電子の狐は奏での空に憧れる
九戸政景
第1話 ソラジオ
「それじゃあみんな、まったねー!」
私はその言葉を最後に配信を終わる。といっても、同接は10人。それにコメントだってまばらで、私のアバターに対してイヤらしい言葉を投げ掛けてくるものばかり。もうイヤだ。
「はあ……どうしたら良いんだろ」
配信を終わり、アバターの
ちょっと挑戦してみたくなって始めたはいいものの、やはり私じゃ力不足なようで今回みたいな回も少なくない。それどころか今回みたいな回の方が珍しいくらいだ。
「やってみたいと思って始めたは良いけど、これじゃあ子狐を用意してくれたママにも申し訳ないよ」
私は画面に映る子狐に視線を向ける。若草色の髪飾りをつけた青みがかった黒くて長い髪とピョコンと伸びた金色の狐耳、そして巫女服をまとった高校生くらいの女の子のVTuber。それが私が魂をやっている子狐なのだ。
「ごめんね、子狐。私が力不足なせいであなたを輝かせてあげられなくて」
そんなことないよ、と言うかのように子狐はにこにこしている。けれど、どこかその笑顔が哀しそうに見えるのはたぶん気のせいじゃない。私の心が子狐に投影されているのだ。
「……こんな気持ちじゃダメだ。予定がある十二時まで何か気晴らしでもしよう。でも、何をしようかな……」
何をするか考えていた時、ふとある事を思い出した。
「そういえば、友達からオススメされてる物があったんだっけ」
私はパソコンを操作してあるサイトを開く。その名はラジオチューブ。そこには色々な配信者がいるそうだが、友達からオススメされたのはその中の一人だった。
「たしか……あ、たぶんこの人だ」
月神奏空という名前を見つけた。どうやらこの人は人気小説家でありながらこのラジオチューブでもソラジオという名前のラジオ配信をしているらしく、その際どい内容と独特な言葉選びのセンスが人気を博しているのだそうだ。ソラジオという名前も名前の奏空から取っているのだろう。
「へー……たしかに結構人気がある人みたいだなぁ」
現在は1000人もの人が待機中であり、私の100倍もあるその視聴者数がとても羨ましかった。サムネイルには片目を緑色の髪で隠した中性的な顔の人が映っており、見た目からも人気が出そうだなと思った。
「その上、人気の小説家なんだよね。私の友達も小説家さんはいるけど、書ける人って本当に羨ましいなぁ」
ボーッとサムネイルを観ていたが、ハッとして私はサムネイルをクリックする。
「このままボーっとしててもよくないし、私も待機してよう」
そうして待機所にいる事数分、夜の九時になって配信が始まった。そしてこれが私がソラジオとの初めての出会いになったのだ。
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