞いて話すことがない。 きっとそうだったはずだ。
「よかったね。正直、私が考えてもやり方が少し幼稚だけど、こうなったところでどう? 率直に話す機会を用意してくれたことに感謝しなければならない。」
「…」
弘はやっぱり黙っている。
「桃香先輩を待ってるの? 私たちがここに来た理由はすでに知っているじゃない。 お互いに話せと呼んだんじゃない? 誰が来るか正直分からないけど、こんなに気を使って用意してくれた機会を無駄に飛ばすわけにはいかないよね?」
「そうか…」
「それで!感想はどう? あんなに会いたかった相手をすぐ目の前にした感想ね。 」
「それが…」
実際に言葉で表現するのが大変な気がする。 一体何と言えばいいのか分からない。
「複雑、微妙?」
自分の質問に自分が答える姿が少しおかしいが、ためらう弘の言葉を横取りする。
「私たちはおそらく同じ感情を感じていると思う。」
始業日に小説を渡して文芸部に入るきっかけを与えた栞奈だが、いざ文芸部に入るためには乗り越えなければならない相手も栞奈だ。
弘は一度深呼吸し、心を固める。
「実はあの時、まともにできなかった返事。 今は確実にできそう。」
「何の返事?」
栞奈は弘の目つきが微妙に変わったことに気づく。
「その小説を読んで感想を言ってほしいということ。」
「お!本当?あの時言った答え以外に何かあるの? 楽しみにせずにはいられない!」
「いくら考えてもやはり下した結論はただ面白かったと思う。」
「それはどういう意味? 結局、同じ答えじゃないの? 何かすごいことでもあると思った。」
期待していた割には、失望した返事だ。
「そうだね。その時に言った返事そのままだよ。」
栞奈がどんな反応であれ、弘の声はやはり確信に満ちている。
「それでは…」
「でも、今ははっきり言えると思う。本当に極めて単純な理由こそが、私がこれほど時間と努力を投資する強い動機となったということだよ。」
「あの時本当に時間が経つのも忘れて小説を読んで、ずっと読みたくなった。 しかも読み終わってから私もそんなに面白い小説を書いてみたいと思った。 他の人と分かち合いたいと思った。 だからこうやって本気でここに入ろうとしてる。 私が小説に魅了された理由は、私を説得しようとする複雑な論理のようなものではなく、自分がやりたいことをしようとする意志、そしてその小説が私の意志を刺激するほど面白かっただけだ。」
「本当にすごいなと思った。 私の心をこうやって虜にしたのが。 君も言っていたじゃないか? 時間が経つのを忘れて読むようになるだろう。」
「君には感謝の言葉を必ず言いたかった。 この小説は面白さというものがどれだけ価値があるのか私に教えてくれたんだよ。」
「あ… そうなんだ。 それが君の考え?」
正直、期待していた回答ではなかったので失望せざるを得ない。
「そうだよ。」
「いいよ。」
「もう言ってもいいんじゃない?」
「何を?」
「なぜその本を私にくれたのか。」
「実は私はあなたがその話の中に溶け込んだメッセージを知ってほしかった。 これが私があなたにその本をプレゼントした理由だったんだ。」
「メッセージ?何のメッセージ?」
「君に伝えたいことがあったけど、実は言葉にするのが大変だった! それでその本をくれたの。 私の代わりに伝えてくれるという期待にね。 私が考える小説の価値は何かメッセージを伝える媒介体。 だから…何か分かってほしいことがあるんだけど、それを実際に言葉にするのは難しいかもしれないじゃん? 何て言えばいいのかも分からないし… 口もうまくいかなくてね。 そういうのを話を通じて誰かに伝えること。 本当に読者がそれを知ってくれてその話をくれた人と心が通じたら、これほどやりがいのあることはないんじゃない?」
「そうなんだ…」
「小説を読みながら感じられなかったの? 春が去って夏が来たら桜が散るじゃない? でも、散る桜に込められた自分のお便りを思い浮かべながら、誰かは悲しんで、誰かは喜ぶ。 不思議じゃない? こんなに当たり前のことを見て人の感情が動くなんて。 まるで魔法のようじゃない? 君は散る桜を見ながら、どんな気持ちになったの? この魔法の魅力が感じられる?」
「正直君のメッセージだということ… もう教えてもいいんじゃない? 桃香先輩こうやってお互いに言いたいことを言えって 機会を作ってあげたじゃん? 今この席よりもっと良い機会がなさそうだけど?」
「う~ん… 絶対ダメ! そしたらあえて小説をあげた意味がなくなるんじゃない? その小説を通じて悟ることを願ったと。 実は私が言葉で言うには恥ずかしいこともあるんだよ。 せっかく丁寧に手紙を書いて送ってくれた人に直接読んでもらうという感じかな? テーマが溶け込んでいる話を胸で感じた時、もっと深く響くのは確かだと思った。」
弘と栞奈が会話をする光景を見ていた祐希、桃香、紗耶香が部屋の中に入ってくる。
「ごめんね。少し遅れたね。」
最初に言い出すのは祐希だ。
「少しじゃないと思うんですけど。」
「あ、実は…」
祐希は栞奈と目を合わせるのを避けながら頭を掻く。
「見ていましたよね?」
見え透いた状況で変な言い訳なんていらない。
「それが… 二人で真剣に話し合うのに割り込むのがちょっとあれだからね。」
紗耶香は何と言えばいいのか分からずためらう祐希に代わって、ずうずうしい口調で平然と答える。
「入ってくるタイミングをうかがっていたというか?」
桃香もやはり栞奈の視線を避けたまま一言手伝う。
「ただ何を言っているのか気になって盗み聞きしたと思います。」
弘は特に気分が悪くない。 最初からこうするために呼び出したのだ。
「それでもう願いが叶ったの? 誰が相手なのか知りたいと言ったじゃない?」
桃香はこのような出会いを計画した意図がはるかに重要だと思う。
「はい、でもこんなやり方だとは思いませんでした。」
びっくりさせようとする意図だったら、大成功だったと弘は思う。
「私は特にあなたに嘘をついたことがない。 電話する時に言ったじゃない? 相手に会わせてあげる。」
「まあ… 分かりました。」
今は重要ではない問題だ。 この機会を通じて自分も相手が誰なのか分かるようになり、率直な感想を伝えて古い約束を守ることもできるようになったので、むしろありがたいだけだ。
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