僕たちは気が触れている

不労つぴ

プロローグ

「んなあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 僕こと桜庭帯人さくらば おびとは、スマホを鬼の形相で睨みつけながら奇声をあげる。


 今の僕はどこからどう見ても不審者だ。


 幸いにも教室には僕ともう1人しかいないので、僕の奇行が白日の元に晒されることはない。


 ――あぁ、講義後で本当に良かった。


「うるさいのはお前だ! 耳元で叫ぶな!」


 先程まで机に突っ伏して寝ていた友人の真田祐介さなだ ゆうすけが、怒り任せに拳で机を叩いた後、不機嫌そうに目を覚ます。


 彼は、大学の講義が始まってからずっと眠っていた。講義後に起こすように頼まれていたので起こそうとしたのだが、どうも眠りが深いらしく中々起きない。

 だから僕は彼が起きるまで待っていたのだった。


「これが叫ばずにいられますか!? 僕にとっては地球に隕石が落ちてきたくらいの衝撃なんですよ!!!」


「じゃあ、オビちゃん地球の寒冷化に伴って一生冬眠しとけば?」


 真田さんは冷めた目で僕を見つめる。

 きっと彼はこう思っただろう。


『はぁ、またいつもの奇行が始まった』と。


 地べたに這いつくばる虫けらを見るように目で見られると本当に心が痛くなってくる。だが、真田さんのおかげで少し冷静になることが出来た。


「すみません。少し取り乱してしまいました……」


「いつものことだから別にいいけどさ……何があったん?」


「いつものことってなんですか、いつものことって。普段僕ここまで酷くないでしょう?」


「いや、平常運転だよ」


「そんな……」


「んで、そんなことはどうでもいいから。それで? 何があったん?」



 真田さんの辛辣な言葉にうなだれる僕だったが、真田さんは気にしていないようだった。


 僕は悲痛なため息を付きながら事の顛末を話し出す。


「クロハちゃん――じゃなくて、小さい頃よく一緒に遊んでた女の子が付き合い出したんですよ」


「ほーほーそれはそれは…………まぁ、めでたいことじゃないの。オビちゃんも祝福してあげなよ」


「これが祝福出来るならどれだけいいことか!」


 真田さんの言葉に僕は、思わず強く大声で叫んでしてしまう。

 真田さんも状況が飲み込めないのか、キョトンとした顔でこちらを見つめている。


 僕はそのまま勢い任せに捲したてる。


「よりによって、相手が女の子なんですよ! 女の子! しかも、よりによって僕の――」


 そう――。

 よりによってなんでアイツなんだろう。


「よりによって僕の友達の元カノなんですよ!!!」


 僕の脳はそこで限界を迎えた。

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