第2話 運命のトラック

 潜伏戦闘員の仕事は、普段は一般人のふりをして、いざとなれば正体をあらわして戦うというもので、一般人としての顔はこの場合は警備会社の警備員。この身分で国の特殊戦隊と戦ってしまっては会社がつぶされてしまうので、警備員のままの時は特殊戦隊に迎合し、彼らを近づけたくない場合には制服をぬいでドゥームの簡易戦闘服を羽織って抵抗するのだ。ただし、どう考えてもかなう強さではないので、その任務は大事なデータや人員の避難までの時間稼ぎ、捨て石だ。

 捨て石なので、必勝の強さは求められない。それより、ドゥームの正規戦闘員や幹部のように戦闘力に見合う維持コストのかからないようにできている。

 改造を受け、ショックを受け、同意の署名をしてしまったことを後悔している僕に、執刀医はいろいろ説明してくれた。

 彼は彼でプライドがあったのだろう。戦闘力は弱いが最新の技術をほどこされていると彼は誇った。その先進性は戦闘力にではなく、維持コストの低廉さと生存性に向けられているという。

 正規戦闘員は定期的にオーバーホールや、消耗品の部品交換が必要だが、僕らのような潜伏戦闘員は日ごろの食事だけで維持できる。怪我をしても短時間で自己修復できて、即死しなければかなりの重傷でも自己回復できる。ただし、正規戦闘員より弱い。ということはライバル企業の武装襲撃段や国家特殊戦隊のメンバーにも一対一では絶対に勝てない。勝てなくていいのだ。時間稼ぎができればいい。

 そして、回復したら制服をきて「縛られた警備員」か何かになって素知らぬ顔で保護を受ける。

 さらに執刀医はこういって脅してきた。

「逃げたり、裏切るのはしないほうがいいよ。首に爆弾埋めてるから。さすがに死んでしまうから」

 そして、給与の話もしてくれた。

 通常の給料もわりあいいいほうだった。これに稼いだ時間で均等割りのインセンティブがつき、負傷すれば深刻さに応じて見舞金も出るらしい。

 さからえば文字通り首が飛ぶのに、意外にいたれりつくせりの待遇なので、受け入れるしかなかった。あとはできるだけ平穏にすごしていけるといい。

 二年間は退屈で平和な日々が続いた。

 配属されたのは倉庫に偽装した研究所で、何の研究をやってるのかわからない。ただ厳重に隔離されていて僕たちはその周りをうろうろ警備しているだけだった。

 決まった時間に借り上げ社宅のアパートから出て、決まった時間に帰る。週一日だが休みもあって気楽な勤務だった。他の仲間は気の合うもの同士、飲みにたちよることもあったし、休みがあえば職場主宰の地引網と海鮮バーベキューなんてイベントもあって、福利厚生もなかなかだったと言える。

 だから、油断していた。

「特別公安部です。ご協力を」

 ドラマでしか見たことないシーン。警備員の僕に身分証を見せて国家特殊戦隊のうち七人がやってきた。

 まさか、と思うのと幸運だと思うのが同時だ。

 こんな場合、表で対応した潜伏戦闘員は最後まで善良で協力的な警備員を演じることになっている。つまり控え室から戦闘服に着替えて負け確定の時間稼ぎに出る必要はない。なかなか死なない体らしいが、戦闘不能にされるときはめちゃくちゃ痛い。正規戦闘員にしごかれてみんな知っていた。

 楽な立ち位置だったが、社員としてするべきことはある。会社の上司に報告しなければならないが、それは特殊戦隊の一人に止められた。

「少しの間、待ってください」

 丁寧にものをいうが、どうも信用されてないらしい。ドゥームの潜伏戦闘員とばれるといろいろまずい。

 閉鎖区域に押し入ろうとする他の六人の前に、控室でごろごろしていた同僚たち十五人がドゥーム戦闘員の姿で登場。あっという間に何人かふっとばされて動かなくなった。がんばってるが、あんまり時間は稼げそうにない。それ考えたら、見張りに一人足止めしてる僕は大健闘といっていいのかもしれないなと馬鹿なことを考えてしまった。

 同僚が全滅するまでにかせいだ時間は十分弱。これインセンティブでるかなあ、運悪く死んだのがいなければいいのにと思っていると、ほほをひゅんと熱いものがかすめる感覚があった。一瞬遅れて銃声。

 稼いだ時間で、正規戦闘員七名がやってきた。全員、銃で武装している。飛び道具をもっているのをいいことに立ってるものに無差別に撃ちかけてきた。倒れた同僚にあたるのもかまわない。

 こんな話は聞いてない。稼いだ時間でデータや人を逃がすんじゃなかったのか。

 このまんまじゃ、僕もまとめて撃たれてしまう、おびえた警備員としてはここは逃げ出すのが正しいだろうね。

「ひゃああ」

 悲鳴をあげて僕は逃げ出した。敷地を出て、道路まで。銃声が聞こえるが、銃弾はなぜかあたらない。いや、なんか跳弾の音がきこえる。

 と思ったら見張りについていた国家特殊戦隊の隊員がおいかけてきて、その装甲スーツで盾になってくれていたのだ。

 なんかもうしわけない。一般人だと思ってるのだろうけど、実はそうではないんだよね。

 勢いあまって道路に飛び出したところに、トラックがつっこんできた。

 デコトラなのか、前面に光り輝くペンタグラムをでかでかとつけたトラックだった。

 僕も、特殊戦隊の人もよけきれなかった。

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