新・川中島

齋藤景広

始まり

 2人の研究者が、ペルー行の飛行機に乗っていた。飛行機の中は物音ひとつしない。沈黙を破ったのは研究者のうちの一人、甲田信次だった。

「なあ聞いてくれよ!織沢信景氏によれば、昔々の海にも川中島の信玄公と謙信公に似た関係にあった頂点捕食者たちがいたらしいぜ」

 もうひとりの研究者、越海景満は反応した。

「あの有名なサメとクジラのことだろう?彼らはライバルだったようだ。しかし、両者の名前を私は憶えていない」

「サメはメガロドンという名前で、クジラはリヴァイアサン・メルビレイだ。獲物のヒゲクジラを取り合っていたらしい」

「武田信玄公と上杉謙信公は、信濃を取り合っていたというから、ヒゲクジラは信濃ということになるのか。2人のうち、どちらがサメでどちらがクジラか私には判らないが」

「ちょっと待った!メガロドンはシャチに滅ぼされたとかいう説があるんだが、そしたらシャチは戦国時代でいう誰になるんだ?」

「織田信長とかだろうな。信玄公と謙信公のどちらがメガロドンでどちらがリヴァイアサン・メルビレイであっても、最終的に武田家と上杉家は信長のせいで苦しむことになったのだ。本能寺の変があったから助かったんだけどな」

 その時、アナウンスが流れた。周りの人々は起きて、辺りはざわざわした。

「まもなく、アレハンドロ・ベラスコ・アステテ国際空港に到着いたします。お降りの際は、忘れ物をなさいませぬようご注意ください」

 甲田信次はつぶやいた。

「もうすぐだ。もうすぐ俺たちと同じ、昔のライバルに思いを馳せる研究者に逢える」

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