第14話 魔物(3)
もぐら魔物はびっくりした。そらそうだろう。
槍の先はソケットを作って本村でものをさがしていたときに拾った切り出しナイフを埋めてある。このナイフは赤さびて放置されていたが、槍に使えるということで同じようなのを二、三本見つけて磨いておいたものだ。刃はなまくらのままだったが、先は鋭い。当然痛かったはずだ。
もぐら魔物は猛々しくこっちをにらんでしゃーっと威嚇した。
その口に槍を突っ込んでやる。裂帛の気合をいれて、アストラル体をまとわせて。
魔物は自慢の歯を反射的にがちんとやって槍をとめようとした。
いやあ、びっくりしたな。槍はとめられたんだけど、強度は保たれてダルドの棒のようにけずりとられることはなかった。
そのまま槍を斜めに押し上げながら体重を乗せてつきこんでやると、勝負は決した。
歯は槍の表面を少しづつ滑った。必死に嚙みついているのですごい摩擦だが、これはもしかすると魔物のアストラルと僕のとがせめぎ合っていたのかもしれない。だが、体重の差が聞いたのか魔物はじりじりと槍に貫かれ、そして不意にすべての抵抗がなくなった。
その瞬間、槍の先からなにか流れ込んできた感覚がある。
後には少し大きなもぐらもどきの死体だけが残っていた。槍をあらためると、歯でがりがり三分の一くらい削られていた。よくこれで折れずに突き込めたな、と思ったら目の前でぽっきりいった。アストラル体の強化はとんでもない。
とりあえず、もぐらもどきの死体を調べたが、大きいだけでいつものもぐらもどきにしか見えなかった。
「これ、食える? 」
ダルドにきくと、彼はあんぐり口をあけたまま凍り付いていた。
「わからない。×××、こわい。食べない、よい」
かわりに答えたのはカザン。かなりびびってへっぴり腰でそんなことをいう。
わかんないが食べないほうが無難だといいたいらしい。
しかし、魔物って普通の生き物が変じるのだなぁ。召喚の時の六地蔵は生き物や精霊といってたけど、精霊の魔物はどんなのかな。それより怖いのは人間もこうなるかもしれないってことだ。
そそくさと交換だけ済ませると、ダルドは急いで帰って行った。魔物が出始めたのはやはり重大なニュースらしい。
そして午後、さっそくクルルがやってきた。
「魔物、出る、はやい。冬、支度、急ぐ」
うむうむ、例年より魔物が出てくるのが早いらしい。冬の支度を急げといわれたようだ。
「本村、行く。一緒」
ええと、どういうことだろ。
「冬、支度、必要」
ああ。なんか必要なものがあるから取りに行くのか。
でもなんで僕が一緒なのだろう。
彼女は武器に視線をやった。
「魔物、警戒」
魔物が出るかもしれないから、戦えそうな面子でいこうということか。
結果だけ言えば、本村は魔物だらけだった。
森の王なみにでかい鹿の魔物、ミニとはいえないほど大きくなったミニ猪の魔物、さっきしとめたのよりさらにでかいもぐらもどき、それにこのへんでは見たことのない猩々みたいば魔物がうろうろしている。
これは無理だ。
魔物たちは結託してるわけではないようだが、争う様子もあまりない。なぜなら、彼らはあるものを食べにきたのであって、それは今のところたっぷりあった。
埋葬された村人、道連れにされた山賊たちの死体だ。
「ああ、だめ」
クルルが手で顔をおおって後悔の涙を流した。埋葬したのはやはりクルルたちだったんだな。子供だらけなのであまり深く埋葬できなかったのでこんなことになったのだろう。
「今、だめ。来る、もう一度」
今にもつっこみそうな彼女を止めて僕たちは引き上げた。
「今年、魔物、早い。なぜ」
どうやら、魔物の出現は例年より早かったらしい。そうでなければ、ダルドがカザンをつれて不用心にやってはくるまい。
あの魔物たちはしばらく放置しておいたほうがいいだろう。
村人の遺骸を食べつくしそうになったら魔物同士で争い始めるだろうし、それで数が少しは減るし、あとは解散になって一度に遭遇する数が減るはずだ。
そして遺骸を荒らされた跡とは言え、略奪されてるわけでもないので、それからでも必要なものを取りに行けるようになるだろう。
帰路、泣きじゃくるクルルを片言でなだめながら、必要なものについて聞き出した。
「けんさくくん」にだいぶ助けられたが、彼女が本村から回収しようとしていたのは、上着や毛布などの防寒具、隙間風を防ぐために開け閉てしない窓や戸口につめるパテ、そして魔物の嫌うお香。
彼女らのいまいる製塩拠点は冬は閉鎖されるため、そんな準備がないそうだ。
では、分村はどうか。あるらしいが、それは僕が使うべきだと遠慮してくれたらしい。最初に蹴られたときはそうは思わなかったが、いい子なんだな。
それなら、みんなで一緒に冬を乗り越えないか。そう提案しそうになったが、クルルが不安がるだろうし、ダルドはたぶん嫉妬するだろうし、ちび二人は走り回るだろう。ちょっと言い出せなかった。
冬に向けて準備しなければならないものは他にもある。
食料と、燃料だ。クルルたちの拠点に燃料は十分あるらしい。塩をつくっている拠点だ。窯で煮詰めたりするためだろう。これは分村のほうはまだまだ貯めないといけない。秋のうちに、本村の共同管理場所から必要なだけ運んでいたようで、今回撤退したが、僕のほうもそれを持ち帰る必要があるようだ。
せっせと薪は作っているが、それでためた分を見てクルルには頭をふられた。
つまり、足らないということだ。
食料も不安だ。せっせと森で採取、わな猟をしたがやはり畑がだめになったのが痛いようで、不安そうだ。これもできれば本村に残っているのを全部回収したかったようだ。
食料は魔物に食われてる可能性があるので、そこまで期待はできない。
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