第4章:帰郷の決意
風海斎の下での修行から1年が過ぎた。エリナとレンは見違えるほど成長していた。エリナの風と海を操る力は飛躍的に向上し、レンも特殊な能力こそないものの、驚くべき直感と適応力を身につけていた。
ある朝、風海斎は二人を呼び寄せた。
「お前たちの修行は十分だ。これ以上のことは、実際の経験を通じて学んでいくしかない」
エリナは深く頭を下げた。
「風海斎様、本当にありがとうございました」
レンも同様に感謝を述べた。風海斎は二人を見つめ、穏やかに微笑んだ。
「さて、これからどうするつもりだ?」
エリナとレンは顔を見合わせた。エリナが決意を込めて言った。
「私、故郷に戻ろうと思います。風の祭儀を止めて、村を変えたい」
風海斎は頷いた。
「よい決断だ。しかし、覚悟はできているか?お前たちを待っているのは、決して容易な道のりではないぞ」
レンが前に出た。
「僕たちなら大丈夫です。この1年で学んだことを、きっと活かせると信じています」
風海斎は満足そうに二人を見た。
「よかろう。最後に一つ、贈り物がある」
彼は二つの小さな石を取り出した。一つは風のように透明で、もう一つは海のように青かった。
「これらの石は、お前たち二人の絆を強める。離れていても互いの存在を感じられるし、必要なときには力を分かち合うこともできる」
エリナとレンは感動しながら石を受け取った。
「行くがよい。そして忘れるな。お前たちの力は、人々を守るためにある。決して傲慢になってはならぬ」
二人は深々と頭を下げ、新たな旅立ちの準備を始めた。
◆
エリナとレンは、風と海の力を操って高速で海を渡っていった。かつての小さな漁船とは比べものにならないスピードだ。
数日後、彼らは遂にエリナの故郷に近い海岸にたどり着いた。
海岸に立つエリナの表情は複雑だった。
「2年以上も経ったのに、何も変わっていないみたい……」
レンは彼女の肩に手を置いた。
「大丈夫。俺たちが変えてみせるさ」
二人は慎重に村に近づいた。しかし、彼らを待っていたのは予想外の光景だった。
村の入り口には、武装した衛兵たちが立っていた。その数は、エリナが逃げ出した頃よりもずっと多い。
「どうしてこんな……」
エリナは困惑した。
その時、近くの茂みから声がした。
「エリナ、こっちよ!」
振り返ると、そこには幼なじみのサラがいた。彼女は急いでエリナとレンを茂みの中に引っ張り込んだ。
「サラ! どうしてここに……」
サラは息を切らせながら説明を始めた。
「あなたが逃げ出してから、村はすっかり変わってしまったの。長老たちは『風の娘』を取り戻すために、もっと厳しい規律を敷いたわ。今では誰も自由に村を出入りできないの」
エリナは愕然とした。
「まさか……私のせいで……」
レンが割って入った。
「違う、エリナ。これは長老たちの仕業だ。俺たちが正さなきゃいけないんだ」
サラはレンを不思議そうに見た。エリナは急いで紹介した。
「ごめんね、サラ。この子はレン。私の大切な仲間よ」
サラは意味深な笑みを浮かべた。
「へぇ、仲間ねぇ……? ふーん、仲間、かぁ……」
エリナは頬を赤らめたが、すぐに真剣な表情に戻った。
「サラ、村の中の様子を詳しく教えて。私たち、風の祭儀を止めるつもりなの」
サラは驚いた表情を見せたが、すぐに決意を固めたように頷いた。
「わかったわ。私も協力するわ。もう、誰も犠牲にならないで済むように……」
三人は茂みの中で、これからの作戦を練り始めた。エリナは風を操って周囲に結界を張り、誰にも会話が聞こえないようにした。
サラが村の現状を説明する。長老たちの支配が強まり、風の祭儀はより頻繁に行われるようになったこと。村人たちの間に恐怖と不信が広がっていること。そして、来週にも新たな「風の娘」が選ばれる予定であること。
エリナは拳を握りしめた。
「絶対に阻止してみせる」
レンが提案した。
「まずは村人たちの信頼を得る必要がある。エリナの力を見せれば、きっと希望を持ってくれるはずだ」
サラも頷いた。
「そうね。でも、長老たちの監視の目を避けなきゃ」
三人は夜を徹して計画を練った。風の力で密かに村人たちに接触し、エリナの帰還と真実を伝えること。そして、風の祭儀が行われる前に、村全体を動かすこと。
夜明け前、エリナは決意を込めて立ち上がった。
「よし、始めましょう。私たちの村を、本当の意味で自由にするために」
レンとサラも立ち上がり、エリナの手に自分たちの手を重ねた。
風が三人の周りを優しく舞う。それは、まるでエリナたちの決意を後押しするかのようだった。
村を変える戦いが、今始まろうとしていた。
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