第21話 解決
良いアイデアが浮かんだと葉月はいつもより長く執筆をつづけ、レッスンも仕事もなかった玲奈は早く帰宅したとこともあり、夕食のテーブルには珍しく四人全員が揃った。
美味しそうに青椒肉絲を頬張る若菜を微笑ましくみながらも、遥斗は美佳のことが頭から離れなかった。
日曜日に美佳と待ち合わせして、買い物したりプリクラ撮ったりする予定だが、その後が心配だ。
今日の社会資料室での出来事を考えると、ただでは済まなさそうだ。
失うことになるのは、童貞なのか処女なのか。
「遥兄ぃ、どうしたの?この青椒肉絲、メッチャ美味いけど食べないの?食べないなら頂戴」
若菜の無邪気で天真爛漫な笑顔を見ると、張りつめている緊張が切れた。
「実は……」
遥斗は昼休みの出来事を三人に話した。
憤慨した玲奈は箸をテーブルに叩きつけるように置いた。
「何その美佳って女!せっかく虫よけのために女装させてるのに、意味ないじゃない!」
「虫よけ?」
慌てた玲奈は遥斗の疑問を誤魔化すため、無理やり話題を変えた。
「まあ、それはいいとして、今は、クソ女じゃなかった美佳をどうするかよ」
「ああ、それは簡単よ」
ご飯に青椒肉絲をたっぷり乗せた丼を抱えた若菜が声を上げる。
「アタシが今度男子柔道部員と一緒に夜道で襲うから。帰り道を狙って、公園に連れ込んで……」
「若菜、暴力はダメよ。証拠が残るでしょ」
「葉月姉ちゃん、じゃ、どうするの?」
「まずは、偽アカウントでSNSで美佳に近づいて、言葉巧みに恥ずかしい写真を送らせて学校の裏サイトにのせるの。そうしたら、学校に来れなくなるでしょ」
「さすが、葉月姉ちゃん、頭いい!」
復讐のために平気な顔で犯罪行為を口にする二人に、遥斗はドン引きしてしまう。
「できれば、合法的に解決できないかな?」
「だったら私にいい考えがあるわ。私に任せておいて」
遥斗の遠慮がちな願いを、自信ありげな玲奈が引き受けてくれた。
どう解決するかまでは「見てのお楽しみ」と言って教えてくれなかったが、遥斗は玲奈に託すことにした。
◇ ◇ ◇
迎えた日曜日、カットソーに黒のキャミソールワンピースとどこにでもいる量産型コーデに身を包んだ遥斗は、美佳との待ち合わせの駅前に立っていた。
もうすぐ約束の2時。まだ美佳は姿を見せない。
約束の時間が近づくたびに、緊張で胸の鼓動が速くなるのを感じる。
時計の長針が12を回り、約束の2時となった。
「安心して、あの女狐じゃなかった美佳は来ないわよ」
美佳の代わりに姿を見せたのは玲奈だった。
白くきめ細かい肌をみせつけるような紫のオフショルダーのトップスに、美しく長い脚を強調するような白のミニスカート。
買い物客で多くの人が行き交う街中でも、玲奈は圧倒的な存在感を放っている。
「玲奈さん、美佳は?」
「まあ、説明するより見た方が早いわね。こっちよ」
美佳に手を引かれ100mほど歩いたところに、グレーと黒のチェック柄のワンピースを着た美佳の姿がみえた。
美佳の隣には金髪の優男が立っており、美佳に親しげな様子で話しかけていた。
状況が呑み込めない遥斗は、したり顔の玲奈に尋ねた。
「あれは?」
「お母さんのお店で働いている美容師さん。ちょうど彼女と別れたばかりで、新しい彼女を探してるだって」
髪の色と言いスリムな体形にスタイリッシュなコーデは、いかにもお洒落な美容師さんと言った感じだ。
「女性の扱いにも慣れてるから、平凡な女子高生をナンパして落とすぐらい彼にとっては朝飯前よ」
玲奈の言う通り、美佳は美容師さんと手をつないで歩き始めた。
数分後、遥斗のスマホに「ごめん、用事ができていけなくなっちゃった」と美佳からのメッセージが届いた。
合法的に誰も傷つけることなく解決できたようで、遥斗は胸をなでおろした。
「玲奈さん、ありがとう」
「気にしないで。それよりも、予定なくなったでしょ。私とデートしよ」
玲奈は遥斗の手をそっと握った。
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