予想外の敵

 剣士像が押され、入口が開いている様子からすると、エリックは1人で奥へと進んでいってしまったようだ。


「追わねーとな」


 ユベル先輩は顎に指を当て、考え込む。


「ローランド。お前が1年の中で一番状況判断が優れている。俺について来てくれるか?」

「いいですよ」


 二つ返事で了承する。


「お前たち2人はこのまま宿舎に戻って、このことを報告しろ」

「ういっす」


 ナッシュとシモーネには帰還を命じる。


「もし、帰る途中で女子たちを見つけたら、知らせて応援を頼め」

「了解っす」


 誰かが知らせるために戻る必要がある以上、ナッシュたちを戻して、メンバーの欠けてない女子班に応援を頼むほうがいいだろう。

「しかし、なんであいつ勝手に行ったんだ?」

「さあ。自分の力を試したかったんじゃないですか?」


 真意はわからない。

 だがここに来てから、ずっと不服そうな表情をしていた。

 そしてさっきの兄との会話。

 あれによってより触発されたのだろう。


「別に、そんなんで選手になれるかどうかは決まらねーのに」


 名家に生まれた宿命が、彼を誤った判断へと導いたのだろう。

 例えこの先の強敵を倒せたとしても、勝手に独断で行動したことはむしろマイナスだ。

「先輩、急ぎましょう」

「そうだな」


 オレとユベル先輩はダンジョンのさらに奥へと足を踏み入れた。




 * * *




 隠し階段を降り、進む。

 今までと違い、人が1人やっと通れるくらいのかなり細い通路だ。

 だが今のところ、魔物は見当たらない。


「さっきまでと雰囲気が違いますね」

「そうだな、不気味だ」


 今までとは何かが違う。

 むしろ魔物が1匹たりともいないのが何とも不気味だ。


「まだそんなに遠くへは行っていないはずだ。早くあいつを探して脱出しよう」

「そうですね」


 今ならエリックに追いつけるはず。

 周囲を警戒しつつも、走って通路を進む。


「何だ!?」


 足に攻撃を受け、即座に後ろへジャンプする。

 触手のようなものが床から生え、襲ってくる。


「何なんだこれは?」


 すぐに足元の触手を剣で斬り裂く。

 しかし別の触手が生えてくる。


「ダンジョンそのものがトラップとか、初耳だ」


 後ろからも触手に襲われ、囲まれる。

 斬っても斬ってもきりがない。


「ったく、野郎の触手プレイなんか需要ねーっつうの」


 ユベル先輩も襲われているようだが、囲まれているだけだ。

 何故かオレのほうに集中している。

 そうこうしていると、壁からも触手が出てくる。


「雷月斬り」


 周囲を斬り払う。

 だがすぐに新しい触手が襲ってくる。


「っ!!」


 後方から両足を絡みつかれ、体勢が崩れる。


「しまった」


 僅かな間に大量の触手に全身を縛られ、引っ張られる。


「ローランド!!」


 ユベル先輩の差し伸べた手を掴み損ねる

 ダンジョンの壁の中に引き込まれているみたいだ。

 触手に魔力を急激に吸われ、力が入らない。


「……駄目だ」


 触手に視界を塞がれると同時に、オレは意識を失った。


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