第16話 肉を売り、肉を買い、肉を食う
「お肉屋さん」
「静華ちゃん。どうしたんだい?」
「お肉を持って来たので買い取っていただけませんか?」
俺は持って来た肉が入った袋を取り出してカウンターに置く。
「オークの肉か」
「そうです」
袋越しでも瞬時に何の肉か判別できるのは、流石肉屋と言うべきだろう。
重量を測り、相場よりも高めに売る事ができた。
「しかし綺麗に解体された肉だな。全部漏れなく使えるからありがたい限りだ。ちょっと色を付けておいたぜ」
「ありがとうございます。そのまま買いたいのですが?」
「おう。少し待ってな。安く売るよ」
俺は肉の処理が終わるのを待つ事にする。
モンスターの肉は特別な処理をしないと生身の人間では食べられないのだ。
ただ焼くだけや煮るだけではいけないのだ。
モンスターの肉に含まれている濃密度の魔力は人間にとって猛毒である。
俺用に最速で必要分だけ用意してくれて、かかった時間は数十分だけだった。
「なるべく油が少なくて、良い部分をやったぜ。⋯⋯本当なら20万の所を15万でどうだ?」
「13万!」
「14万8000」
「13万1000」
「14万5000」
ふむ。5万も少なくしてくれるのはありがたい。だけどもう少し下げたいのが本音である。
「⋯⋯実はまだこちらにオーク肉が」
俺は敢えて隠しておいたオーク肉を取り出した。
「⋯⋯14万」
「13万4000」
「⋯⋯分かった。13万5000で手を打とう。流石にこれ以上は難しいぜ」
「分かりました。いつも安く売っていただき、ありがとうございます」
感謝の言葉が次の取引に有効な手となる。
新たに売った肉の代金と手に入れ、人間でも食べられるオーク肉をゲットした。
唯華と俺の二人だけならしばらく問題ないくらいの量はある。
少し懐が温まったので、贅沢に調味料も購入しよう。
「久しぶりにご馳走を作ろう。ユイを労わないとな」
唯華が護衛している事を忘れて、俺はそんな事を呟いた。
「輝夜様⋯⋯」
だから、そんな感激に満ちた呟きは聞こえなかった。
色々と食材を購入して家に帰り、豚汁を作る事にした。
畑のおじさんから安く購入した野菜と今日手にした肉と味噌を使う。
出汁は⋯⋯。
「⋯⋯出汁の素が欲しいな。買い忘れた⋯⋯かと言って魚は取れんし」
海が近くないし、海が近くてもやばいモンスターの巣窟なので近寄りたくない。
「こんな事なら骨も持ってこれば良かったか。出汁抜きだけど仕方ない」
硬い物から順に柔らかくして行き、肉をぶち込み。
個人的に灰汁は好きじゃないので、きちんと取り除く。
最後に味噌を入れて煮込めば完成。
かなり雑に作っているが美味しいので問題ない。栄養もあるしね。和食最高。
だけど主食はパンだ。
「米が欲しい」
「人間余裕ができるとあれこれ欲しくなりますね」
「本当だな。今の目標は配信機材のグレードアップだ。このままだと動画の垂れ流しだからな。登録者、コメントの管理はもちろん。配信によって手に入る収益も欲しい」
安いが得も少ないのが現状である。
「ユイの強さが最初の注目を集めた感じだけど、徐々にコンセプトが好きな人が集まって来ている⋯⋯と思う」
「これも配信用端末の弊害ですね。リスナーの求めているのがいまいち掴めない」
「そうだな」
談笑を楽しみつつ、ご飯を食べ終える。
「輝夜様、毎度ありがとうございます。片付けは私が」
「良いのか? 助かる」
「いえ。メイドながら一切料理のできない不出来な私に変わり毎日その手腕を振るっていただいています。何かしないと私の心が押しつぶされてしまいます。⋯⋯いつか、輝夜様に目を輝かせて美味しいと言っていただけるお料理を作ります」
「楽しみだな。それと、ユイには料理だけじゃ返せないくらいに世話になってるから、深く考えるな」
汚れた食器などを持って外に出て行った。
『洗い場』と言う施設に行ったのだ。
そこでは食器の洗い物から洗濯まで可能になっている。
汚れを落とすのが得意な水が大量に用意されており、人は飲めない水だ。
これも普段通っている水屋のお姉さんの力が大活躍しているのだ。
翌日、俺は一人でとある場所に向かっていた。
そこは
ギルドの名前は『
ギルドに依頼と依頼料を預けておけば、所属しているリベラシオンが依頼を受けて仕事をしてくれる。
俺はこのギルドに常に依頼を出している。主な金欠理由がこの依頼料である。
「受付嬢さん」
「いらっしゃい静華ちゃん」
リベラシオンは地上に降りてモンスターと戦う仕事だ。
荒くれ者が多いイメージを持たれやすいが、実際はそうでは無い。
この世は実力主義。実力にも様々だが、モンスターを倒せる強さはとても分かりやすい能力だ。
リベラシオンは貴族になりやすく、金回りが良い。
ギルドは他ギルドよりも優れている点を出して依頼を多く貰おうとするため、建物や所属しているリベラシオンの格好まで、気を使うのである。
気品溢れるこのギルドの受付嬢は全員が美人で話しやすいのが特徴となっている。
基本貧民は依頼を出す事は無い。金が勿体無いから。
だけど自分の力ではどうしようもない時に依頼を出したりする。
個人に依頼をするのは難しいが、ギルドを経由すれば依頼は簡単に出せる。
リベラシオンとの友好関係や知り合う工程などを省けるからだ。
ギルドは無くてはならない組織と言う事である。
「こんにちは。依頼の回収に来ました」
「いつもご贔屓に。はい。これが今回の成果ですよ」
一枚の木版を渡される。そこには文字が掘られている。
暗号文なので解読するのが面倒だが、やるしかないだろう。
「次もお願いします。依頼料です」
「毎度ありがとうございます。でも、そんなのを調べて意味があるんですか? 仕事を貰っている立場で言うのはアレですが、勿体無い気がします」
「意味はあるので。それでは確認して来ますね」
ギルドのトップは必ず貴族以上なため、貴族地区の情報も集められる。
ギルドメンバーは貧民もいれば貴族もいる。
身につける装備の質や態度でその辺はかなり容易に分かる。
ギルドで能力を評価されれば貴族への道も開ける。
「さて、今回はどんな感じかな」
俺がこのギルドに依頼を出している理由はいくつかある。まずは家から近いから。
このギルドは貧民地区にホームを用意しているので助かっている。
そして値段。安めでやってくれる。アマテラスの影響だ。
最後に信頼。
このギルドは人柄も重視されており、悪い人は基本少ないのだ。
好条件なギルドなため、常時依頼を出している。
俺が常に出している依頼は調査依頼。
その内容は貴族についてだ。
「八神家の調査結果書。能力の高い孤児を貧民問わず高待遇で迎え入れ、高い教育を与えている⋯⋯」
貴族『八神』。
それが俺の出している調査対象。
「能力があり貧しい家庭は家族ごと引き入れて良好な関係を構築⋯⋯相変わらずの実力主義者だな」
能力が優れていれば身分問わず迎え入れ、その人が望む結果すらも与えて良い関係を築く。
今の世の中では当たり前の事だから、誰もが気にしない。
能力が無い奴は生きてはいけない。
「⋯⋯今回も悪い噂は無し、か」
清廉潔白と言わんばかりの内容だった。前回とさほど変化が無い。
特に目立った行動をしてないと言う事だ。
実力主義で成果も出して、幸せになっている人も実際にいる。
周りからの評価は高い。
⋯⋯だからだろう。
俺がこの依頼を出す度に勿体無いと言われる。
「⋯⋯帰るか」
でも違うのだ。
ぶっちゃけ調査内容はどうでも良い。必要なのは八神家の現状把握である。
俺にとって奴らの印象は既に固まっているのだから。
アマテラスを唆し、我が家を滅ぼした黒幕。
八神家は貴族の中でも上位に位置する。だからこそ、簡単にはいかない。
でも俺は成し遂げないといけない。
⋯⋯どうして我が家を潰したのか。その理由を徹頭徹尾聞き出す。
それが俺の目標。目的だ。
「⋯⋯ふぅ。一旦帰るか」
成果を焼却炉に捨てて、俺は帰路に着いた。
「うっ」
刹那、強烈な目眩に襲われて意識を失った。
◆あとがき◆
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