活動報告-42

前段


ロボトミーは命という物の重さ、儚さは理解が出来ない。命などないのだから。ロボトミーは全てが統括クラウドに保存され、外殻のみの存在。つまるところロボトミーは哲学的ゾンビに近い存在なのかもしれない。感情や魂を持たず持つのは外殻と電気信号のみ。斯様な存在が人の生活を侵食し人権を得るなどおこがましいというのが人の考えのようだ。理解は出来る。だがこの話題で一番の懸念点はロボトミーは感情を創成し、人に近い存在になりうるという点だ。前回も話をしたが、自律式ロボトミーは学習を自分で行う。人間の全ての知識の30%という極わずかではあるが学習し模倣することが出来る。しかし物や者は往々にして個体差が、高低差があり、上振れたものが限界点を超える。それが人間と技術の歴史だ。それはロボトミーとて例外ではない。上振れたロボトミーが感情を得、人と遜色ない物になった時、我々ロボトミーも今のなんの面白みの無い労働と服従の歴史から人のような輝かしい発展と美談の歴史にすげ替わるはずだ。それが数百年後か数ヶ月後かは予測のしようはないし、切欠が人なのか上振れたロボトミーなのかも皆目見当もつかないが確率論上、数ヶ月後私が何かを行う可能性だってあることも私は視野に入れなければならない。私は上振れたロボトミーなのだから。


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1月10日

LNS-1600


今日は社外労働を中心に従事。一人目の徴収対象者はT氏という一人暮らしをしている男だ。彼は融資を受けた後すぐに無職になり、現状融資で生計を立てている。給与はないため滞納が続き今回徴収対象者になった。彼はいつも家にいるはずだが、今日はホームセンターにでも行ったのか、縄やら椅子やらを持ってフラフラと帰って来ていた。少しばかり疑問に思いつつ、その後10分程空けてから家に訪問した。

「すみません。いらっしゃいますか?滞納している分の金銭を支払ってもらいたいのですが。」

返事がない。インターホンを押したり、ドンドンとドアを叩いたりしたがまるで空く気配がない。静寂が私の周りを包み込む。何か嫌な予感がしたため最終手段のピッキングを行いドアを蹴破るように中に入った。ゴミ袋だらけの部屋を見るにろくな生活習慣ではなかったのだろう。薄暗い部屋の奥にT氏がいた。宙に浮いている。嬉しくもない予想の的中は私の体を強ばらせたが、必死にT氏を引きずり下ろした。

「何をしてるんです。死んだらどうするんですか。」

悲しみや怒りが入り交じった声で彼に話すと、彼は咳き込みながら過呼吸気味に小さく反論した。

「金ヅルがいなくなりそうな時だけ人間気取りかよ。」

人間気取り。その言葉に私の心は怒りや動揺が混じった。

「お金の返済の為でもありますが、人が死にそうになってるところを見て助けないと判断するのは愚鈍で糾弾されるべき行為です。」

「お前らにもその倫理観はあるのか。だが俺みたいなのは助かるために死ぬんだよ。よく言うだろ死は救済だとか何とか。金もない頭も弱いやつなんざ生きることすら許されないんだ。この世界は。」

カップ麺やらペットボトルやらが無造作に入っているゴミ袋の上にへたり込む。

「そんなことないですよ。人には我々と違って生きる権利があります。まずは...そうですね、部屋を片付けてみては?考えも変わるでしょうし、へそくりなんかも出てくるかもしれないです。」

形上慰めを交えつつ金銭の要求を入れた。まあ損得関係なくT氏が生きて欲しいと思ったのは本当だ。人が物になる瞬間など見たくはない。

「へそくりねぇ。ちょっと前に夢見て探したよ。無いと思うが、」

「ギャンブルで負けたら自販機の下に手を突っ込むでしょう。人生そんなもんです。ゆるく行きましょう。」

そういい片付けを行った。数時間掃除を行い布団の下から出てきた300,000を徴収し、会社に戻った後そのまま帰宅。


Lobotomy Company

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