天下ヒトクチ
@Takeda_Toru
第1話 小・中学校 気づき編
カタカタ・・・カチ・・・カタカタ・・・
本来音のないはずの時間帯。平日の午前11時30分、彼は部屋で一人パソコンでゲームをしていた。
カタカタカタ・・・カチ・・・カタカタガッチャン・・・
「・・・もうそろそろ昼か。」
気づけば11時50分、一回試合を終えるたび時計を見ては、自分が時間を
楽しければいい。生きていればいい。そんなふうに、生活の最低水準を下げて暮らしていると、最終的にこうも味気のない人生を送ることになるとは。
また、だんだんと生活の質を下げてきたものだから、当の本人は一切その事実に気づいていないことも問題だ。
そんな、変わらない日々が続いたある日、久しぶりに親に言われ服を正しくして学校へ行った。
学校へ着き、案内されるがままに体育館へと行くと、そこは
なんでも、今は卒業式を行なっているらしい。
(そういえば、もうそんな時期だったっけ。僕も卒業する必要があるんだもんな。)
途中参加なので他の生徒たちより後ろの席で式に参加することになった。
斎藤くん、佐伯さんが呼ばれた次に、
(僕だ)
「はい。」
榊山。聞き馴染みのない苗字だが、クラスの人は皆知っている。
「あの不登校がここに来てるだって?」
「卒業式本番だけ来るのかよ、感じ悪っ。」
少しの間、榊山と同じクラスの人たちがどよめいたが、依然として式は練習通りに行われていた。
(僕が返事をした瞬間、名前を呼んだうちのクラスの担任の先生が笑顔で泣いていた。それに、僕が卒業証書を受け取って親の方を見た時、親も泣いていた。クラスの人たちも、みんな自分が卒業証書を受け取って振り返った時には泣いていた。僕は、なんで泣かなかったんだろう?)
卒業式はその疑問を残したまま無事に終わり、晴れて榊山は小学校を卒業した。
エスカレーターで公立中学校に進学した榊山。
しかし、卒業式までの癖はそうすぐ抜けず、入学早々また不登校になってしまった。
1週間ほど今までと同じように過ごしたが、榊山には、今までと一つだけ違うところがあった。
それは、卒業式にふわっと浮かんできた疑問が、いまだに頭にこびりついて離れないことだ。
これが、また新しいルーティンを作り出しているのだが・・・。
榊山は、今までは一回試合を終えるごとに時計を見て、時間を浪費していることを確認してゲームに戻るだけだったが、疑問が頭にこびりつくようになってから、一回試合を終えるごとに、時間の浪費を確認してからぼそっと、
「僕は、なんで泣かなかったんだ?」
と、疑問を一度口に出してからゲームに戻るようになったのだ。
ある日、あまりに疑問が気になりすぎたのか、榊山は弟である榊山
「なんか、中学校入学してからずっと後ろめたい気持ちで生活してるんだけど、なんでだと思う?」
すると、樹は兄に対し、こう答えた。
樹「
まあ、中学生になったことないからあんまよくわかんないけど、せっかく中学校に入って新しい環境になったっていうのに、学校に行かないで今までと同じ生活を送るのは楽しくないしもったいなくない?緑兄ちゃんもそれに気づいてるから後ろめたいっていう結果になったんでしょ。」
こうして、弟の樹の助けにより、兄、緑斗は学校へ行って自分を変えようと行動を起こすことにした。
翌日、緑斗は制服を着て、中学校へ行った。
すると、1週間休んでいたということで、クラスの人たちは、全員緑斗を心配して集まった。
せっかくなので緑斗は、自己紹介をするとともに、心配してくれた人にも自己紹介してもらい、ある程度会話が出来る仲の人を複数人作ることができた。
緑斗(順調だ、このまま行ける所まで行って、今日からなるべくクラスと溶け込めるようになるぞ!)
こうして、緑斗が毎日学校に通うようになってから一年が経とうとした時、突然、色々な人の話し声で、
「榊山って、面白いけどあんま話し相手の顔見ないよな。」
「緑斗って、話してていいやつなのはわかるけど、なんか、話し方にまだ改善点があるというか・・・うん、もっと顔見てほしいな。」
などという、話し方の意見が出てくるようになった。
あまりに毎日どこにいても聞こえてくるので、緑斗もだんだんと気になってきた。
「せっかく話し方は面白くていいと思われているのに、顔を見ていないだけで印象が悪くなってしまうなんて勿体無いの極みじゃないか。直さないと。」
こうして、気をつけるようにして八ヶ月、ほとんど気をつけなくても人の目を見て話すことができるようになった。
それから1年ほど経ち、無事にクラスの中心で卒業することができた。
(確かに、小学生の頃より学校が楽しかったからか、涙が出そうにはなった。だけど、まだ涙は出ない。なんだ、この何か足りない感じ・・・?)
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