第11話 街での襲撃?!
「ゼラ様、今回の配信も中々に盛り上がりましたね」
「そうかな?」
「それにざ⋯⋯ご⋯⋯肉壁も増えました」
「仲間って言ってあげてよ」
変態が増えたとも言えるけど。
ゴブリンは雑食。土とかを食べる訳ではないので食料を持って行く必要がある。
純粋に食費がかかるが、いずれはあの世界で自給自足ができるようにする。
そのためには種が必要か。
畑のおじさんに頼めばくれそうではある。
「金が足りんな。配信の端末も良いの買いたい」
今のままでは本当に配信しているだけに過ぎない。
録画ができないし動画が見直せたりできる訳でもない。
今はライブ映像として届ける事しかできないのだ。
コメント機能はあるがそれだけ。
コメントであったのだが、カメラも性能の良いのに変えないと画質が荒いままらしい。
今の俺では気づけない画質。その辺の改善もしないとリスナーが離れる。
唯華の力があれば貴族地区への招待は貰えるだろうが、その連絡手段も現在存在しない状況だ。
「ま、何はともあれ今日は帰ろうか」
地上で帰還場所の魔法陣に二人で乗り込み、転移する。
「エレベーターもこんな浮遊感に包まれたのかな」
「そうかもしれませんね」
今はそんなのは存在しないが、もしかしたら近い浮遊感を得られたかもしれない。
「お疲れ様です」
「お疲れ様です」
兵士さんが定型文を言ってくれるので、俺も返しておく。
今日の成果を金に変えつつ、帰ろうと思う。
「グルガアアアアア」
「ん?」
「なんだ?」
兵士含め、唯華以外の全員がモンスターの鳴き声がした方向に顔を向ける。
普通ならばここにモンスターはいない。
しかし、俺のようにテイムが可能なアビリティがあれば話は別だ。
使役者の命令ではなく勝手に暴れているのなら、使役者の扱いに耐えきれなくなって逃げ出したのだろう。
戦う事のできない能力者がここには多い。
どんなモンスターでも危険な事には変わりないし、向かうべきだろう。
「メリー」
今はゼラモード。俺は唯華の事をメリーと呼び、モンスターを倒しに行って欲しいと願い出ようとした。
「ゼラ様、その必要は無いかと」
「え? うわっ」
2メートルくらいはあるだろうか。貴族時代に図鑑で見た事のある恐竜に酷似していた。
あんなモンスターもいるのだろうか。
「ここは危険です」
「下がってください」
兵士さん達は俺達の前に出てモンスターと対面する。
仕事だとは思うが、唯華以外の人に守られるのは新鮮だ。
「ゼラ様を守護するのは私の使命⋯⋯下っ端がっ」
「ゆ⋯⋯メリー、落ち着け。兵士さん達に殺気を向けないで」
モンスターは使役から解放されて暴れても不思議では無い。いや、それが普通の事例だ。
しかし、今回こちらに向かって来ているモンスターは一直線にこっちに来てる。
地上に戻りたいのかな?
「これだからテイムのアビリティは嫌なんだ」
兵士の一人が愚痴を零した。
モンスターも生きている。喜びも感じるし怒りも感じる。
道具ではなく一生懸命生きているのだ。
横暴な態度で接していればああやって暴れてしまう。
それが原因で、テイム系のアビリティを嫌う人は多い。
きちんと向き合えば、とても優秀な能力だけど。
「⋯⋯2メートルと思ったが4メートルはあるな」
めっちゃでかい。
近づいて来るモンスターの大きさに兵士さん達も足が震え出した。
何かしらの訓練は受けているだろうが、天園でのモンスターとの戦闘は初めてだろう。
俺もここでモンスターが暴れる光景は初めてである。
「行くぞお前達!」
兵士さん達がモンスターに特攻する。アビリティを発動させる気配を見せる。
しかし、モンスターはその人達には目もくれずこちらに迫る。
モンスターと俺の目が合った。
「ん?」
なんだこの感じは。
悪意や殺意とは違う。モンスターからは感じられない変わった視線。
何かを訴えかけているような、そんな瞳をしていた。
気になった俺は無意識にモンスターに近づき、手を伸ばしていた。
モンスターから初めて感じる違和感に戸惑いが隠せない。
「ゼラ様!」
それを危険と考えたのだろう。唯華が俺を抱き抱えてバックステップを踏む。
モンスターの瞳にはずっと俺が写っている。自分の身体を瞳を通して観る事ができた。
「ゼラ様を狙うとは愚かな。このトカゲを粛清します」
「あ、待って」
気になるから試したい。だけどモンスターは危険な生物だ。
唯華は俺の言葉が届くよりも先にモンスターに接近してしまった。
奴のランクは分からなかったが、包丁を取り出した唯華の前には普通のモンスターと変わらない。
バラバラに斬り裂いて倒した。
兵士さん達よりも圧倒的に強い。
「⋯⋯一体、なんだったんだ」
あの違和感が俺の気のせいだと言うならそれまでだ。
しかし、違うと言ってもひたすらに気になってしまう。
もう確かめる術は無い。確かめる必要があるかも分からない。
今後同じような事が起きるとも限らない。
今は忘れて次の事を考えるべきだろう。
次に考える事か⋯⋯。
「これは目立つな」
特に唯華が。
貧民地区でメイド服を好んで着る唯華は特徴的で記憶しやすい。
子供で武器を持っている俺も同様かもしれんが。
とにかく、今は身を隠すべきだろう。
これをきっかけに貴族地区に招待、唯華の力で貴族になれるにしても早い。
まだ我が家を潰した相手への対策も何もできていない状態なのだ。
俺自身、力を付けている訳でもない。
時期早々である。
「ユイ、逃げるぞ。今はまだ居場所を掴まれる訳にはいかない」
配信でもっと人気を集めて、支持されるようになってから貴族地区に戻るんだ。後ろ盾や仲間がいる。
その時には俺もアビリティの力を今よりも数倍に使えているようにしたい。
仲間にするモンスターの数と質。後は戦いに向いているアビリティを持った変身先だ。
「私はアナタのモノです。なんなりとお申し付けください」
「モノって⋯⋯まぁ良いや。帰ろう」
唯華がスーツケースを運び、俺はその上に座って帰った。
今日は一旦換金は止め、食料などを購入してゴブリン達に渡しつつ食事を済ました。
翌日には既に街の中心にある掲示板に昨日のモンスター騒ぎが新聞として記事にあがっていた。
モンスターの咆哮は他の所にも轟いた可能性がある。
「いやー昨日の怖かったよな」
「死者がゼロで良かったわよねぇ。建物にもあまり被害が無いらしいわよ」
「あんなでかいの使役してた奴は誰なんだ? 今までに見た事無かったぞ」
「さあ。それより、モンスターが現れた理由知ってるか?」
街の人達の会話も有益な情報源だが、半分近くが尾鰭の付いた誤情報だ。
話半分に聞いておこう。
今回現れたモンスターは主の扱いに耐えきれず脱走して来た、それが有力らしい。
1番区から来たとか6番区から聞いたとか、色々な情報が飛び交っていた。
確かなのは、2番区で出現した訳ではないって事だろう。
もしもあんなのがここにいたら、昨日まで生きているはずが無い。
「元貴族として見逃せない事案だが、今の俺にできる事は解決を祈る事くらいか」
無力感に押し潰されそうだ。
今の俺には人脈も何も無い。ただの貧民だから。
唯華は強い。でも彼女はこれに興味を示さないし、俺の傍を離れて調査なんて絶対にしない。
「静華ちゃん。昨日は大丈夫だったかい?」
「水屋のお姉さん。はい。ご心配ありがとうございます。幸いにも今住んでいる場所とは離れた所だったので」
「そうなのかい? それなら良かったよ」
「お姉さんの方は大丈夫でしたか?」
「うん。店が半壊したけど、すぐに修理して貰えるさ。いつもの感謝って事で半額にして貰ったよ」
「それは何よりです。再開したらまた、お水買わせていただきますね」
「いつでも待ってるよ。それが仕事だからね」
お姉さんと会話を終えて家に帰ろうとしたら、人が集まっているのが見えた。
気になったので向かうと、そこには一人の女性と彼女を護るように二人の鎧を纏った兵士が立っていた。
「ッ!」
「怪我や病気がある方はいらしてください。回復致します。足が不自由な方がおりましたら、遠慮なさらずにご案内ください。回復しに参ります」
今日だったのか。
でもまさか、あの人が直々に来るとは想定外だ。
「ありがたや」
「聖女様。足を骨折しました。お力をお貸しください」
貴族地区18番区、ここ貧民地区2番区と壁を隔てて隣接している場所で主権を握ってる。
神を信仰し慈悲を与える、『アマテラス』。
その中で聖女は教皇の次に偉く、強い存在である。
「神は等しく我らに癒しを与えてくださいます。神の思し召しに感謝を忘れないでくださいね」
聖女は全員に等しく、可愛らしく微笑んだ。
◆あとがき◆
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