第24話 身体測定

 ざわざわと男女の声が聞こえる。

 運動場では体力測定が行われ、体育館を始めたとしたここでは身体測定が行われているからだ。


 身体測定は苦手だ。肉が付きやすいことが長年のコンプレックスだっただからいまでも憂鬱な気分になる。


「春姫さんかわいいね! 部活って何入るつもり?」


 私の前の橘さんが話しかけてきた。


「バスケ部に入るつもりだけど……」


 バスケは好きだ。

 シンプルながらも深い競技性は奥深く見るのもプレイするのも熱くなる。


 橘さんは私の胸を穴の開くほど凝視していた。

 私は胸を隠しつつ橘さんから距離を取る。


「急に何よ……」


 橘さんは「あはは……」と困ったように表情をほころばせた。


「胸囲測定があれば無双だっただろうねー」


「そういうあなただって十分大きいわよね?」


 私を大玉スイカとすると、彼女だって小玉スイカぐらいはある。

 十分巨乳の範囲内だ。


「このクラス胸が大きい子多いんだよね……何というかアタシなんて巨乳界の小物ってカンジ……」


(言いたいことは判るけど暴論ね)


 私は他の女子達の視線が胸に集まるのを感じた。


「そう言えば入学式の時に物凄いもう巨乳で言い表せない人居たよね?」


「ああいたね!」


「胸にモノ詰めてるのかって思った!」


 などクラスメイト達も印象的だったのか次々に声があがる。


「確かに多きかったわよね……」


「支えてあげよう!」


 体重計に乗る順番が私に回ってくると橘さんは私の胸を背後から掬うように持ち上げた。

 体重計の針が急激に動いて針がビィィンと音を立てる。


「……不正はよくない」


 教師は短く告げると記録を用紙に書き込んだ。


「春姫さん悪足掻きはやめよう?」


 体重測定。

 それは全ての女子にとって憂鬱なことである。


 身長が、身長が伸びて居れば……と淡い期待を胸に抱くも……胸による体重増加分が打ち消されるほどは伸びていない。


「牛乳のもう……」


「それ以上育てる気?」


「……背をね伸ばそうと……」


「背を伸ばしてもあまり意味がないと思うよ?」


「いやあー春姫さんって、華奢で胸が大きいってことはさ胸とかお尻に栄養が生きやすいってことでしょ?」


「たしかにそうね」


 クラスメイト達の視線が胸やお尻に集まった。


 流石に母方のいとこ達ほど背は高くないが日本では十分高いほうだ。

 お尻だって大きいほうとは言え、お知りにシリコンを入れるようなラテン系の人ほどは大きくない。


「何か秘訣はあるの?」


「遺伝子よそんなの……」


「遺伝なのは否定できないけれど、私としては運動と食生活が大きいと思うわ」


 痩せて胸が残ったのだから嘘は言っていない。

 育乳効果があるとされる大豆をよく食べたのも影響しているのかもしれない。


「運動。運動かぁ~」


「ぶっちゃけ面倒だよね~」


「鶏肉とか大豆で胸が大きくなるってのは聞いたことあるけど、食生活ってそういうこと?」


「訂正すると栄養バランスの取れた食生活ね。太ってから痩せるって手段もあるけど……」


 私の話を訊いていたクラスメイト達は首を横にブンブンと振るか俯いた。


「……みんな駄目そうね」


「女性ホルモンを打ったり、シリコン入れればいいし」


「プチ整形みたいなものよ」


「あなたたちねぇ……」


 私は呆れて何も言えなくなった。


「今度私がやった育乳マッサージ教えてあげようか?」


「是非」


「ありがとうー」


 橘さんが飼い犬みたいに飛び込んで胸に顔を押し当てた。


(我慢、我慢するのよ……)


 小学校三年の頃から胸が大きくなり始めたことだけは黙っておこう……。

 クラスメイト達がいつもより冷たい気がするのは気のせいかしら。


 身体測定トークで盛り上がった私達は次の測定に向かった。

 四月とは言え今日は風が強く肌寒い。

 それに男子だけでなく女子達の視線、特に他クラスの女子からの視線が胸に集まるのを感じたので、ジャージを着込んでいるのに……


「脚長っが!」

「腰細っそ!」

「肌白い」

「そして肌綺麗!」


「おっぱいが大きい人っておにくが付きやすいって言うけど本当?」


「私は四分の三が白人系の血を引いてるから確かに太りやすいと思うわ、だから少しでも気を抜くとおにくが付いちゃって……」


「グラドル見たいなスタイルの春姫さんでも悩みってあるんだ……」


「人間だもの当然あるわよ」


「例えば?」


「お母さんがロクな相談もなく再婚したこととか?」


「「「「……」」」」


(あ、不味い。急に重い話をしてしまった)


 だけど橘さんがフォローを入れてくれる……。


「つまりは急にできた義弟くんのことが悩みってことかな?」


「勇気くんは凄くいい子なんだけど……」


「ああ~わたし言いたいことなんとなく判るかも」


 橘さんに周囲の視線が集まった。


「私双子のきょうだいがいるんだけどさ、あ柑子コウジっていうんだけど……エロ本とかあったり視線を多少感じたりするのよ」


「「「……」」」


 兄弟がいる女子達もともと理解していたみたいだけど、他の女子達は「ああ~」とようやく理解してくれていたようだ。

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