第4話 : 舞台探訪 [5]
彼らは出てきて、みなとみらいの方に向かう。 もしかしたら、この旅行で最も重要な行事である花火を見逃すわけにはいかない。 まだ始まる前だが、近くで開かれている夜市はすでに賑わっている。 道の両側に並ぶ露天商からおいしそうな匂いが漂ってくる。 少しでも良い席を取るために早く動かなければならないと思い焦るが、本能的な空腹を刺激する匂いに足を止めざるを得ない。湯気が立ち上るたこ焼きを買い、花火がよく見える場所を確保する。 広々とした海に近いためか、都市の高い建物や目まぐるしい光に邪魔されることなく、完全に花火を楽しめる場所だ。
肌寒い夜の生臭い海風に当たりながらたこ焼きを口に運ぶと、しばらくして薄暗い空に大きな音とともに色とりどりの花火が打ち上げられる。 目を引く美しい光景に、自然と胸がいっぱいになる。
「来てよかった。」
「そうですね。花火が本当にきれいですね。」
「今日一日はどうだった?」
「正直に言ってもいいですか?」
「もちろん。」
「正直、残念でした。」
「計画通りにできなかったから?」
「はい、だからこそ、今こうやって花火を見ていると、もっと感激しているような気がします。計画していたことをするのですから。 はじめに。 内心では、この美しい光景を見ながら、明日だけでも計画通りに進むことを願っています。」
華やかな光が舞う花びらのように消え、漆黒が空を覆うと、結城と弘は終わったことを直感し、席を立つ。 まっすぐホテルに戻る。 チェックインの時よりもさらに居心地がよく感じられるのは、それだけ疲れがたくさんたまった証拠だということが明らかだ。
疲れた一日が終わり、旅行2日目の日が昇る。
弘は朝遅く、カーテンの隙間から差し込む日差しで自然に目が覚める。 ベッドから起きて、あくびをしながら伸びをする。
「おはよう。」
「おはよう。」
夢うつつのまま、トーストとコーヒーで空腹を癒しながら、ぼんやりと横浜の朝の風景を眺める。 平和な朝をゆっくり楽しもうとしても、どこかへ忙しく動く人たちを見ていると、理由もなく焦りが出る。 ひょっとしたらその逆かもしれない。昨日計画した場所のほとんどに行けなかったことを思えば、怠惰をこのように合理化しようとしているのかもしれない。 本当に残念だが、実はすぐにここに戻ってチェックアウトしなければならないことを考慮すると、どこかに出発するには少し微妙な時間だ。
「いらっしゃいますか?」
ちょうどその時、ドアの方からノックの音と共に見慣れた声が聞こえる。
「こんにちは。」
祐希が玄関に近づきドアを開けると、昨日会った職員が明るい表情で立っていた。何か言いたいことがあるようだ。
「今日チェックアウトはいつするつもりですか?」
「あ、2時ちょうどにするつもりです。」
昨日私どもの事情でチェックインが遅れたことを謝罪する意味というにはちょっとあれですが、ご希望でしたらチェックアウトをもう少し遅くしても大丈夫だと思います
「本当ですか?」
「はい、その部屋に今日予約されたお客さんもいないので、もう少し使ってもいいですよ。 まともな補償になるかは分かりませんが、無駄足で時間を無駄にさせたことが申し訳なくもあり。」
「うれしいことですね。 おかげさまで計画していたところに行って来れそうですね。」
2人はこれ以上ためらう必要がないと思い、直ちに宿舎を出てベイブリッジの方に足を運ぶ。
彼らが目的地に近づく頃、栞奈は山下公園をゆっくり歩いている。
みなとみらいに戻ろうとした時、昨日警察官が言ったことを思い出して余計に不安になる。
彼女が首をその方向に向けると、誰かが茫然自失のまま座り込んでいる。 ある男性が速いスピードで遠ざかっているのを発見する。 彼女はそんなに急いで走っている人が昨日のスリかもしれないと思う。 彼女は漠然とした本能に導かれ,警察から与えられた番号を押しながら彼を追いかけることにした。 応答を待つが、いざ通話連結音だけが聞こえるので、ただもどかしいだけだ。 結局、緊迫した状況でこれを電話で知らせることを諦める。 現在位置とどこに向かっているのかだけ簡単に文字メッセージで残して、すぐ目の前にあるスリに集中することにする。
しばらくそのように走っていたが、単に追いかけるだけでは到底追いつけないという気がして、すぐ近道に乗って彼を追い越すことにする。
しばらく前だけを見て走っていたスリが息切れしすぎてしばらく止まって振り返り、まさにその時に自分を追いかけていた彼女が消えたことに気づく。
いつの間にか自分を追っていた彼女が消えたことに気づき、慌てて周囲を見回すが、誰もいない。
「ふぅ…諦めたのかな? 仲間はずれにしたようだ。」
彼は息を切らしながらつぶやく。
ちょうどその時、彼女が彼の前に現れる。
「まだ安心するには早いんじゃない? 鬼ごっこはまだ終わっていない。」
彼はその声を聞いて気がつき、すぐ正面を見る。
「えっと…どうやって?」
彼がゆっくりと後ずさりしながら逃げようとした時、誰かが後ろから近づいてきて肩をつかむ。
栞奈の通報を受けた警察官だった。
「とりあえず警察署に一緒に行っていただけますか?」
「あまりにも遅く来たんじゃないですか?」栞奈はその姿を発見してにっこり笑いながら近づく。
「すごいですね。 スリを追って捕まえるとは。」
「まあ、別に大したことでもないですよ。生まれ育った場所なので、近くの地理にはよく詳しいんです。」
ご協力ありがとうございます。
警察官はこのうれしい知らせをすぐに弘に伝えようと電話をかける。
一方、この事実を知るはずがない弘と祐希はベイブリッジをのんびり歩いている。 心身を自然に託したまま平和な午後のひと時を楽しんでいる。 元々望んでいた場所に来て感じる安らぎと満足感がこのように甘いということを改めて悟る。 海風を味わいながら開けた風景を見下ろしていると、弘のポケットにある携帯電話が騒がしく鳴り響く。 番号を見ると、昨日のあの警察だということが分かる。 スリに関わる電話に違いないという思いで内心喜んでいるのに、何が起こっているのか分からず不安になる。
「もしもし?」
弘は期待半分心配半分で慎重に電話に出て、震える声で言い出す。
「うれしい知らせです。 スリを捕まえました。」
「本当ですか?」
「はい。財布は横浜駅警察署で保管していますので、すぐに来ていただければと思います。 手伝ってくれた方も一緒にいます。」
弘は半ば諦めていたが、警察の連絡を受けて驚かずにはいられない。
「はい。二度と見つからないと思っていたのですが… 運が悪いだけではなかったようです。」
今この状況で笑うべきか泣くべきか分からない。 せいぜいこのように到着したのにすぐ戻らなければならないというのが信じられない。
「スリを捕まえてくれた方が待っているので、早く警察署に行って感謝の挨拶でも伝えるべきではないでしょうか?」
弘が祐希をちらりと見る。
「ここから産経園に行けないのは残念だけど… 戻らなければならないのかな?」
「そうしたほうがいいと思います。」
「今駅の方にある警察署に行けば、時間がなさそうだけど、そのまま東京に戻らなければならないと思う。」
「こうしていると、スリを捕まえてくれた方に感謝の言葉を伝えることができません。私の個人的な都合でずっと待たせるのは礼儀ではないと思います。だから、諦めます。」
「それでも大丈夫?」
「はい、大丈夫です。 残念ですが、特に未練というものはありません。 十分面白かったです。」
一方、警察署では栞奈がまだ待っている。
「何か私がもっとやるべきことはありますか?」
「特にそんなことはありませんが、そのまま待ってから行かれてはいかがですか? 財布の持ち主がいらっしゃって感謝の気持ちを伝えたいということなので、簡単にでも補償してくれると思います。」
「その財布を私がしばらく見てもいいですか?」
補償を求めていたわけではありませんが、その持ち主が誰なのか気になる。
「はい、どうぞ。」
彼は彼女に財布を渡す。
彼女は財布の中を見てみると、元の持ち主のものと見られる写真を見つけてびっくりするが、感情を隠そうと努めてにっこり笑いながら財布を警察に再び渡す。
「すみませんが、先に行かなければならないようですね。」
彼女はまるで何事もなかったかのようにそっと席を立つ。
「大丈夫ですか?」
彼は首をかしげて尋ねる。
「いいえ。 ただ急に急なことを思い出してこれ以上待つことができないようです。」
栞奈は努めて平然としたふりをする。
「どうしたんですか? とても重要なことのようですね。」
「はい。そして、その方が私に会うことをむしろ気まずく感じるかもしれません。」
確かに今週末約束があって旅行に行くという話を聞いたが、まさか弘の目的地も横浜だったとは想像もできなかった。 両目で証拠物を見ても信じられない。 弘が旅行の提案を断った理由がまさにこれだということだ。 栞奈もやはりその事実を知っているので、今このように割り込んでは弘の旅行に冷水を浴びせる格好になりそうだ。 一見財布を取り戻してくれた恩人として会うのが嬉しいかもしれないが、この偶然ではなく偶然がもたらす状況を想像してみれば絶対に良い姿が描かれない。 ただ、お互いに戸惑ってぎこちないだけだと思う。
「それは…どういうことか?」
「そうですね?よくわかりません。」
栞奈は弘がここまで来た理由を考えざるを得ない。 まさかその小説のせいかな? それともただ海を見たくて?
「偶然のように見えたのが実は縁だということが明らかになるのも適当な時があると言うべきでしょうか?」
これは本当に偶然なのか? お互いに会わせようと誰かが組んでおいたずるい計略ではないか? いや、今はそんなことが重要なのではない。 このように時間を延ばしては余計な誤解を招くだろう。 旅行の提案を断ったのが不都合で、変な邪魔をしたのではないかと疑われるかもしれない。 感謝の挨拶どころか、どうすればいいのか分からず、目もまともに合わせられないだろう。 互いにそんな一部始終などを問い詰めているはずがない。 あなたがなぜここにいて、私とこの状況で出会うのかと考えるだけだ。
「私はこれで失礼します。時間があるわけではありませんし、ここでじっとしているわけにはいかないようです。」
栞奈は最後まで平然と笑顔を維持するが、まるで自分がスリでもなったかのように一時でも早く抜け出そうとする。
一方、結城と博は警察官から財布を取り戻したと聞いて期待感にふくらんで警察署に到着したが、栞奈がすでに去った後だった。
「ああ!来たんだ。」
警官は2人を歓迎する。
「ここに財布があります。 合っているか確認していただけますか?」
彼は2人に近づき、財布を渡す。
「はい。 」
祐希は財布にがらくたがそのままあることを確認してから安心してポケットに入れる。
「本当によかったですね。」
「ところで、あの方はどこにいるんですか?」
「それが…先に急用があるから去られました。」
「お礼を言うためにベイブリッジからここまで来たのに。」
「私も少しだけ待ってくれと言ったのに、先に去っていきました。」
「あ…残念ですね。」
「それでも財布を取り戻す仕事を手伝ってくれました。」
「はい。それでありがとうという言葉を必ず伝えたかったのですが…」
栞奈が待たずに飛び出した本当の理由を知らない弘は、そんなありがたい助けてくれた人の顔を直接見られないのが残念なだけだ。
弘は警察署を出るが、失望感にとらわれて元気が抜ける。 元々計画していたところに行くことをあきらめてここに来たが、いざその人が待たずに去ってしまって会うことさえできないので、もしかしたら虚しくないのがおかしいのだ。 ここに来た意味がなくなったので無駄足を踏んだと言うべきだ。 三溪園に寄ってから宿舎に戻ればちょうどよかったのに、急に時間の空白ができたので、どうやって埋めればいいのか悩む。
「ベイブリッジに再度行くのは面倒ですが、近くでまだ行っていない場所があるのか?」
曖昧に残った時間をつぶす場所を探そうと思う。
「私が一度探してみます。」
弘は携帯電話を取り出し、近くに簡単に見回るのに良い旅行地があるか検索する。
「いいよ。」
「横浜イングリッシュガーデンというところがありますね。」
検索で出た青い海の写真と高層ビルの写真の間から色とりどりの花で飾られた庭園が目に入る。 港町なので当然のことだが、よく考えてみるとここに来て見た自然景観が海しかないようだ。 このようなユニークな感じがするところもいいと思う。 自然に楽しみだ。
「そこに行ってみたいの?」
「はい、写真で見ていますが、とてもきれいなところだと思います。」
ただインターネット検索だけして下した決定だが、今はこのような選択がただ淡々となる。 最初は計画通りにいかなかったのが失望したが、このような即興的な決定でそれなりに思い出を作り満足感を感じたため、今回もそうだろうという漠然とした信頼が生まれる。
「そう、そこに行ってみよう。」
弘の満足感が一番重要だという考えで下す決定だ。 これまで計画があまりにも狂って内心がっかりするのが気になるからでもある。 インスピレーションを得るどころか、余計に来たという後悔ばかりするかもしれない。
一方、栞奈は警察署を出てすぐに宿舎に行き、チェックアウトを済ませる。行きたいところはほぼ回ったと思うが、まだ東京に戻る列車の時間までには余裕がある。 ぼんやりと海を眺める。 こんなに景色が美しいところなのに、さっきはスリを捕まえるのに気を使っていたので、どうしてもまともに鑑賞できなかった。 あれこれと予想できなかったことが起きた旅行2日目も徐々に暮れている。 果てしなく流れていく時間はどうしても掴めなくて旅の終わりに残っている余韻だけを吟味している。 泊まった場所と起きた事件をじっくり振り返ってみる時間を持つのも旅行の醍醐味ではないかと思う。 ベイクォーターで警察官と出会い。ラーメン屋。 みなとみらいでスリの追跡。 警察署で知り合った事実。 すべてを一つずつかみしめてみるこの瞬間さえ、遠い未来にはもう一つの回想になっているだろう。 昔の記憶を振り返りに来た旅行でむしろ多くの思い出を得ていく感じがするが、単純に気のせいではない。
いざこのような考えをしていると、ただ去る前にこのような思い出を記念する何かを買いたくなる。 このまま時間が経てばまた鈍くなることは明らかだが、とても残念だ。 この感情と印象を実際の形のある物に直接込めて未来に残したい。 彼女はまっすぐ元町に向かう。まるでその二人がどこに行くかを知っていたかのように、正反対の方向にある目的地へ向かう。 賑やかな通りに両側に並ぶ商店をのぞき見ていると、ふと目に入るお土産屋さんへ行く。 多様な物が期待とときめきを刺激する。 余裕のある気持ちでゆっくり見て回って決めるつもりだ。
彼女がそこで買うものを選んでいるとき、彼らは庭に到着する。 風に乗ってくるさわやかな草の香りが鼻をつくと、その事実が実感できる。 写真を見るだけでは絶対できなかった経験だ。 一周ゆっくり回ってみようと思う。
「これが最後の場所ですね。」
「そうだね。もう終わりだね。」
「昨日はこんなふうになってここにいるとは想像もできなかったが… いや、こんなところがあるなんて知りませんでした。」
「ここでどんな思い出を残すことができるでしょうか?」
「思い出?」
「はい。今まで立ち寄った場所で全部いろんな思い出を残したじゃないですか? ここでは何が起こるか楽しみではありませんか?」
「そうだね。」
「じゃあ、今度は私たちが直接何かをしてみたらどう?」
「やってみるんですか?」
「そうだね。今まで望まないことばかり起きたんじゃない? これからは何か望むことをしてみるんだ。 今何がしたい?」
「私は自分のやり方で楽しんで、楽しみを見つけたいです。」
弘はそんなに誰にも邪魔されず、気の向くままに足を運ぶ。 感慨深い。 花の香りに魅せられて一堂に会したまま写真を撮ったり、あてもなく花道を歩いてみたりする。 さっぱりしている。足取りも羽のように軽い。 このように改めて感じる自由な気持ちは何かじっくり考えてみる。 結論は簡単だ。 今までその小説人物の足跡をたどってみようとすると、これが自分の旅行だということを忘れていたようだ。 初めて自ら下す決定ということだ。 どこかに必ず行かなければならないということもなければ、何かを必ずしなければならないということもない。 いざその影から抜け出すと、自分の行く道とする行動が別に新しい話になる。 ふと自覚し、その当時計画したところに行けず、計画したことをできなかった時に失望するだけだった自分が残念で恥ずかしく感じることもある。 その小説が定めた道に縛られて、このような旅行でこのような感情を感じる機会を最後になってようやく持つというのが自分に申し訳ないだけだ。 その小説が伝えようとする主題とかけ離れた経験だったが、もしかしたらすべてのことがこの事実を悟らせるために起きたようだ。 これが自分の話であり、その小説とは別物だということです。 小説人物の心を感じてみることを目的とした旅行なら、失敗した計画であることは明らかだが、自分のやり方で楽しみながら、自分の話の主体は私だということを発見する旅行なら、この上なく大成功したものだと思う。
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