第46話


 そんな優しい人を私は自分の父親しかしらない。


 勇気くんはどうして私に優しいのだろう? 多分、彼の義姉の春姫のせいだ。

 そう考えるだけで胸がチクリと痛む。


「きっと彼は誰にでも優しいんだろうな……」


 シャワーを浴びていると邪念が混じる。

 邪念を振り払うために体を洗い流そうと考える。


「……少し申し訳ないけど春姫さんのシャンプーとメイク落とし借りようかな……」


 シャンプーに手を伸ばす……すると脱衣所で声がした。

 一瞬、心臓がドキンと跳ねた。

 声の主は勇気くんのようだ。


 そんなことはないと理解しているのに、ほんの一瞬だけ優しい勇気くん疑ってしまった。


「タオルと着替え……申し訳ないんだけど僕の中学時代の体操服しかサイズ合いそうなのないんだ……」


「わ、判った……」


 気が利く勇気くんにしては珍しいと思った。


「ああ……なるほどね……下着は乾燥させなくていいからそのためにコンビニに寄ったんだし……もし我慢できないなら見るだけならいいけど……」


 いつものようにからかうような口調で、罪悪感を薄めるためにそんな言葉を吐いた。


「しないよそんなこと……」


「どうだか……すりガラス越しだとシルエットまでしか見えないから洗濯してるのか洋服を漁ってるのか見分けが付かないし……」


 信じている。

 信じてるからこそこんな軽口が叩ける。


ドゥさんはどうしても僕を変態にしたいんだな」


 これ以上肉を目の前にしたライオンを挑発するのはやめよう。


「……そう言う訳じゃないけど。ありがとう」


「別にどうってことはないよ。遠慮せずにゆっくり入ってよ僕はもう着替えたし……」


 早くあがろうと思っていたが勇気くんは着替えて済ませたようだ。

 やっぱり勇気くんはいい人だ。

 勇気くんも寒いだろうに……


「そういうことなら……遠慮なく……」


 一通り体を洗い終えると、勇気くんが持って来てくれた。タオルとシュシュ(恐らくお母さんか義姉さんのもの)で髪を湯舟に付けないように纏める湯舟に浸かる。

 一軒家ということもあってか、浴室は広く平気で脚を伸ばせるぐらいに湯舟も広い。


「はあ……なにやってるんだろう私……」


 肩まで湯舟に浸かった状態からゆっくりと湯舟に滑り込み、鼻まで湯舟に付ける。


 今週は本当に色々な事があった。

 痴漢に遭ったと思ったら、不良として有名な勇気くんに助けられたと思ったら、一緒にご飯食べたり登下校したり遊びに行ったり……


 勇気くんにお世話になってばかりで、恩返しらしい恩返しなんて何も出来ていない。

 与えられてばかりでいる現状が不安になる。

 例えば勇気くんが下心あって優しくしてくれているのなら理解できる。だけど勇気くんからはそう言った下心を感じられない。


 もちろん他の男の子のように、胸や足に視線を向けたりはする。

 胸が当たった時には鼻の下を伸ばしたりもしていた。

 だけど何かこう

 

 私はこんなに心を開いているのに、勇気くんは優しいだけで心は開いてくれていない。

 ああ、ほんと、面倒臭い自分の性格が嫌になる。

 

「忘れよ……」


 私は気分を変えるために、潜水し長湯するのであった。


 学校指定のジャージを舐めていた。

 版権イラストやコスプレオプションに存在するものの、「誰がありがたがるんだ? 学生趣味のおじさんか? いやそれなら制服でいいよね?」と今の今まで考えていた。


 しかし、非日常の中での学校指定のジャージと言うものは妙なギャップを生じさせる。

 この一週間で見慣れた家のリビングルーム。


 そのソファーの上に湯上りで色っぽい、読者モデルで巨乳美人でつい数ヶ月までJCだった現役JKが居る。


 端的に言ってこれはヤバイ。


 美人でスタイル抜群の春姫さん相手に、あまり欲情しなかったからタカを括っていたが、スタイル抜群で美人の女子高生それも風呂上りの妙な艶めかしさを嫌でも感じさせられる。


 春姫は僕が気を抜いていると思っている時でさえも、気を張ってスキを見せないようにしていたんだ。


 胸が大きくむちっとしながらもくびれのある柔らかそうな肢体は、運動からくるのであろう臀部でんぶには確かな肉感を感じる。

 太腿は少し太めながらも、全体的にすらりと長く美しい。


 なるほど確かに、これだけの身体に制服と言う枷があってなお歴戦の痴漢親父には見抜かれ触られるのも頷ける。


 だからこそ、あの日以来のように普段は確りメイクをして近付き辛いようにガードを固めているのだろう。


「お風呂ありがとう」


「お、おう今洗濯機回してるから乾燥まで一、二時間ぐらいかな……」


「ああ……だいぶかかるね……」


「どうぞインスタントだけど」


「ありがとう」


 あまりドゥさんの方を見ないようにして、来客用(基本的に春姫さんの友達用らしい)の少し大き目のマグカップ並々と注いだインスタントコーヒーをソファー前のテーブルに置く。


「そうだ折角だし何かしようよ」


「何かって言っても何をするんだ?」


「そうだ勇気くんってゲーム機もってる?」


「一通りは……Button'sとPZ5……」

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