第18話ヨランドside
私の名はヨランド・ギヌメール。
ランドルフ殿下の側近をやっている。ランドルフ殿下とは幼い頃からの友人であり、配下でもある。
それこそまだ幼い間はマークとランドルフと三人で追いかけごっこをして一日中遊んでいた。マークともランドルフとも気が置けない仲間なんだ。ランドルフが勉強を始めた頃、俺達も側近としての教育が始まった。
マークは騎士として、俺は文官としてランドルフの側近になるために勉強や剣術に励んでいるんだ。
そして学院に入ってからはオディロン・ジョクス侯爵子息とドニ・ルロン子爵子息が新たに側近として加わった。
自分で言うのも何だが、優秀な側近でランドルフ殿下の回りをしっかりと固められている。
ランドルフ殿下に近づこうとする令嬢達をそっといなし、殿下と節度のある距離に保つようにする。
ランドルフ殿下の性格は一言で言えば温和。優しい顔で微笑めば令嬢達は殿下の虜になる。
昔からそうだった。
小さな頃はお茶会でよく女の子達とも一緒に遊んでいたのだけれど、ある日を境にぴたりと遊ばなくなった。
いつも側に置くのは私とマークだけ。不思議に思ってはいたが、殿下はボーッとしている時間が多くなった。話し掛ければ応えるし、勉強だって手を抜いているわけではないんだ。
どこか遠い目をして何も手につかないような、魂が抜けたような姿を見せる。
それが俺達にはとても不安だった。
感情の起伏はとても薄くて儚く散ってしまうのではないかと思える時もあった。
そして七歳になった時、殿下の婚約者になる令嬢を決める予定だったのだが、殿下はまだ要らないとお茶会で婚約者を決めることはなかった。
陛下や王妃様達はとても心配していたけれど、まだ幼いからと許している。許されているのは幼いだけが理由ではない。
王妃様は第二王子殿下をお産みになり、そちらに手が掛かっているからというのもある。
でも、殿下はとても聡明なんだ。
どう説明して良いかわからないけれど、私よりも何倍も年上のような気持ちに時々なるほどに。
私もマークも殿下を追いかけるのに必死になった。そのおかげか、周りの私達への評価はすこぶる高くなったが。
ある時、令嬢に一かけらも興味を示さない殿下に王妃様は痺れを切らしたようで水面下で婚約者候補を選んだ。
ヴェーラ・ヴェネジクト侯爵令嬢、クラーラ・ブレンスト公爵令嬢、コリーン・レイン侯爵令嬢、アメリア・ハイゼン伯爵令嬢の四人だ。
彼女たちは王妃様から内々に婚約者候補を打診された令嬢達。本人達も婚約者に選ばれようと必死だ。
ランドルフ殿下を含め皆Sクラスでの生活が始まった。
彼女達の周りは一見和やかに見えるけれど、ランドルフ殿下と親しくなるために水面下での争いが日に日に激化している状態だ。
これにはマークもお手上げの状態。
私達は令嬢達から避難するように生徒会室に入り浸るのは仕方がないだろう。
そんな中、ランドルフ殿下の仕草に違和感をふと感じた。
最初は気のせいかと思っていたが、どうやらその違和感は気のせいでは無かった。
殿下は明らかに一人の令嬢を見つけては目で追っている。
そう、彼女の名はユリア・オズボーン伯爵令嬢。彼女は謎が多い。貴族令嬢であればお茶会の一つでも参加しているものなのだが、今まで彼女を見たことがない。
殿下が気にする女性。
きっちりと調査しなければならない。
私は諜報部に彼女を調べるように依頼した。調査の結果を見て驚いた。
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