恋のバトルロワイヤル!美人三姉妹となぜか女装して一つ屋根の下で、

葉っぱふみフミ

第1話 顔合わせ

 夜の6時半。1月の日暮れは早く、外はすでに漆黒に包まれていた。

 街の街灯が鮮やかに輝き、寒空の下で冷たい風が川島遥斗の頬に触れた。

 あまりの冷たさに思わず身をすくめ、マフラーをの中に顔をうずめた。


 最寄駅から歩くこと5分ホテルの前にたどり着くと、最上階を見上げながら独り言が漏れてしまう。


「マジで、ここか?」


 都会のビル群の中でもひと際目を引く重厚感のあるホテルに圧倒され、もう一度ホテルの名前を確かめた。


 ホテルの壁面には「Recent Park Hotel」という文字が明るく輝いており、教えてもらったリーセントパークホテルで間違いないようだ。


「こんな高級ホテルなら、前もって言っておいて欲しかったな」

 

 再び独り言を漏らすと、意を決してホテルの中に足を踏み入れた。

 この最上階にあるレストランで、父親である礼司の再婚相手とその連れ子との顔合わせが行われる。


 昨日の夜、晩御飯を食べ終えソファに寝転びながらスマホをいじっていると、帰宅が遅く一人で晩御飯を食べている礼司が、ちょっとした買い物か何かのように軽々と口にした。


「明日7時から、リーセントパークホテルにあるレストランで顔合わせがあるから、遅れずに来いよ」

「顔合わせって?」

「顔合わせって言ったら、結婚する両方の家族と食事することに決まってるだろ」

「結婚!?親父、再婚するのかよ?」

「ああ、小百合が亡くなって4年が経つし、そろそろいいだろ。遥斗にも母親が必要だろうし、向こうの家族にも父親が必要だしな」


 そんな大事な用事を前日に教える礼司に遥斗は腹を立てたが、礼司は素知らぬ顔で2本目のビールを開けた。


 子宮頸がんを患った母親と死別したのは小学6年生の時だった。

 それから一年間ぐらいは母を失った悲しみと喪失感で落ち込んでいたが、月日が流れるとともに少しずつ母親のいない生活にも慣れてきた。


「おっ、このレンコンのはさみ揚げ美味いな」


 礼司は上機嫌で箸を動かしている。

 自分が作ったものが褒められると、素直に嬉しい。


 弁護士として働く多忙な礼司に代わり、炊事や掃除洗濯など家事全般をこの4年間遥斗が担ってきた。

 再婚相手の義理の母に家事を押し付けるつもりはないが、それでも分担できれば少し楽になるかもと期待してしなが、ホテルの名前をメモした。


 ホテルの自動ドアをくぐると、3階まで吹き抜けの荘厳なエントランスが広がり、天井には豪華なシャンデリアが明るく輝いていた。

 受付のスタッフは流暢な英語で外国人客を相手にしており、プロフェッショナルな働きぶりに、ホテルの格式の高さを感じる。


 エントランスを通り抜け、エレベーターに乗り込み最上階のボタンを押す。エレベーターのドアが開くと、間接照明で落ち着いた雰囲気のダイニングが目の前に広がっていた。遥斗の姿を見たレストランのギャルソンが近寄ってきた。


「ご予約はいただいていますでしょうか?」

「川島で予約が入っていると思いますが……」

「かしこまりました。個室にご案内いたします」


 高校の制服を着ている遥斗にも差別することなく、礼儀正しく接してくれる。

 案内された個室のドアをノックして中へと入ると、そこにはラグジュアリーな空間が広がっていた。


 大きな窓ガラスからは光り輝く夜景が一望でき、天井にはシャンデリアが明るく輝いている。

 中央に置かれた長方形のテーブルには、皺ひとつなくピンと張られたクロスがかけられ、その上にはお皿とシルバーウェアのセットが左右に整然と並んでいた。


 先に着いていたスーツ姿の礼司が軽く手をあげ、「遅れずに来たな」と出迎えてくれた。


「こんなところなら最初から言っておいてくれよ。学校から直行できたからいいものの、危うくジーパンにパーカーで来るところだったぞ」

「まあ、いいじゃないか。まあ、座れ」


 礼司の横の椅子に座った。


「親父、こんなお店よく来るのかよ?」

「馬鹿言え、俺も3回目だ。1回目は仕事の付き合いで、2回目は美和さんとだ」


 礼司が再婚相手の名前を口にすると、ネクタイを締め直した。

 礼司も慣れない雰囲気に緊張しているようだ。


 窓からの夜景を眺めていると、ノックの音がして振り向くとドアが開き、ロングヘアの女性が一人部屋に入ってきた。


「遥斗さんね。初めまして、礼司さんとお付き合いさせてもらっています山尾美和です」


 丁寧なあいさつと共にお辞儀をした美和さんは、紫色のワンピースがよく似合っており、礼司の再婚相手とは思えない程妖艶な魅力を持っている女性だった。


 肘で礼司を小突きながら小声で尋ねた。


「親父、どこでこんなきれいな人と知り合ったのかよ」

「仕事だよ。彼女の経営する美容室のテナント契約で、ビルのオーナーと揉めた時があってその時に依頼があって知り合った」

「あの時は、本当に助かりました」


 美和が微笑みながら、尊敬のまなざしを礼司へと向けた。

 家では酒を飲みながらエロ動画しか観ていない礼司だが、仕事はきちんとしているようだ。


「美和さんは、すごいんだぞ。女手ひとつで子供3人育てながら、美容室3軒、エステサロン2軒、ネイルサロンも1軒経営してる」

「いえ、いえ、そんなことないですよ。それよりすみません、子供たち3人とも遅れるってさっき連絡があって、躾がなってなくて申し訳ないです」


 美和はペコリと頭を下げた。


「遥斗さん。おいくつ?」

「高校1年生です」

「じゃ、私の真ん中のこと同い年だ。仲良くしてね」

「はい」


 真ん中の子が同い年。ということは上の子は、それより1,2歳は年上。そこから逆算すると、美和の年齢は40前後といったところか。

 改めて新しく母親になる美和の顔をみるが、とてもその年代には見えない。

 美容師という職業柄、美への意識の高さが伺い知れた。


 再びノックの音が聞こえ、ドアが開くと一人の女性が部屋に入ってきた。


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