第15話 夏のおわり

赤とんぼが飛び回って来たのにも関わらず、暑さの引かない8月の終わり

まだまだあると思っていた長い夏休みも残り2日になっていた。


今日は珍しく、弓道部の1.2年みんなで川辺で花火をする予定を立てていた。


母親の用意してくれていたお昼ご飯に箸を進めながら、ワイドショーを流し見していたが予定の13時より早く暇になってしまい涼翔の家へ向かうことにした。


『早いですね、今食べてました。とりあえず中入ってください。』


咀嚼しながら出てくる涼翔に連れられてキッチンに座る。


『先輩、食べづらいんですけど そんなに見られると』


『あっごめん』


自然とご飯食べてる姿をまじまじと見つめていたしまった。


食べ終えた食器を台所に片づけて当たり前のように俺の隣へ座る


『お前、そんなにおれの近くにいたいの?』


『先輩だって僕の事見つめてたじゃないですか。」と少しムキになる涼翔が横に肩をぶつけてくる。


「それに、せんぱいの隣落ち着くんですよ。 いい匂いするし』


照れずによく言えるな、と涼翔の方を見た。


ほっぺに米粒が付いていたのでそれを取って食べるとニヤリと笑い席を離れた。



リビングで休んでいてくださいとリビングで待つと飲み物を持ってきてくれた。

ふいに俺の右手を掴んで手を合わせる。


『先輩の手大きいですね』

その手を握ったまま涼翔はテレビに目をうつす。


『夏休みも終わっちゃいますね。先輩はなにが1番楽しかったですか?』


『んー海行ったことかなぁ スズは?』


『先輩との思い出全部楽しかったので1番とか選べませんね』


『なんだそれ』と言いながら心の底では喜んだ。




「そろそろ行こうか」と集合場所の川辺へ今年の夏の思い出を語りながら、二人ゆっくりと自転車を漕いでむかった。




一番最後に到着して、少しおちゃらけて言った。


「俺ら常に一緒なの、本当に誰も最近ツッコんでくれなくなったよね」



「当たり前すぎて、もう違和感ないですよ。

2人の間には入り込めません。」と純がオーバーに手をやれやれというジェスチャーで同意をうかがうようにみんなを見る。


そんな純の横を過ぎる際、お決まりに頭をひっぱたいて花火の並べられた方に向かう。


打ち上げ花火、手持ち花火、ロケット花火・・・小石の絨毯の上にたくさんの花火が用意されていた。


ロケット花火を投げたり、手持ち花火を振り回したり、やんちゃな拓哉が危ない行動を始めると周りもそれを真似ていく。


みんな危険な遊びをし始め、涼翔も楽しそうに花火をつけ振り回している。



『先輩』 と聞こえた方を向くと涼翔がネズミ花火を投げてきた。

さっとかわし、おいっと軽くこづくと楽しそうに笑う。


疲れて大岩の上で座りながら、涼翔がほかのみんなと楽しそうに遊んでいるのを眺める。


(俺以外にも笑えるようになったんだな・・・)と少し嬉しくて少し寂しいそんな感情が芽生えてきた。



拓哉の投げたロケット花火


涼翔がその近くに気づかず走っていく。 


「スズっ!」


急いで駆け出し涼翔をかばうように、ロケット花火との間に立った瞬間、

右耳を掠るか掠らないかの距離で飛んで行って爆発音をたてた。


「だ、大丈夫ですか? ありがとうございます」


「ロケット花火はもう中止だな」


少し遠くで拓哉がスマンと平謝りをしていたのを、大丈夫とグッとポーズで返した。



『せんぱーい、一緒に水切りしましょ!』


花火に恐怖心が芽生えたのか、二人になりたかったのか、みんなと少し離れた川近くに向かう。


「かっこよかったです。 スパイダーマンみたいな」


「俺のスパイダーセンスが反応したな」


「僕のヒーローですね。まあ、ヒーローにも水切りは負けませんけど

どっちが跳ねるか勝負です!』


「いや、暗くて見えなくね」


「いいから!」


涼翔が石をかまえて投げる   


ポチャン・・・・


『0回だな。 俺の番』


パンっ ポチャン


『1回ですね』


『でも俺の勝ちだな』


涼翔が悔しがり、ひたすらに石を投げていた。


残りの線香花火をみんなで、一斉に火をつけた。


涼翔が線香花火を見つめながら悲しそうな顔をしている。


『今年の夏ももう終わっちゃいますね・・・

でもすごく楽しかった 先輩がいたから』


『来年の夏も一緒に過ごすって約束したろ

俺も今年は涼翔がいたから楽しかった』



みんながいるのにも関わらず恥ずかしい会話をしてしまった。


線香花火の火がポツンと落ちた。




後片付けをして街灯の光も少ない道を、自転車のライトを頼り帰る。


『先輩?話したい事があるんですけど 』


『なに?』


涼翔が言いづらそうにしている。


『明日先輩の家泊まりに行っていいですか?

明日話します。』


『いいけど、どーしたの? 今さら改まって』


『明日話します』



虫の鳴き声が響く中2人でゆっくり帰った

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