第6話 埋葬

 犠牲者は夫婦もの、そしてその親らしい老婆の三人だった。

 夫婦者は大きな子供がいておかしくない年齢だったが、子供の死体はない。やはり連れ去れたのだろうか。小屋には晴れ着など少女の持ち物のある部屋もあった。そういうことだ。胃がむかむかした。

 ただ、ここはあまり荒らされていないのでしばらく過ごすにはよさそうだ。

 それなら、使わせてもらう礼儀をかねてすることがある。

 掘る道具は道具入れから簡単に見つかった。穴を掘ってみると、すいすい掘れる。たぶん、超回復で体力が向上してるのだろう。訓練でも穴掘りはあって、最弱とはいえ改造された恩恵で思ったより楽に作業できていたが、その分無茶ぶりされて結局ひいひいいっていた。今ならあれも楽々こなせそうだ。

 おかげで獣に掘り返されないよう、少し深めに掘ることができた。

 埋葬に選んだところは、もともと墓だったところで、埋めた目印に石が積んであった。当然というか、掘ってると以前に埋葬された遺骨が出てくる。頭蓋骨の数で二つほど、それに棺桶のものらしい腐ってくずれた木片。穴はそれらが出てきたよりさらに深く掘って三人と遺骨をまとめて埋めた。棺桶にいれてあげるのが本来なのだろうが、そこまで用意する手間は省いた。

 それからしばらく、僕はその離れの集落で暮らした。

 ここまで見た村の設備はあきらかに僕のなじんだ文明とは違っていたから、試行錯誤したかったんだ。

 建物は木造で、漆喰のような白い泥を塗ってかためた壁がなんだか日本家屋みたいだが、床は板張りか土間。屋根は板葺き。中央に囲炉裏があってここで暖を取るみたいだ。煙は屋根に吹きつけられてすきまから逃げるようにできていて、たぶんいぶして保存性をあげているのだろう。土間に並べられた竈も同じように煙を屋根に導いている。この作り方は後にしてきた村のものとほぼ同じだ。裕福な家は部屋が多くなって囲炉裏も数があるだけの違いしかない。」

 そう、調理器具は竈にかけた鍋、または下で火を焚いて熱くする平たい石板くらい。この石板で何か焼くのだろう。あとは囲炉裏で直接あぶるくらいしか考えられない。大きな屋根には梯子がかけてあって、煙の通り道には何かの干物がぶらさがっていた。燻製にしてるのだろう。

 その竈や囲炉裏への火のつけ方だが、最初は埃をかぶった火口箱の中の火打石と鉄片で木くずなどに試行錯誤しながら苦労して着火していたのだが、竈の側にぶらさげられた着火用ライターにしか見えない道具が便利だった。これは引き金のところにある赤いガラスにふれると、小さな火が先端にでるというもので、火が出ている間はもっている手がどんどん冷たくなっていくのが難だった。ずっと火を出していると手が凍傷になりそうなくらい冷える。ただ、木くずや藁に火をつけるだけならすぐなのであんまり問題ではない。

 仕組みはわからないが、いやに高度な道具があるものだ。

 水は井戸からつるべを引いてくみあげる。江戸時代かなにかのようだ。

 そしてこの水が冷たくてうまそうなのでひどいめにあった。

 腹をこわしたのだ。おかげでしばらく、寝床とトイレを往復することになった。

 トイレは原始的なものだった。穴をほってその上にドアつきのトイレ小屋をかぶせただけ。このトイレ小屋は地面に杭をうって固定するもので、穴がいっぱいになると埋めて別の場所に穴を新たにほって移動させるようにできている。前の住人のものはそのまま使う気がしなかったので、別に穴をほって古いほうは埋めた。

 村のほうはいわゆる汲み取り式だったので、近くにいくと臭いがすごかった。

 水のほうは超回復の恩恵か、しばらくすると生水でも下さなくなったけどできるだけ沸かして口にいれるようにしている。

 飲み食いでは大変な目にあった。住人の残した保存食を消費するだけでは終わりしか見えない。食べられるものを周辺から採取して調理できないといけない。あるいは、人里で金をかせぎ、食べ物を買えないとだめだ。

 最初にためしたのは周辺の森にたくさんはえているキノコ。

 たくさんあるのには理由があって、毒キノコだった。死にかけた。まる一日、腹をおさえてうなるばかりで死ぬかと思った。

 同じことは食べられそうに見えた根っこや実についてもおきた。実はえぐかったり程度ですむことが多かったが、見かけがバナナのようなのに呼吸困難に陥って一晩意識不明なんてこともあった。たぶん青梅のようにシアン化合物があったんだとおもう。根っこの類も、全身がかゆくなってじたばたしてしまったものがある。一方、無害で美味なものもいくつか発見できた。

 紙はないし、この家の住人は文字を書く習慣はなかったようだ。ただ、奥まったところに大事そうにしまった中に、電子メモとでも呼ぶべきものがあった。

 着火ライターのように、ここに触れたらなんか起動しそうというそれは、大きさと形はタブレット端末のような黒いガラス質のものだった。

 ふれると、前の持ち主の手書きらしいメモが浮かび上がる。下部に矢印が表示され、ページをめくれるようなのでめくっていくと数ページしか使われておらず、あとは未使用だった。指で文字を書いてみると、普通にかける。あまり硬くない細い棒でもかける。これも使っていると着火ライターほどではないが手が冷たくなっていくので、動作原理は同じなのだろう。しかし、この手が冷たくなる感覚はなんだ? 異世界名物魔力とかなのか? 魔法、と考えればあのとき背中にくらった爆発も説明はつく。

 動物性たんぱく質もほしい。小動物向けらしい罠を見つけたので、しかけてみたが場所が悪いのが全然ひっかからない。試行錯誤しながら何日もすぎるうちに、ある日ぐったりしたカピバラのような動物を見つけた。狐のような動物や、鹿のような動物、群れて移動する耳のない兎のような動物は遠目に見ているが、そんなのは初見だ。が、これなら素手で捕まえることができる。

 動物の解体はやったことがないので、ひどい作業になった。血を抜くとかいろいろ知らなかったので作業に使った場所にはいろいろ散らかってなんとか取れた肉はすくなかった。とりあえず竈の石板で焼いて食べたが、血生臭くってとてもうまいとはいえない。それでもがつがつ食べた。

 それかた数日、高熱を出して僕は寝込んでしまった。どうやら、疫病にかかっていたらしい。

 超回復があってよかった。なければ何度死んだかわからない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る