ねえ、メスガキお姉ちゃん。ラッコの親子さん洗いっていったいどうやるの?

「――佑介ゆうすけのざぁこ♡ もったいないオバケが出るよ!! きょう一日あんたのお世話係として何でもご奉仕するって言ったじゃん。なのにお風呂から逃げ出してさ。なんで隅々まで洗わせてくれないのよぉ!!」


 脱衣場でお姉ちゃんから一方的に責めたてられていた。それは文字通りの言葉責めだけでなく身体まで責められるところだった。実の姉とはいえ外見上はひと回りも年の離れた女子小学生から全身洗いのご奉仕を受けてしまう寸前に、僕はタオルで目隠ししたまま無様な悲鳴をあげて逃げ出したんだ。


 これでもモラルを持った大人のつもりだ。どんなに大好きな夏月お姉ちゃんでも越えてはならない一線はわきまえている。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ、夏月なつきお姉ちゃん!! 確かにお世話係をお願いした。充分すぎるほど洗って貰ったからもういいよ」


「よくなんかな〜い!! まだ背中と頭と腕しか洗ってないし。プライベートゾーンが残ってるじゃん!! あんたと子供の頃、お風呂に入ったときと身体を洗う順番が違うし、ラッコの親子さん洗いしてっ!! って泣いてせがんだことを覚えていないとは言わせないから」


「ラッコの親子さん洗いいいっ!? ってなんじゃそりゃ!!」


「ほら、向かい合ってお互いの身体を密着させてこうすんの!!」


「おわああっ!? 抱きついて身体をラッコみたいに上下運動するのはやめろおぉ!! やめてくれぇ!!」


「ふふっ、佑介、目隠ししたタオルの下の頬が真っ赤じゃん。めっちゃ取り乱しでるし。その顔がますますザコっぽいんですけど♡ 面白〜〜い!! もっと動かしちゃおっかな、うりゃ、うりゃ!!」


「あああっ駄目っ!! えっ、この身体に感じる布地の感触は!? 夏月お姉ちゃん、最初から俺をだましていたな!! お風呂の中では真っ裸なんて嘘をついて……。しっかりと水着を着てるじゃないか」


「へっへ〜ん引っ掛かった!! 最初っからスクール水着を着ているよ。佑介はおませさんなんだから……。すっぽんぽんじゃなくてがっかりした?」


「外見は女子小学生のスクール水着と密着!? ち、違う意味でヤバいかも」


「ええっ!? 佑介、何がヤバいの、言っている意味が分かんない!! それに耳までめっちゃ真っ赤じゃん、もしかしてさっきより興奮させちゃったりしてるの?」


「……もう無理ギブアップです」


 年下メスガキお姉ちゃんの二次成長を身体で直接させられて僕はもう限界だった……。頭の中のモラルという名のダムに亀裂が入り始めるのが感じられ、最悪を回避するため自己防衛本能が働く。自然に意識が飛ぶ、飛んじゃうううぅ!!


 ぷしゅううううう……。


 脳内で忘れていた思春期の衝動と言う名の蒸気機関車が煙突から激しく煙を吹き上げはじめる。


「えっ!? どうしたの? いきなり口から泡なんか吹いて、ゆ、佑介しっかりして!!」


 薄れゆく意識の中で昔のラッコさん洗いを思い浮かべていた。小学一年生の俺はみずから全身泡まみれになって、夏月お姉ちゃんに抱きついてラッコ洗いをせがんでいたのか? ガキって恐ろしい。なんてうらやまし、いや、けしからん。子供の無邪気さというのは怖いものなしだ。


 きょう一日、お世話係をしてくれるのか。頼むからあんまり飛ばしすぎないでね、お姉ちゃん、弟から何よりものお願いです……。



 次回に続く


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