ひより~新月のかぐや姫~
南無珠 真意
Prolog
学校を出て、駅まで走って約五分。一駅跨いで、電車を降りる。
そこからまた徒歩三分で付近の花屋。オレンジガーベラのアレンジメントを買ってから、大学病院に到着する。 受け付けを済ませて、エレベーターで六階まで昇って左側の病室を五つ進むと、目的地に辿り着く。
戸を開いた先には、十五日前とは正反対の光景が広がっている。
「やあ。今日もいい日和だね」
この病室には、患者はたった一人しかいない。医療機器につながれていて、僕の挨拶に返事ができない。
心電計を見ると、呼吸は正常。顔色も悪くなく、今日も彼女の容態は安定している。けれど、僕の中の不安が拭われることはない。
彼女を蝕む病は、平安時代から確認されているというふざけた奇病だ。症例の神秘さから、現代では『かぐや姫症候群』とも呼ばれている。
僕は、このお伽噺が一番嫌いだ。
「今日からさ、学園祭の準備が始まってさ。学校中のみんな、凄く張りきってたよ。早く病気治して、最後の学園祭くらい一緒に回ろうよ」
オレンジガーベラのアレンジメントを床頭台に置いて、ベット横の椅子に座る。それからは、他愛もない話をしてばかり。
聞き手は誰もいない。なぜなら、彼女の心は、満月に拐われてしまっているのだから。
「ここに来るときに、駅前の紅葉が舞ってたよ。初めて会ったときのことを思い出したよ。小六だったっけ。あの時から、きみは······」
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