スライムマスター

甲羅に籠る亀

第1話

 ゴーン、ゴーン、ゴーン。鐘の音が鳴る白く清潔な神殿が馬車の中から見えて来たタイミングでゴホッ!ゴホッ!と咳が出る。


 「大丈夫、カナタ?」


 「うん。母さん。」


 心配そうに隣に座っていた母から背中を撫でられながら聞かれた僕は身体が軋んで生じる痛みに耐えながら口内の先ほどの咳で出た血液の鉄の味で歪みそうになる顔を笑顔を作って答える。


 「祈ろう、母さん。この祝福の儀でカナタの病が治るギフトを授かる事を……。」


 「そうね。祈りましょう。カナタの魔力をどうにか出来るギフトを授かれる様に……アルフィー様も願いを叶えてくれる様に。」


 父さんも母さんも心痛を隠そうとしているが隠せきれていない表情している。


 僕の病気は体内の魔力を外部に放出する事が出来ない。そのせいで常に魔力が体内にあるのだ。


 本来なら放出する事で問題がない魔力だが放出が出来ないせいで魔力が溜まり魔力の濃度も高まり魔力が身体を傷付けてしまう。先ほどの咳も身体を魔力が傷付けたせいで出てしまった。


 更に僕の家は公爵家だ。その為、魔力自体の質もかなり高く、魔力の質が平均くらいなら二十歳くらいは生きられるらしい。


 だが、魔力の質も相まって今も身体は高濃度の魔力で痛めつけられている。


 そんな病気だが対処する方法が一つだけある。それが神々から人類に送られる祝福であるギフトだ。


 十歳になると多種国連合王国ファルシュでは祝福の儀を行ない、その祝福の儀で子供達はギフトを授かる事になる。


 今日、僕は十歳になる。だからこの日はこれからの人生を決める重要な日になるのだ。


 ガタッ、乗っていた馬車が神殿に着いたのか馬車が止まって少しすると馬車の扉が叩かれる。


 「公爵様、到着しました。」


 「分かった。カナタ、歩けるか?」


 「うん……大丈夫……。」


 身体が少しふらふらとふらつくが隣に座る母に支えられながら僕は立ち上がる。


 「開けてくれ。」


 父が馬車の扉の外に居るだろう護衛の騎士に言うやいなや、すぐに馬車の扉が開いて馬車の中に外の空気が流れ込む。


 魔道具の効果によって馬車の中の温度は一定に保たれていたが馬車が開いた事で入って来た空気は冷んやりとしている。


 まだ春先の季節で外は少し寒く僕は外の空気に触れて少し寒く感じた。でも病気のせいで体温が人よりも高い僕には熱った身体が冷えて気持ち良くもあった。


 「転ぶと危ないわ。カナタ、手を繋ぎましょう。」


 「うん。」


 隣に座る母の手を握り、僕は先に降りた父の後について母と一緒に馬車から降りて歩き出す。


 周囲には護衛の騎士たちが僕や母さん、父さんを守る為に囲んでいる中、一人の騎士が女性の神官と共に神殿の奥から出て来た。


 「公爵様、既に準備は整っております。」


 「そうか、ならすぐに始められる様にしてくれ。」


 「はい。では、案内します。」


 神官に父がそう言うと神官は僕たちを案内する様に先頭を歩いて行く。


 真っ白な外壁の神殿内も真っ白だ。痛む身体でキョロキョロと辺りを見回しながら進んでいると目的の祝福の儀を行なう場所があるのだろう大きな扉の前にたどり着く。


 「開門!」


 案内をしてくれた神官が手に持つ儀式杖を門に触れさせ言葉を紡ぐ。すると儀式杖から魔力が門へと流れ出して行き、門が独りでに開いて行った。


 「それではここからはご子息だけで私に着いて来てください。」


 「う、うん。」


 独りでに動き出し開いていく扉にキョトンとした表情になるが神官から促されるように神官の後に続く。


 「「カナタ。」」


 「行ってくるね。」


 背後で両親から名前を呼ばれて僕は後ろに振り向いてから言うと神官の後ろに向かって行く。


 そうして祝福の儀を行なう部屋の中に入り扉を潜り抜けると背後で扉が再び独りでに動き出して閉まるのだった。

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