隠し通路を見つけた

 オレたちは第一プリメーラのパーティーの忠告を無視して、ダンジョンの最深部へとやって来た。


「でけぇ扉だぜ」


 ナッシュの言う通り、扉があった。

 とても天然の物とは思えない、だがいかにもこの奥にボスがいますと言わんばかりの巨大な鉄の扉が目の前に鎮座していた。


「みんなで押そうぜ」


 2手に分かれて、扉を押す。


「せーの!!」


 力技でなんとか動かすと、そこからは案外簡単に扉が開いた。

 ようやくたどり着いた大広間には、魔物1匹いなかった。

 

「あいつらの言った通りだったな」


 ユベル先輩の言う通り、無駄足になった。

「踏破記念にガラクタ1つでももって帰りたいけどな」

「なあ、ローランド。この銅像とか持って帰れねーかな」

「でかすぎて無理だろう」


 何メートルもある剣士の像やら巨大な魔物のオブジェやらが配置されている。

 欲しがる物好きはいるかもしれないが、持って帰るのは現実的ではない。

 大広間を見回して何かないか見回す。


「ん?」


 剣士の像の配置が不自然だ。

 円形の大広間の壁際に等間隔で剣士像は配置されている。

 だが剣士たちは中心ではなく、門の反対側にいる1体の剣士のほうを向いている。

 それだけじゃない、他の剣士は剣を構えているが、この1体だけは剣先を床に置いている。


「こいつだけ変だな」


 門の反対側に配置されたポーズの違う剣士像に寄ってみる。

 試しに軽く押してみる。


「動いたぞ!!」


 滑車でもついてるかのように、左右方向には簡単に動く。


「え!?」


 剣士像のあった場所の下から出てきたのは――


「階段だ!!」


 思わず叫んでしまう。


「本当か!?」

「流石だぜローランド」

「俺にも見せてくれ」


 ユベル先輩、ナッシュ、シモーネが一目散にこちらへ駆けて来る。


「うおぉー! ガチで階段があるぜ」

「早く行こうぜ」


 はしゃぐ2人。


「待て」


 だがユベル先輩がオレたちを止める。


「今日は引き返そう」

「なんでだよ、早くしないと他の奴らにお宝取られるぜ」

「そうっすよ、先輩。行きましょう」


 ナッシュとシモーネは奥へと進みたいようだ。


「とりあえず今日はここで引き返す。先生に報告して明日以降また来よう」

「えー」

「目的を見失うな、俺たちが今危険を冒してまで先に進む必要はない」

「そうですね」


 オレは先輩に賛意を示す。

 2人は渋々受け入れたようだ。


「帰りもある。そろそろ腹ごしらえにしようぜ」


 剣士像を押して階段を隠しておく。


 ボス部屋で昼食。

 なんとも言えない雰囲気だ。

 オネスタ先輩が作ってくれたサンドウィッチを頬張る。


「おいしい」


 サクヤしかりオネスタ先輩しかり、2年の女子は料理上手が多い。


「お前ら、出たい種目はあるか?」


 ヘキサゴン・カップの話題になる。


「俺はサッカーやりてー」

「ナッシュ。残念ながら普通のスポーツは種目の中にねーよ」

「そうか。じゃあ何でもいいや」

「ローランド、お前は何かやりてえのないの?」

「目立たない種目とかないですか?」


 そんな種目があるとは思わないが、一応聞いてみる。


「どの種目も満員の観客だが、観客が物理的に観れない種目ならあるぞ」

「本当ですか!?」

「ああ、選手には人気だが、バトルロワイヤルなら観客はほとんど観れない」

「バトルロワイヤル?」


 名前からして目立ちそうだが。


「バトルロワイヤルは、広大なフィールドの中で最後の1人になるまで戦う競技だ。広大すぎるが故に観客はフィールドの一部にしかいない。だから目立たないぜ」

「なるほど」


 その競技だったらエントリーしてもいいかもしれない。

 1対1になるまで逃げ続けて、最後の1人になったらエリックのときのように誤魔化せばいい。


「いいのかローランド。さっきの連中にまた狙われる」


 サンドウィッチを頬張りながら、呑気な様子のシモーネ。


「そりゃ嫌だな。あんた王族や貴族、関わりたくない」

「一応俺も貴族なんだがな」

「え!? ユベル先輩、貴族なんですか?」

「ああ、ヨルクって言う面倒くせー家なんだ」


 まさかエリックと並ぶ名家の出身だったとは。


「意外ですね」


 今までの振る舞いから貴族の雰囲気を感じなかった。

 最も、エリックのようにあからさまに平民を見下すような貴族は他に知らないが。


「俺は貴族間の厄介事には関わらないことにしてる。まあ家のことは興味ないし、関わりたくても関われないからな」

「長男じゃないからとかですか?」

「生まれた順番は関係ない。俺の家は貴族の中でも特殊でな、女尊男卑なんだ」

「女尊男卑?」


 女性のほうが偉い家系など聞いたことがない。


「どういうわけか、女系の子供でないとヨルク家の魔術を引き継げないんだ。俺の子供は使えない。俺に強い適性があれば使い道はあったりするが、まあ、つまり俺は用無しってわけだ」

「大変なんですね」

「全然。他の貴族の奴らみたく、出世のことだの一族のことだの考えなくていいから、むしろ気が楽だぜ。憐れむなら骨肉の争いに巻き込まれているエリックを憐れんでやってくれ」


 詳しくはわからないが、兄との因縁があるようだった。

 あいつはあいつなりに大変なんだろう。


「ん? エリックはどこだ?」


 エリックの姿が見当たらない。


「まさか」


 さっきの剣士像を見る。


「開いてる」


 さっき確かに剣士像を動かして、入口を閉じたはずだ。だが今、入口は再び開いている。


「エリックの奴、1人で行きやがったな」

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