第10話 仲間が増えました!

 ここは地上のとある場所。


 そこでは今、ゴブリンとオーガの群れが口論を繰り広げていた。


 ゴブリンは小学生並みの大きさに肌は緑色で不快感を促す顔をしている。


 オーガは二メートルくらいの巨漢で童話で出て来る鬼のような凶暴な顔をしている。


 体格の違いはシンプルに戦闘能力の違いに繋がっており、ゴブリンは引くしか無かった。


 元々住処にしていた廃墟を追い出されたゴブリン達は彷徨い、人間を発見した。


 大人の女性の上に座り、何かを話している少女である。


 空腹感もあったのだろう。敵の情報を探る前に本能のままに動いていた。


 喰らうために。


 ◆


 「それでメリー、何か言い訳があるかしら?」


 「に、にゃにも⋯⋯」


 俺は唯華を四つん這いにして背中に座り、足を上げて体重をかけている。


 足を舐めようとするので足を上げている、と言うもう一つの理由もある。


 必死に舌を出しており、ヨダレがポタポタと地面に落ちる。


 「どうしてこのような事をしたのかしら?」


 「お、お嬢様を、感じたくて」


 “初見です”

 “どう言う状況?”

 “事務作業の休憩時間に見に来た”

 “なんこれ”


 “おしおき配信だが?(真顔)”

 “なんのおしおきだよ”

 “Bランスモンスターにビビってゼラ様が下着を濡らす→替えの下着をポッケから取り出し→なんで持ってんだよ?→盗んでました★→おしおき”

 “さんくす”


 “メイドさんワザと出した?”

 “メイドさんは忠誠を誓ってるんだぞ。反射的に出したんだよ”

 “忠誠を誓っているのに下着泥棒とは?”

 “変態め”


 “変態の集まる場所では?”

 “ゼラになりたいかメイドさんになりたいか”

 “メイドさんのおしりをパンパンしたい”

 “可愛いと美しいとエッチ”


 さて、さすがに怒ってこんな状態にしちゃったけど⋯⋯どうやって終わろう?


 もう十分やって怒りは収まった。


 しかし、反対に唯華が興奮して簡単には終わらせてくれなさそうだ。


 座るんじゃなかった。後悔しても遅いんだけどね。


 はは。ほんとどうしよう。


 「これからは下着を盗まないと誓えるかしら?」


 「不可能です!」


 キッパリと真顔かつ即答で返事された。


 “忠誠誓ってる?”

 “疑問”

 “これは⋯⋯うん”

 “メイドさんに忠誠心なんて無かったんや”


 “ゼラ様のドン引きの目最高”

 “もっと高級なカメラや配信機材があれば⋯⋯画質が上がるのか?”

 “ゼラ様の表情をもっと細かく見たい”

 “直接プレゼントしたいけど住所とか隠しているからな”


 本当にどうやって終えようか。


 多分だが、唯華は変身先の下着だけではなく本物、男の方も盗んでそうだ。


 帰ったらタンスの中身を確認しなくてはならない。


 普段は二種類、三日使い回して洗濯を繰り返している。


 予備などの使ってない下着も確認するべき⋯⋯か。


 下着を盗まれている事実に対して嫌悪感しか出て来ないのは不思議だな。


 唯華は美人だし、逆に盗まれたいって人も出て来そうだ。


 「お嬢様。お詫びに足をお舐めします」


 「ヤダ」


 「ならば私のせいで汚れてしまったソコを綺麗にさせてください」


 「ヤダし自分で拭いたわ。⋯⋯そもそもチビってないわ!」


 ビビりなキャラ設定を追加するな!


 ⋯⋯ほ、本当にチビってなんか無いんだからね!


 “こりゃやってますわ”

 “そもそもそうなってるからこう言う流れに⋯⋯”

 “なんでゼロ秒で分かる嘘を”

 “一瞬信じそうになってしまった”


 “ゼラ様だからね”

 “そろそろおしおきを終わらせたい匂いを感じる”

 “どうすんのかね?”

 “足を舐め回されるゼラ様観てみたい”


 今、背筋がゾワゾワっとした。


 何か物凄くやばい発言を誰かがしていたような。


 「お嬢様?」


 「いや何か寒気が⋯⋯じゃない。⋯⋯良い事? これからゼラの許可無しに下着に触れるな!」


 「なんと! 触れずに嗅ぐだけならば無許可で良いのですね! ご寛大な心に頭が上がりません」


 「え、いやそう⋯⋯」


 「感謝致しますゼラ様。こんな愚かな雌豚に対して欲望を抑えさせるために海よりも広いお心でパンツをクンカクンカする事をお許しいただけるとは!」


 「言ってないわ! ねぇ! なんか飛躍してない! それに言い方キモくない! あと⋯⋯」


 「なんと! お嬢様は私のアノ匂いがお好きなのですね。ご安心ください。もちろんゼラ様が望むのであれば私のマー⋯⋯」


 これ以上喋らせるのは良くないと判断したので俺はやむ無く鞭で口を塞いだ。


 それで瞳を潤ませ、頬をピンクに染める唯華に心の底からドン引きしつつ、降りようとする。


 「んっ?」


 視点を唯華から正面に切り替えると、とても恐ろしい顔をしたゴブリンと目が合った。


 急に振り向いたせいだろうか。ゴブリンが硬直した。


 「⋯⋯」


 「⋯⋯」


 ゴブリンの数は十体を超えるだろう。


 数秒の沈黙の後、天を穿つ叫び声があがる。


 「イヤアアアアアアアアア!」


 もちろん、それは俺の悲鳴だ。


 甲高い悲鳴に驚いたのか、ゴブリンが怯んだ。


 その隙に唯華が俺を抱き抱えて大きく後ろに下がった。


 「スンスン」


 「嗅ぐな」


 「ゼラ様⋯⋯」


 「言うな」


 「スペア、まだありますよ」


 「帰ったら覚えておけよ。お前のメイド服にあるポッケの中身全部出して貰うからな」


 「そんな! 私のショーツが欲しいのならばお家で脱ぎたてホヤホヤのを⋯⋯」


 「要らんわ!」


 「酷いっ!」


 「なんで悲しむ!」


 俺を瓦礫を背もたれにして座らせた。


 「少々お持ちください」


 唯華は包丁を出しつつゴブリンに歩み寄る。


 先日、アースワームで畑を復活させて感謝された。その事が脳裏に過ぎる。


 モンスターと心を通わせて味方にできたら有用だし、アビリティをしっかり活用できている。


 今の世の中、アビリティを活用できない無能は生きてはいけない。


 人にはそれぞれ適した生き方があるのだ。


 ゴブリンはFランクとランキングでは最弱のモンスターに分類される。知性や知能が低い本能に従順なモンスター。


 群れを成す賢さを持ったゴブリンなので、ここで戦って生き残れたらさらに賢くなってより強いモンスターになれるだろう。


 「世の中能力社会。無能は働けず金を稼げずに死ぬか人間として扱われない」


 俺は今すぐにでも殲滅しそうな唯華のスカートを掴む。


 「ゼラ様、肌を重ね合うのは今晩⋯⋯」


 「違う」


 ゴブリンは唯華を警戒してか襲って来ない。


 ⋯⋯良かった。唯華に挑む程のバカなゴブリン達では無いようだ。


 強さの違いが分かる知性はあるようだ。


 唯華ならばゴブリンが何万といようと敵にならない。


 「ゴブリン達よ。⋯⋯このゼラ様の配下に加わりなさい!」


 “要らんくね?”

 “メイドさん一人で十分”

 “雑魚を引き入れたとしてもね”

 “訓練したら強くなるかもだが、そもそも知能の低いゴブリンだからな⋯⋯”


 “テイムできるかも怪しい”

 “ゼラ様は子供⋯⋯いや、子供だったらそもそも地上には行けないか”

 “なぜに?”

 “必要ないだろ”


 ゴブリンの腹から音が鳴った。


 お腹が空いているのだろう。


 ゴブリンに食べさせる分の食料は残念ながら今は用意できない。


 だが、ゼラモードなら空腹感を誤魔化す事はできる。


 「少しの間しか意味無いからね!」


 俺は鞭でゴブリンを攻撃した。当然防御して反撃に出るだろう。


 急に攻撃されたのだから当たり前だ。


 「ゴブリンながら羨ましい⋯⋯」


 ゴブリンの中で一番賢いのがリーダーだ。襲い来る仲間を殴って沈めた。


 空腹じゃ無くなったのだろう。冷静に俺の目を見る。


 「このゼラ様の軍門に下れば衣食住の保証をしてあげる。どうかしら?」


 ゴブリン達は土下座した。


 考える時間は与えるつもりだったが、その必要は無かったらしい。


 「ゴブリンに土下座文化なんてあるんですかね?」


 唯華の疑問は当然だろう。


 日本で生まれたモンスターだから本能的に服従のポーズとして備わっているのかもしれないな。


 ⋯⋯服従で土下座ってセットなのかな?


 まぁ気にしても俺は研究者じゃないから分からない。


 「うむ。よろしく頼むぞ」


 ゴブリンの身体のどこかに俺の名前が刻まれたはずだ。


 テイムできたモンスターは管理世界へ送る。先輩と仲良くしてくれる事を祈ろう。


 一気に数十体仲間にしたし、世界が拡張されているかもしれない。


 水は天候を弄って解決しよう。畑も作れるかな。


 人間のような身体を持ったゴブリンが仲間になったのだ。今後のやれる事の幅が広がる。


 送ったが、数体のゴブリンはなぜかこの場に残った。


 そして俺に尻を向けて鞭に指を向ける。


 唯華も同じように尻を俺の方に向けて、プリプリと左右に揺らす。最後に輝いた瞳を向けた。


 「はは。メンドクサー」






◆あとがき◆

お読みいただきありがとうございます


良かったね輝夜、同類が増えたよ★

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る