第6話 : 計画 [1]
紗耶香と栞奈が公園で会話をしている間、弘は家に帰る途中にいる。
彼は彼女と交わした対話を通じて多くの疑問が解け、すっきりした気分になったが、やはり自分の相手が誰なのかがまだ分からないのが残念だ。
一応、紗耶香先輩は知らないと言ったし、桃香先輩に聞いても簡単には教えてくれそうにない。今すぐできることは、祐希先輩に電話をしてみるしかない。
この約束を先に提案したのは祐希先輩だから、今電話しても特に変なことではない。
「もしもし。」
弘が用心深く先に言い出す。
「お!先に電話をかけてくれるなんて?」
祐希もやはり弘と紗耶香の会話内容が気になっていたところだった。犯しておいて気にしないと言ったが、いざ弘の連絡を待っていた。
「そうなんですか?」
「それは紗耶香に会って会話をしたということだよね?」
焦った気持ちで先に言い出す。
「まあ、大体気になることがあって、聞いてみようと思ったんです。」
「それはよかったね。実はどうなったのか気になっていたんだ。気に入った人だと思う?」
「はい。ちょっと何か独特な面があって戸惑いましたが、いい人だったと思います。」
「そうなの?よかった。別に問題はなかったようだね?」
「ところで、まだ解決できていない疑問があります。」
「何?」
「まだ私の相手が誰なのかわかりません。」
「あ…そうなんだ。」
じっと考えてみると、祐希は弘の相手が栞奈であることを知っていたが、この事実を隠していた。ただ言葉そのものを出さないようにした。ばれた時に直接釈明しなければならない境遇が困らないかと思ってそうしたが、率直になれなかったことが内心申し訳なかった。
「はい。一番大事なことだと思うのですが、まだ誰なのかわからなくて…」
「それで…もしわかったら、教えてほしい。」
「あ…ごめん…これは私もよく分からない。」祐希はこの事実をまだ公開する時ではないと考え、ただ知らないふりをしながら返事を避ける。
「あ…はい。」正直、祐希先輩なら誰なのか知っているかもしれないと期待したので、どうしても声からにじみ出る失望感を隠せない。
「そうだね。実は私も本当に知りたいんだけど!いい方法が思いつかないね。」
祐希も弘ががっかりするのを確認してからは、さらに申し訳ない気持ちを感じる。むしろ、祐希の声がその気持ちをはっきり示している。
「何かいい方法はないかな?」
「でも知らなくても特に関係ないんじゃない?」
祐希は努めて平気なふりをする。
「気になりませんか?」
「実はそうなんだけど…」
祐希は自分がその真実を知り、どのような反応を見せたのかを振り返ってみると、弘がむしろ知らなかった方がよさそうだと思う。いざ弘にちゃんと話してもいないくせに、一人で勝手に解釈するのは恥知らずだということを祐希もすでに知っている。これで悪口を言われても安いが、すぐに事実を打ち明ける勇気が出ない。単に、このような率直でない姿に目をつぶってほしいだけだ。
「訳もなく相手を意識する必要がなさそうなので。」
誰よりも栞奈を意識するのは祐希自身だという事実を明らかにしながらも、実際にこういうことだけを言う。自分から見ても良心のない仕業に違いない。
「ええ、知らないと言われたら仕方ないですね。ありがとうございます。」
弘は祐希が平気なふりをするのを、訳もなく不安に思う自分のための一種の励ましとして受け入れることにする。
「そうだね。疲れているはずなのに。ゆっくり休んで。」
このように電話を握っていては申し訳ない気持ちで、変なことを言いそうだ。中身のない嘘ばかり並べるくらいなら、早く電話を切った方がよさそうだ。
「はい、よい夜を。」
彼もやはり残念な気持ちを畳んでおく。
弘と祐希が自分だけの理由でまともに言えない気まずい思いにとらわれて、お互いさまよってばかりいる間に、栞奈はその真実が抱かせる苦々しさを味わっている。彼女は自分のライバルが誰なのかはもちろん、彼を選んだ人が誰なのかまで知ってしまった。お互いに絡み合った人物関係をじっくり振り返ってみると、頭の中が複雑にならざるを得ない。このように複雑な因果関係で構成された縁から、自分が出せる最も明快な答えは、その対決で勝って文芸部に必ず入ることだと思う。この明確な目的意識こそ勝利への近道だ。
一方、桃香の電話がにぎやかに鳴る。
電話がかかってきたのは紗耶香だ。
「もしもし?」
紗耶香は栞奈にこれがどういうことなのか問わざるを得ない。
「もしもし?」
今朝とは正反対に、今回平然と相手を受け入れるのは桃香だ。
「これはどういうこと?栞奈がお前の味方になったことを知ったんだって!」
紗耶香は自分が今栞奈と話したことが記憶に生々しく残っている。
「どうして分かったの?」
「今それが重要なことではないじゃない?」
このように重要な事実を知っていながら、何も知らないふりをしていたのが不満なだけだ。
「それでは何が大事なの?」
「あなたは知っていたでしょう?祐希がどれだけ栞奈を味方にしてほしかったか。」
「最初は知らなかった。」
言い訳のように聞こえるかもしれないが、実は先に電話して文芸部に入りたいと言ったのは栞奈だった。桃香は極めて偶然に訪れた機会が、その賭けの意味を実現する良い機会だと思って受け入れただけだ。ただ栞奈がやってほしいという通りにしてあげただけだ。
「それを今の言葉と言うの?それはとにかく後で分かったってことじゃない?なんとかね。ああ…そうだね。前にどうしてあなたが選んだ候補があの子だという事実を隠したかったのか、今は分かる気がする。ちゃんと理解できる。」
「そう、そう。誰が先に知ることになっても不便な真実だったんだ。これを運が悪かったと思うべきかな?それとも良かったと思うべきか?」
少しずるいとは思っても十分理解できる。
「それでは…」
「まあ… 予想していたよ。どうせいつか明らかになると思っていた。私の口から言いたくなかっただけなんだ。実はあなたの言う通りだよ。正確に言うと、私がこうやって作ったんだよ。私の味方として栞奈が来て、祐希の味方として弘が行くようにしたんだ。全部私が仕組んだことだよ。」
このようになった以上、あえて知らないふりをする必要はないと考えると、むしろ良かったことだ。 ただ先に話を持ち出す適当な機会がなかっただけで、特に隠したかったわけではなかった。 むしろ自分のしたことに堂々としている。
やっぱり、紗耶香はそれを聞いて言葉を失ってしまう。
先に電話して問い詰めたのは紗耶香だったが、桃香は驚いて石のように固まってしまった紗耶香に代わって、この会話を直接進めることにする。
「そそれで言いたいことがあるんだけど… 実はやりたいことがあるんだ。」
どのように話すか悩んでいたけど、先に電話してくれてありがたいよ。
「何がしたいの?」
「あなたも今頭の中では私が本当に恥知らずの子だと思っているでしょう?」
紗耶香はそれを聞いて何も答えない。
桃香もやはり何ともないように、ただ自分が言いたいことを続けて話す。
「あ!そして本論を持ち出す前にもう一言。 少し図々しく聞こえるかもしれないけど、これはお願いじゃないってことだよ。」
「じゃあ?どういうこと?」
「一種の要求だ。」
「要求?何がしたいの?」
「サプライズパーティーと中間点検だよ。」
「どういうことだ。」
「うちの部員3人と新入部員2人を文芸部の部室に招待して会いたいんだ。」
「何を企んでるの?」
「実は最初に弘を祐希の味方につけてから、栞奈が私に電話してその事実を知らせてくれたとき、私は栞奈を文芸部の部室に招待しようかと思ったけど、祐希に会うのではないかと思って我慢したんだ。 偶然であれ縁であれ、お互いにそのように出会って良いことはないと思ったんだ。 どういう意味なのか理解できる?」
紗耶香はやはりそれを聞いて返事がない。
桃香は声を一度整えて話し続ける。
「実は、あなたの話を聞いて考えが少し変わった。 まだ確信が持てない。 だからこれをやりたいんだ。 会ってみんなで会話をしてみれば、何か分かるんじゃないかと思って。」
「何の確信?」
「それは後で出会いが終わった後に教えてあげる。」
「そう、それにしても結局弘をどう誘引するつもりなの? 今こんなことをしておいて私に助けを求めるわけではないでしょう?」
「もちろん、違うよ。ただ、私が弘に直接会って言いたいことがあると言っても、彼は素直に出てこないだろう。あなたもそう思うよね? 私があの子にひどいことをたくさん言ったから、第一印象がちょっと悪いのよ。」
「だから私も考えがある。」
「何を考えているの?」
「私の考えでは、弘はまだ自分の相手が誰なのか分からないと思う。そうでしょう?」
「それは…」
「いや、そもそも弘を自分の候補にしている祐希が、その相手が栞奈だということを知っているのかな?たとえ知っていたとしても、弘には知らせなかったと思う。むしろ知っているから、どうしても自分からは言いづらかったんじゃないかな。私がそうだったようにね。状況は少し違うけど、少なくともこれは祐希が事実を言う勇気があるかどうかの問題じゃないと思う。あなたもそうじゃないか?」
「それは…」
「だから私が祐希の代わりに教えてあげる。まあ、祐希の境遇を考えると、こんな親切に感謝すべきかもしれないよね?そうじゃない?弘は自分の相手が誰なのか今でもすごく気になるだろうから、理解できると思う。」
「それは…」
「私が弘に相手が誰なのか教えてあげると言ったら、彼はこのサプライズパーティーに必ず参加するだろう。弘を誘うための最高の手段じゃない?」
「栞奈を文芸部室に呼ぶのは別に難しくない。どうせ私の味方だし。どういうわけか気になるだろう。これが栞奈がその提案を受け入れる理由だろう。自分の相手である弘がいるのを見たら、びっくりするだろうね。」
「あなたも弘と栞奈がどんな人たちなのか知りたいって言ってたよね?」
「要求という表現が少し強かったかもしれないけど、これはあなたが私の言葉を断ることができないと思って言ったんだ。実はこれがあなたにとっても良い機会になると思うから。」
「正直、あなたも気になるでしょう?二人が会ってお互いを初めて見たとき、どんな反応を示すのか。そして、何を言うのか。」
「実は、こんなことを言う私も気になる。だからやるんだよ。」
「弘の状況を考えると、やっぱり気になるでしょう。ただ少し疑う程度だったけど、今朝あなたの話を聞いてからすごく知りたくなった。」
「なんで黙ってるの?いい考えだと思わない?」
桃香はそのように期待感に膨らみ、しばらく話し続けた後、紗耶香の反応をちらりと見た。
「あの、私の言うことを聞いているの?」
桃香は声を少し落ち着かせる。
「そ…それが…だから…」
紗耶香はあっけにとられて言葉がまともに出ない。
「うん、うん。私の言うことを聞いてくれて苦労したよ。まず弘に話してから、詳しい約束はメールであなたに送ってあげる。」
桃香はこれを紗耶香の同意と見なし、計画を実行に移そうとしている。
弘が最初に電話をかけたときの記録が桃香の携帯電話に残っている。
その番号に直接電話をかけることにした。
一方、弘は相変わらず自分の相手が誰なのか疑問に思っている。祐希がゆっくり休むようにと言ったが、いくらしたくてもそうはできない。誰よりも彼自身がその事実をよく知っている。
その時、電話がかかってくる。
弘は桃香の番号を見てぎょっとする。
桃香からの電話を内心では望んでいたが、先に電話がかかってくるとは思わなかった。
慎重に電話に出る。
「もしもし?」
「もしもし?」
「よく受け止めてくれたね。この番号をまだ覚えているようだね?」
「では、どうやって忘れられるでしょう?絶対に忘れられません。」
「ところで、なぜですか?」
桃香と対話を交わす機会があれば正式に謝ろうと決心していたが、実際にこうなるとどんな用件なのか疑わざるを得ない。
「とりあえず、おめでとうございます。候補になったこと。ずいぶん遅くなりましたね。」
彼女も彼が非常に警戒していることに気づき、慎重に言い出す。極めて当然の反応だと彼女も予想していた。
「今その話をしようと電話したわけではないと思いますが?」
訳もなくお祝いでも伝えようと電話をかける人ではないことはすでに知っている。
「それも一理ありますが、違うとも言えないのではないですか?私の用件がこれと関係ないと言ったら、いざ私がこんな遅い時間にあなたに電話する理由もないでしょうから。」
「それでは何のために電話をしたんですか?」
「相手が誰か知らないでしょう?このように警戒ばかりする弘を余計な言葉で和らげることはできないと思う。訳もなく時間を延ばして疑われそうなので、すぐに本論を持ち出す。」
「そ…それは…」
まともに的を射る。
「そして知りたいでしょう?」
やはり短剣のような言葉で弘の胸の奥底を突く。
静寂が流れる。
「やっぱり予想通りだったね。」
彼女も内心予想していたことを落ち着いた口調で再確認し、計画が成功したも同然だと断言する。
「まあ、祐希が教えてくれなかった理由は…もしかしたら知らないのかもしれないし、知っていてもどうしても言えなかったのかもしれないね。」
同じ話を二度としたくはない。事実、今の状況ではただそうなんだと思って見過ごせば済む問題だ。この計画でこれ以上この部分が核心ではないということだ。
「それはどういう意味ですか?知っていながら言わなかったということですか?」
「そうかもしれないということです。それで私が今電話をかけたんです。直接その相手が誰なのか紹介しようと思います。」
祐希には痛い真実だろうが、桃香にはあくまで弘を誘う一種の手段に過ぎない。
「本当ですか?」
急に電話してこんなことを言うから疑わざるを得ないが、これ一つだけは確信できる。
「何をおっしゃっているんですか?」
「祐希がこれを知っていようが知らなくても、簡単に教えてくれないということです。私があえてこの提案をする理由です。どんなに良い機会なのかピンときませんか?今すぐ言えるのは、この機会でなければ文化祭の日まで相手が誰なのか分からないということだ。どうせその時になれば知りたくなくても分かるだろうが…気になりますよね?相手が誰なのか知りたいでしょう?」
弘は何も言わない。
桃香は弘の沈黙が何を意味するのか気づき、ため息をつく。当然、このような反応を見せるだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます