変貌
信玄と信次は本陣にいた。すると、空から何かが落ちてきて信次の頭に当たった。信次はそれを拾い上げた。
「なんだこれ?」
「それは、不動明王をかたどったものであるように見える。もしや、この戦に勝つために、不動明王が下さったのかもしれない」
信玄は大事そうにそれを手に持った。
上杉軍でも同じようなことが起こった。空から落ちてきたものは、誰の頭にも当たらなかったとはいえ。
「我には分かる。毘沙門天の像だ。勝利を毘沙門天に願っていたから、このようなものが降ってきたのだ」
「御実城様が勝利なさるようにと?」
政虎は頷いた。
数時間後。武田信玄と上杉政虎は、謎の腹痛に侵されていた。
「体が重くなって、動く気にもならぬ。何かの病であろうか」
「我は普段から酒を飲みすぎて、その報いというわけであろうか」
「俺の周りの人たちが倒れていっている。伝染病!?」
「理由は全く私にはわからない。この後私たちがどうなってしまうのかも」
信次と景満もとうとう倒れてしまった。
信次が目を覚ました。辺りはやけに暗かった。しかも床が揺れていた。
「俺たち、船に乗ってる!おーい、みんな起きてくれ!」
飯富昌景がやってきた。
「床も揺れていることだし、お前の発言はまことだな」
外の景色を見ると、山一つなかった。
「俺が居たのは本陣だったはずなのに、お館様がいらっしゃらない。なんで?」
織沢信景の発言を思い出した。衝動的に海に飛び込んだ。
「信次!」
工藤祐長も、驚いたような顔をしていた。
「飯富殿?」
「信次が海に飛び込んでしまった!溺れるやもしれぬ」
「信次殿のことです、放っておきましょう」
当の本人は巨大なクジラを目撃した。マッコウクジラに似ているが、上下の顎に巨大な歯が生えている。巨大クジラは襲ってこない。
「信次…来てくれたのだな」
「お館様!」
信次は海から顔を出した。
「お館様は、巨大クジラに変貌した。生きていらっしゃるだけ良かった!」
「そ、そうなのか…」
信玄も海から顔を出した。
「こんな姿になった」
「なるほど」
上杉の船に巨大な背鰭が近付いてくる。
「あの背鰭、でかいな!人食いザメとかではないだろうな?」
「私が知る限り、未来の世界でもそんなものは実在しない」
「たとえ人食いザメであっても、策を使って手懐ければ良いのです」
「そんな策がありましょうか?」
「あるかないか、どっちかだ」
景満は、織沢信景の話を思い出した。
「もしかしたらこれは、メガロドンかもしれない」
「誰だそいつは?」
「これまでこの世に現れたサメの中で、最大であり最強のサメだ。咬合力も、これまでの生物の中で最強と言われている。そんな巨大ザメに噛まれでもしたら、人間など木っ端微塵になってしまうだろう」
「だんだん近づいてくる!食われてしまう!」
「私は戦国史の学者であって、古生物学者ではない。この巨大ザメを退治する方法など、何一つ知らない!」
景満がそう叫んだ時には時すでに遅し。巨大ザメは大口を開けていた。
「何を騒いでいる?サメごときで騒ぐな」
「しかもしゃべったあああ!」
「御実城様?」
「これは一体どういうことだ?」
「昔々の海に、メガロドンとリヴァイアサン・メルビレイという生き物がいました。中新世という時代です。彼らは宿敵でした。その宿敵関係に関して、織沢信景という人物が、メガロドンとリヴァイアサン・メルビレイは上杉政虎公と武田信玄公のようだと主張したのです。ひょっとすると、私たちは中新世という時代に来てしまったのかもしれない」
そこへ小舟がやってきた。使いの者らしき人物が言った。
「申し上げます!敵の総大将・武田信玄は巨大クジラに変貌したようです」
「信玄は、リヴァイアサン・メルビレイというクジラに変貌したのかもしれない」
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