第35話 大物狩り(4)
見つからずに通り過ぎることはできるか。
街道はここから西に分岐し、白百合村に通じている。まっすぐな道で見通しが良すぎる。ここを横断するのは危険すぎた。
といって、街道の東側もよく開けていて、さらに浅い沼沢地なので見通しに加えて水音を立てる可能性を避けることはできない。
霧でも出てくれればいいのだが、空は明るくそんな様子はない。
「最悪、夜までまって、こっそり横断するしかないね」
「そうだね」
警邏に出ていることになってる連中だ。そのうち村に引き上げるだろうと思う。そのタイミングに横切るしかないだろう。
変化が起きるまで、軽く食事をして仮眠をとることにした。森の中だから虫が心配だったが、寒くなってきたせいかそれは大丈夫だった。そのかわり寒い。
軍用らしい固焼きパンを水筒の水で噛みほぐしながら食べ、荷物から毛布を出して身を寄せ合った。今いる場所から見張りたちのいる場所は下生えのすきまから見えるが、逆はよほど目をこらさないと見えないだろう。
ひんやりとした空気、冷え切った地面の中でクルルの背中から伝わる高めの体温は心地よかった。仮眠の順をゆずった僕は目をこらしてさぼっている警邏隊の動きを眺める。
すうすうと寝息が聞こえた。すぐに寝てしまったらしい。こんなところでよく熟睡できるものだと思ったが、頼られているようで悪い気がしなかった。
二時間くらいたっただろうか。警邏の三人はサイコロかカードで遊んでいるらしく、時折下品な笑い声が聞こえてくる。警邏なのだから、決まったコースをまわっやた戻るはずなので、動き出すはずなのだが。
脇腹を軽くつつかれた。クルルが目を覚ましている。
「交代。キチも少しやすめ。たぶん夜通し歩くことになる」
では遠慮なく。そのままの姿勢で目をつぶると、緊張が続いたせいか思ったより疲れていたらしい。いつの間にか眠ってしまった。
脇腹に痛みを感じて起こされるまで、何か夢を見ていたような気がする。
それも痛みでふっとんでしまった。
なんだと思うと、クルルが肘を入れていた。
「もう少しやさしくおこしてくれても」
「寝息がうるさい」
いびきをかいていたらしい。
「それより連中が動き出した」
茜色の光の中、座って遊戯に食事に興じていた三人がたちあがっている影が見える。引き上げの準備を始めたようだ。
こうなれば立ち去るのを待つだけだ。二人して毛布を頭からかぶり、姿勢を低くして息を殺す。
ところが、その中の一人が見回す仕草をしたあとの動きがおかしい。残りの二人を呼んでなにやら相談しているようなのだ。
見回したくらいで薄暗くなってきたここが見えるとは思えないが、どうも嫌な感じだ。
「見つかったかな」
「何かそういう魔法具もってたのかも」
どうする。と視線を交わしたのち、クルルは吹き矢を構えた。
これがどこまでとどくのかわからないが、見つかったら逃がすなという警告、逃がしたらどうなるかという予想は礫入れの石を一つつかませた。
警邏の三人は、まずはゆっくり村に向かう道を歩き始めた。帰るように見せかけているだけなのは明白だ。荷物も背負ってないし、手に武器を持っている。斧と盾、槍、それにみかけはおどろおどろしい段平だ。
森の中の僕たちに、気づいてないふりをして接近し、一気に襲い掛かってくるつもりなのだろう。
先頭のまさかり男は数歩しかあるけなかった。
クルルの吹き矢が吹き矢とは思えないほどの速度で飛んで、その首を貫いたのだ。
後で説明してもらったのだが、これは魔法だった。声の魔法を習った彼女は、これは息でもできるんでないかと思ったらしい。で、吹く息にアストラルパワーを乗せたところ、筒の中で加速しつづけて通常より遠く、威力のある吹き矢を放てるようになったという。声の魔法とほぼ同じなので少しの練習で飛ぶようになったそうだ。そして吹き矢の重心に釣りのおもりを埋め込んで重量を増やしてみたところ、薄い板くらいは貫通するようになった、とか。怖い。
練習の時間はそれほど取れていないので、まだまだ威力はあげられると彼女は言っていた。
相手は動揺し、とまどった。その隙を逃がす手はない。僕は立ち上がって投球フォームにはいった、
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