第36話 大物狩り(5)
戦いは数秒、それも一方的に終わった。
僕の全力投石は槍男に命中した。よくあたったものだと思う。というか外れるところだった。それが運の悪いことに頭に当たり、なんか飛び散るのが見えたので何が起こったかわかってしまった。うわぁって感じ。人を殺した実感が来るのはちょっと後のことだった。
クルルは吹き矢がないのか、魔法の連射ができなかったのか、二発目は石を投げた。彼女のほうがコントロールがよくって、段平男のみぞおちにクリーンヒット。
男は尻もちをついて口からなんかぼとぼと吐き出した。
近づいてみると、まさかり男と段平男が虫の息、槍男は当然こときれていた。
かまってる暇はないが、彼らの持ち物をチェックする。槍男の槍は僕の古い槍くらいのものだったので放置。まさかりは持っていけないわけではないが重かったので放棄、盾もがたがたでいつ壊れてもおかしくないので同様。ただ、段平は山刀としてつかえそうだったのでもっていくことにした、何人の血をすったかわからない代物だけど。食料はほとんどもっていなかった。まあ、これから帰って根城でごはんの予定だったんだろうな。
そして一番の戦利品はオペラグラスのような魔法具だった。こいつはどうやらサーモグラフィの機能をもっているらしく、冷えていく死体の余熱とか、死にかけの人間の発熱と体温低下とか、そういうものが見えた。これで僕たちの体温を感知されたらしい。アストラルの見えるものだったら、彼らも警戒してこうはいかなかっただろう。人数にまさってるから気づかないふりして急襲すれば楽勝とでも思ったのだろう。
そのほかに奪ったのは彼らの小銭入れの中味と槍男のベルトにささっていたまるで懐中電灯のような筒。クルルがこれは明かりの魔法具だと言った。だいぶ前に壊れたが彼女の師匠が持っていたらしい。
ここから白百合村まで歩いて半時間くらいということで、時間の余裕はそれに応じたくらいしかないだろう。夜道をいそいでできるだけ離れないといけない。魔法具懐中電灯は便利だと思う。
戦利品あさりを終えて僕たちは先を急いだ。警邏がもういないので、懐中電灯で前方を照らしながら歩きやすい街道が使えるのはありがたかった。
ハンノキ村への分岐点についた時間はわからないが、夜明けはまだまだという頃合いだった。いつもの石碑があって、それによるとそこから村まで十二キロほどあるらしい。
仮眠はとったものの、さすがに二人とも疲労困憊でどこかで休みたいと思っていた。
といって街道わきは危険すぎる。警邏をつぶされた賊が探しに来る可能性はある。
ちょっと相談して、途中に休めそうなところがあれば休むことにして、進めるだけ進むことにした。
夜である。魔物の活動が活発になる時間帯で、用心が必要だ。大型魔物にいきなり遭遇とかは勘弁してほしいが、小型魔物でも油断はできない。ネズミ魔物のように複数で動くものもいる。
懐中電灯で前方を照らすのは僕、サーモグラフィで周辺警戒をするのはクルルと役割を分けた。
途中、猪魔物、鹿魔物が一匹づつ襲ってきた。タイミングはばらばらだったが、夜のことで気づいていてもかなりとっさの対応が必要だった。
猪魔物はあまり大きくなかった。頭突きをかけに突っ込んでくるので槍をあわせて突き込んだ。びっくりしたことに、以前の槍では貫通できなかった頑丈な頭蓋骨を貫通し、猪魔物は即死した、解体してごはんにしたいところだが、余力がない。死体は捨てていくことにした。
その少し後に襲ってきた鹿魔物はクルルの前をはねて横切りながら体をひねって後ろ蹴りをいれてきた。クルルは体をいれてその蹄をかわし。鹿魔物の胸のあたりを拳で打った。鹿魔物は悲鳴をあげて飛び退り、どこか骨をやられたらしく、おかしな恰好で足を引きずりながら逃げていった。石礫を使えばとどめはさせたかもしれないが、彼女はしなかった。
「あれはほっといても他の魔物に食われる」
理由はむしろ囮になってくれるので逃げてもらって良しということだった。
そして、結局休めるところはなく、村の手前の待機小屋についてしまった。
ハンノキ村は丸太をならべたものではあるが、村を壁がまもっていて、夜は門を閉めてあけてくれない。門限に遅れた村人や、旅人が夜明けの開門をまつのが待機小屋で、いまどきこれが残っているのは珍しいらしい。
村は真っ暗で寝静まっているようだ、門はしっかりしまっているようなので、僕たちはここで休むことにした。中には簡素な寝台と竈があり、小さいが井戸も備えてある。寝台に寝具などないので、持参の毛布などをかぶって交代で寝た。
夜が明けきると門はあけられる。その少し前の朝焼けの頃合いに起きようと決めていたので、それほど長くは眠れていない。
起きると、菱明の薄暗い中でクルルが竈で何か煮ていた。肉の燻製と堅パンを煮込んで少しの塩で味を調えたおかゆだった。
「先にはらごしらえ」
こういう仕事は女の仕事、とは思ってなかったが、なんだかとてもいいと感じてしまった。自分の容姿に自信のないクルルはいつもどこか一歩引いた表情をしていたが、この時の彼女が妙に神々しく見えた。疲れてハイになっていたのか、夜明け前という奇妙な時間帯の魔法か、僕は少しどうかしてしまっていたようだ。
ぼーっとしてると軽く蹴られた。よかった。いつものクルルだ。
安心して朝食をいただき、夜の明けきるのを待った。
だが、門は開かなかった。
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