ザコモブ英雄録(仮題)

@HighTaka

第1話 修羅の世界

 なんのとりえもない人間で、学校の成績もいまいち、親も大企業系ながらいつ消えてもおかしくない孫会社でうだつのあがらなかった平社員。性格も内向的で強外向のヒエラルキー上位に逆らうなんて面倒でやったことはない。いきおいいきつくところなんか知れていた。

 自由意志は持てるものの特権だ。僕みたいな持たざるものに自由はない。

 高校を出たところで進路は勝手にふりわけられる。優秀なものは大学に進んで技術者や企業官僚などを目指すことになるし、彼らは本人の希望を考慮してもらえる余地があるが、それ以外は求人に応じてふりわけられ、一年から二年の試傭期間を経て正式採用かこの世の最底辺のどこかに捨てられるかに分かれる。

 学校自体が企業人材を求める企業の共同出資によるもので、学費がかからないというメリットの代わりに自らを売るというデメリットを持つところだった。

 そうでない学校もある。だがそこに通えるのは豊かな家庭の子供たちで企業の上流階級のいわば貴族階層だけの話だ。

 僕の進路はもちろん就職で、送り込まれたのは施設警備、交通警備を業務とする警備会社。一応、世界規模の大企業アルファ集団の末端に属する。この企業の警備会社は他にもあって、警備会社といいながら事実上の民間軍事企業であったりする。

 アルファ集団はいくつかの小国の事実上の所有者でさらにテロ組織である秘密結社のいくつかもその傘下であるという噂もあるなかなか後ろ暗い企業だ。

 それでも世界有数の企業であり、他の企業も黒い噂なら負けず劣らず存在するので、まあつまり、就職先としてはその末端企業でも悪くないといえた。進路を指定した教師もそんなことを言っていたと思う。

 試傭期間は一年。その間は業務の基礎や社訓などの研修をはさみながら先輩社員の補助として現場に出たり、訓練を受けたりする。

 立ち回りがうまければ、本採用されるよう自分を売り込むこともできたのだろうが、そんなものに自信はない。ひたすら真面目に取り組むこと、同期とは対立を避け、上司には逆らわないようこころがけることで、不採用で陥る奈落を必死に避けようとした。

 卑屈だったと思う。

 だが、変な正義感をもってもの申した同期はだいたい姿を消したからまちがってないと思う。僕はより待遇がいいといわれる施設警備部に配属が決まった。天候に関係なく外で働く交通警部部よりずっといい。すくなくとも生き延びたし就職は成功した、とその時は思った。

 採用時に何枚も署名をもとめられた文書をきちんと見なかったのはとんでもない失敗だった。署名後、僕は会社の正体を知ったし、自分の運命を教えられた。

 アルファ集団がテロ組織である秘密結社、ドゥームのオーナーだというのは本当だった。そして入社したのはそのフロント企業の一つだったんだ。

 施設警備は、アルファ集団の後ろ暗い研究をしている設備、あるいはドゥームの偽装拠点などを警備する。こういうところには、敵対企業が関係を伏せて送り込む武装グループがなぐりこんできたり、国の特殊戦隊が強行捜査を行ったりするリスクがある。このへん、生身の一般人が関与できる世界ではない。

 対立企業肝いりの武装強奪集団も、国の特殊戦隊もみな体をいじって、さらに強化装備などをもってきている。

 うっかり署名した文書の一つは、手術の同意書だった。

 検査をするとだまされて全身麻酔を行われ、目覚めると僕はドゥームの潜伏戦闘員に改造されていた。


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