俺と私の異能生活

狩野院 翁

第1話 プロローグ

 極々平凡な高校一年生の俺、堀田 海ほりた かいはある夜、不思議な夢を見た。


 夢であるにも関わらず、はっきりとした意識の中で俺は、記憶にない草原に立っていた。


 周りを見ても草原が広がっているだけで、他には何もない。


 ふと、見上げてみると、この世のものとは思えないほど美しい、満点の星空が広がっていた。


 ここは一体どこなのか、と言う疑問も吹き飛ぶほどに、美しい夜空だった。


「おぉ...」


 と、思わず感嘆の声を漏らす。


 けれど、ここがどこなのかは、わからないままである。気を取り直して、俺はあてどなく草原を歩く。


 どうやらこの草原は小高い丘にあったようで、しばらく歩くと、眼下に巨大な、という言葉すら過少に聞こえるほど大きな、ちょっとした町ならすべて沈めてしまえそうなほど、大きな湖が広がっていた。


 あの湖に向かうべきだ。何故かはわからないがそう感じた俺は、急いで丘を下り、湖へ駆ける。


 湖畔につくと、そこには星の光を反射して、きらきらと光る膨大な量の水が、美しい夜空を映していた。


 あまりの美しさに惹かれ、少しだけ湖の中へ歩き、水を掬う。


 俺の手の中には、星空色の水が、きらきらとまたたいている。そうして初めて俺は気付く。この水は空を映しているのではなく、この水そのものが、星空色に光っていることに。


 手の間から一滴ずつ、星空がこぼれ、水面に波紋を作っている。ふと、上を見ると、水面と同じように、空も波打っている。


 そして気付く


 あぁ、この湖が空を映しているのではない。


 


 。と。


 気付いた瞬間、手のひらの水が浮き上がり、俺の胸の中へと流れ込んでくる。否、手のひらの中の水だけではない、湖が、草原が、星空が、空間そのものが、すべて俺の胸へと吸い込まれていく。全く不可解な現象だが、恐怖はない。むしろそれが嬉しく感じる。


 不思議な現象と高揚感の中、最後の水の一滴が、俺の中に取り込まれた瞬間...


 ピ、ピ、ピ、ピピピピ!、ピピピピ!...


 けたたましく鳴るアラームが、俺を現実へと引き戻す。


 あの夢は一体何だったのだろうか?ピピピピピピピピピピピピ!...


 とりあえずベッドから出て、机にある目覚ましを止めなに行かなければ...しかし、おかしな夢を見たせいだろうか、いつもならなんとも思わないはずの目覚ましを止めるという行為が、ひどく億劫に感じられた。


 思わず机の方に右手を伸ばし、考えてしまう。


 あぁ、目覚ましがこっちに来てくんないかなぁ...


 ふと、夢の中で見た湖の水の一滴が、浮かんでいく光景が、脳裏に浮かぶ。


 瞬間、体じゅうに、不思議な力が巡っていくのを感じた。すると...


 ピピピピピピピピピピピピ!


 ヒュン!


 ガンッ!


いった!」


 ゴトッ...


 伸ばした右手に衝撃と痛みを感じると同時、アラームが鳴りやみ、ベットのすぐそばに、目覚まし時計が転がっていた。


「???」










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