第16話 夏の終わりと恋の始まり

『お邪魔しまーす』と部屋に入るなり、涼翔は鞄から大量の夏休みの宿題を見せてきた。


夏休み最終日、家についた涼翔に電話されるまで寝ていた俺は頭がまだ回っていなかった。


「なにこれ?・・・」


「ごらんの通り・・・手伝ってもらえると助かります。』

わざとらしく困った顔をしている涼翔


「明日から学校だぞ。話したいことって、これ?

・・・よし、わかった』


『さすが先輩!頼りになります』


『お前が宿題終わるまで隣にいるから

ちゃんと自分でやれ』


『そんな・・・』


「そんな人生終わったみたいな顔してもだめだ。

さっさと始めるぞ。 終わらなくなる』


机の上を片付け宿題を広げさせた。


『真面目にやるんで、ちゃんと一緒にいて下さい』


涼翔に机を貸して、後ろのベットで監視する。


見た感じ2時間ほど本気で写せば終わりそうなくらいの量の宿題

黙々とこなしていく涼翔の監視に飽きて漫画を手に取る。


しばらくすると涼翔が集中を切らしてきてチラチラこっちを見る。


『ずるいですよ先輩、ぼく頑張ってるのに漫画読んで それ面白いですか?』


『ずるいもなにも、遊びながらも宿題ちゃんと終わらせてたんだから自業自得だろ〜 』


もお~と不貞腐れながらも勉強に戻る。


『ちゃんと終わらせたら願い事1つ叶えてあげるから頑張って』


『なんでも?』


『なんで持って言っても金はないぞ』


『そんなのはいらないですよ! んーと・・・

恋人繋ぎで手をつないで散歩したいです。」


『・・え、いや・・あの、俺らってさ・・』


『冗談ですよ!』と宿題に戻り黙り込む。


お互いに好きと伝えている。 


なら付き合ってしまえばいいのだろうが、そう単純じゃない。


まだ心のどこかでは、迷いがあるのも知れない。


涼翔の気持ちもちゃんと聞いていない。


俺とどうなりたいのか。





色んなことを考えていたら眠っていたらしい。


揺すられて起きると、宿題を終えて自慢げな顔を浮かべていた。



『お疲れ様』と共に、 涼翔のお腹の音が鳴る。


ファミレスに行こうかと、夏の夜道を歩く。


ソワソワと涼翔がしている。約束を思い出して手を差し出す。


「スズ・・・」


一度、驚いたようにこっちを一度見て手を握る。


「ありがとうございます。」


手の温もりが伝わってくる。柔らかく暖かい。


『 意外に恥ずかしいですね・・・』


『なんだよお前から約束しておいて・・ やめる?』


『いやです! このままがいいです』


誰もいない夜道の間、俺たちは手をつないだ。


しっかりと。



「なあ・・・」

「あの・・・」 二人の声が重なった。


「なに?」

「先輩が先いいですよ」


立ち止まって目を見つめる。


「俺たちってどうなりたいんだと思う?」


「・・・僕も同じこと思ってました。

先輩に好きって言われた時、すーっごく嬉しかったです。

毎日楽しくて、先輩が卒業した後のことを考えると・・・

心が張り裂けそうなくらい辛くて・・・ 

いっそのこと、合わない方が楽だったのかあもなんて悪いことも考えちゃいます」


「・・・俺だって、気づいたらいつもスズのことが気になってた。

俺はおかしいって悩んだ。男なんか好きになるわけないだろって。


でも、そんなときに好きだって言われて、また悩んで。

自分がなんだか分からなかった。


でも、好きな気持ちには嘘はつけない。

キスされたら、幸せだったし・・

それ以上はまだ怖いけど・・


でも俺は・・涼翔を俺のものにしたい。


付き合ってほしいです」



「僕は、先輩の物になりたいです。」


暗闇を照らす街灯の下で、俺たちは唇を合わせた。


涼翔の手をグッと引き寄せて、世界で二人きりになった。




結局、ファミレスには行かずコンビニで夕ご飯を買って家に戻った。


2人きりの時間が少しでも欲しくて。


『先輩、ぼく幸せですよ』そう言われて思わずにやける。


部屋のベットに寄り添いながら座って、疲れたら横になって

夜通し語り合った。 


夏の思い出とこれからのことを。




時計は見ていなかった。




翌日の始業式2人で寝坊して盛大に怒られた。







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