初期ダンジョンのゴブリンに転生した結果、挑んでくる勇者たちを空気を読まずに返り討ちにしてしまっています

大舟

第1話

「ついに俺たちも勇者デビューだな!最初のダンジョン楽しみだぜ~」

「おいおい、楽しみも何もないだろ…。初期ダンジョンに出現する敵モンスターなんて、弱小のゴブリンくらいしかいないぜ?負ける方が難しいくらいつまらないダンジョンだろうよ」

「お前は夢がねぇなぁ…。これから俺たちは勇者としての大きな一歩を踏み出すんだ。相手が弱小ゴブリンであろうが最強ドラゴンであろうが、なんでもいんだよ」


のんきな会話を繰り広げながら足を進める二人、その首元には勇者の証であるネックレスが下げられ、腰には大きな刀剣を携えている。


この世界で勇者となったものが最初に経験する初期ダンジョン、【始まりの洞窟】。

そこは主に弱小のゴブリンたちが根城ねじろにしている洞窟であり、勇者としての最低限の力を持つものならばまず負けるはずのない相手しか出現しないという意味で、その名前は付けられた。

この二人もそんな勇者の伝統にしたがい、そのダンジョンを目指して足を進めていた。


「モンスターにとどめを刺した方には、経験値のボーナスがあるんだろう?それを目当てにゴブリンを倒しまくれば、たとえザコが相手でもそれなりには経験値を得られるんじゃないのか?」

「あのなぁ……ゴブリンの弱さを知らないのか?俺たちが何もしないで、ボーっとつったってたって負けることのないような相手だぞ?経験値なんてないと思った方がいいぜ」

「なんだ、そんなに少ないのかよ…。ちょっと夢が覚めてきちゃったぜ…」


愚痴にも似た言葉を吐きながら、二人はようやくダンジョンの入り口へと到着する。


「それじゃあ、さっさと終わらせようぜ」

「よし、行こうか!」


これから始まる勇者としての第一歩に心躍らせながら、腰に掛けた刀剣をさやから勇ましく引き抜き、二人はダンジョンの中へと突入していった。


――――


「…初期ダンジョンなんて呼ばれてはいるが、中は意外と複雑なつくりなんだな…。油断したら迷いそうだ…」

「そんなはずはないぞ?先輩の勇者たちだって楽勝だって言ってたんだから」

「げ…。そ、そうなのか?」

「…お前、外でそんなこと絶対に言うんじゃないぞ?こんな初期ダンジョンを複雑に感じただなんてことが知れたら、低レベルもはなはだしいと俺まで馬鹿にされちまう…」

「そ、そんなの俺だって分かって……あ!」


なんだかんだと会話を行いながら洞窟の中を進んでいた二人の前に、最初のモンスターが姿を現した。


「お、さっそくゴブリン1号はっけーん!」

「うわ、まじで弱そう…」


突入してしばらく進んだ場所で、最初の敵に接触した二人。

たたずむゴブリンの姿は自分たちよりも一回り以上背が小さく、武器も持たず、見た目にも全く強そうではなかった。


「さぁさぁ、ついに鍛錬で会得した俺たちのスキルを披露するときが来たってもんだ!」

「でもなぁ…一発で倒してもつまんないしなぁ…。ここは毒の刃ポイズンギアスを使って毒をくらわせて、じわじわと苦しんで倒れていくところを見るか?」

「性格悪いな―お前。でもいいなそれ!どうせ相手は弱小ゴブリンなんだし、早速試してみようぜ!」


圧倒的に自分たちが優位であると確信しており、どんな手で倒してやろうかとうっきうきな様子の二人は、思いついたアイディアをさっそく実行に移した。


「行くぜ!毒の刃ポイズンギアス!!」


片方の勇者がそう言葉を唱え、ゴブリンに向かってとびかかる。

それと同時にその手に持つ刀剣は毒の色調で満たされ、その様子はまさしく毒々しいと形容するにふさわしい状態となる。


「おら!くらいやがれ!!」

シュバッ!!!!


ゴブリンはその攻撃を避けることも受け止めることもせず、そのまままともに攻撃を受けた。


「なんだよ、レベル差がありすぎて避けるそぶりを見せることも出来ないのかよ…。とんだ期待外れだ……な……?」


目の前のゴブリンとの実力差を確信して調子に乗っていた勇者であったものの、じわじわとその表情を曇らせていく。

…というのも、全力でゴブリンに切りかかった刃が全く通っていないのだ…。


「な、なんだ!?」


攻撃した勇者はそのまま後ろに下がり、一旦距離を取る。


「こ、攻撃が通らなかったぞ…?ど、どうなってる…?ぜ、絶対に命中したのに…」

「そ、そんなわけないだろう!お前、俺を驚かそうとしてるつもりか?面白くないぜそんなの」

「ち、ちがっ…!た、たしかに攻撃が…」

「もういい俺がやる!お前はそこで見てろ!」


そう会話をした後、もう一人の勇者が剣を抜いてゴブリンにとびかかった。


「燃やし尽くせ!!紅き刃サージカル!!経験値は俺のものだ!!」


その瞬間、勇者の振り構えた刃が炎で満たされ、メラメラと音を立て始める。

まばゆい明りを放つ炎が暗い洞窟内を明るく照らしながら、その刃は今度こそゴブリンに…

 …届かず。


反射の盾アルミラル


「なっ!!??」

「そ、そんなばかな!?」


低い声でゴブリンがそう言葉を発した瞬間、ゴブリンの周囲は一瞬のうちに分厚い反射板でおおわれた。

勇者は生み出された盾に勢いのままに攻撃をしたものの、その攻撃は全くゴブリンにとどかないばかりか、かえって自分たちの方が炎の攻撃を反射され大きなダメージを受けた。


「グハッ!!!な、なんだよこいつ!弱小のゴブリンのはずなのに、なんでスキルまで使えるんだよ…!」

「た、たまたまだろ!!俺もう本気だしちゃうもんね!!!」

「お、おい!それなら最初から本気出せよ!!」


そう言葉を交わした二人は、再びゴブリンに対して攻撃態勢をかまえ、いっせいに切りかかる。


「今度はスキルなしで行く!!直接その体を真っ二つにしてくれる!!」

「よし!同時にいくぞ!!」


二人は鍛錬によって鍛えた力を遺憾なく発揮し、なかなかのスピードでゴブリンまでの距離を詰め、自身の手に持つ刀剣を大きく振りかぶる。


「よし!これならスキルを唱える時間もないだろ!」

「俺たちがスキルだけの勇者だとでも思ってたか??残念だったな!俺たちは剣の扱いだってちゃんと会得してるんだよ!!これで終わりだ………!?!?」

「……!??!?!」


二人が同時にそれぞれの刀剣を振り下ろしたその時、二人の目の前には衝撃の光景が繰り広げられた…。


「な、なんだよ…それ…」

「う、うそ…だろ…」


なんと、ゴブリンは勇者により大きく振り下ろされ二本の刀剣をそれぞれ自身の片手で受け止めたのだった…。


バギィィィッ!!!

「「っ!!!」」


…そしてさらに、手の中に受け止めた刀剣の二本ともを軽々と折ってみせた…。

それも、渾身の力で受け止めたというよりもかなり余裕そうな表情で受け止めており、その雰囲気は一段と勇者たちの動揺を大きくくする…。


「そ、そんな……そんな……」

「お、おいおい…。こ、こいつだけ特別強いってことはないよな…?ま、まさかとは思うが、他のゴブリンもこいつと同じくらい強いのか…?」

「……」


…ついさっきまでの余裕はどこへやら、一転して勇者二人はその表情を青白くする。


「お、俺…勇者やめよっかな…。ゴブリンの一体倒せないなんて、やっていける自信ない…」

「ば、ばかか!ここはいったんひくぞ!もどってから作戦会議だ!」


二人はそう会話を終えると、痛む体を必死に引きずりながら一目散にダンジョンを後にしていった…。

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