60 金銀姉妹の実力

 月明かりが辺りを照らす中、メンシスとソリスの二人は容赦なく次々とワイバーンを倒していった。


 それはもはや蹂躙と言って良い程の惨状だった。

 普通であればワイバーンに襲われた人間は無惨に食い殺される宿命にあるのだが、この二人においてはワイバーン側が無惨に殺されるのである。

 超位冒険者であるこの二人がいたのが、ワイバーンにとっての一番の想定外と言えた。

 こうなってしまえばもはやワイバーン側がチャレンジャーであると言わざるを得ないだろう。


 しかし、挑戦者と言うのもおこがましい状態であるのもまた事実であった。

 二人の纏う黄金竜と白銀竜の素材を使って作られた装備はその強度がとにかく凄まじく、ただのワイバーンごときの攻撃では傷一つつかないのだ。

 そうなってしまえば残っているのはもう彼らの切り札とも言えるブレスしかない。


 だが残念なことにそのブレスすらも彼女らは片手間に撃ち落とし、容易に斬り裂くのだ。


「姉さん援護をお願い!」


「ああ、任されたぞ!」


 挙句、二人はその単体性能の高さにおごらずチームワークも磨いていた。

 完璧……そうとしか表現できない強さを持っているのだった。


 そんな二人が次々にワイバーンを倒していくと、ついにリーダー格と思われる一際大きな個体が彼女らの前に姿を現した。


「ファイアワイバーンか」


 そのワイバーンはファイアワイバーンと呼ばれている種類であり、通常のワイバーンと比べて大きな体と発達した爪を持っている。

 しかし何より特筆すべきは彼らの持つ独自の器官である燃焼袋だ。

 この燃焼袋は極限までブレスの温度を高めることが出来るため、通常のワイバーンよりも遥かに強力なブレスを吐くことができるのである。 


「それも五体……どうやら複数の群れが合わさっているのは確実のようね」


 そんなとんでもないワイバーンがなんと五体も現れてしまっていた。


「ただでさえ驚異的な力を持つファイアワイバーンが五体だと……!!」


 これまでは絶対に発生しなかったであろう状況に、ガルドはただただ驚愕するのみである。

 ファイアワイバーンは騎士団の中でも相当な実力を持つ者たちを数十人は動員せねば倒せない相手なのだ。

 もはやこれまで……万事休すだと、その場の誰もが思ったことだろう。


「いいねぇ、これだけいれば大規模魔法も躊躇い無く撃てるよ」


「あまり派手にやらないようにね。街道の修復が大変なんだから」


 だが、超位冒険者である二人はそんなことなど一切、これっぽっちも思っていなかったようだ。

 むしろ二人の様子からは余裕すら感じられた。


「はいはい、それじゃ少し威力を抑えて……フォーリンライトニング!」


 メンシスが魔法を放ったその瞬間、遥か上空に現れた巨大な魔法陣からいくつもの落雷がファイアワイバーンへと向かって走った。

 それはことごとく彼らの巨体を焼き、あっという間に五体のファイアワイバーンが黒焦げになりながら地面へと落ちたのだった。


「なんなのだ今の魔法は……!? あの威力に攻撃範囲、いずれも上位魔法を遥かに超えている……!」


 そんな大規模な魔法を見たガルドはまたもや驚きのあまりそう叫んでしまっていた。

 それもそのはずだ。たった今メンシスが放った魔法は上位魔法を遥かに凌駕する威力と範囲を持つ「超位魔法」であったのだ。


 上位魔法を使えれば一人前の魔術師として認められるこの世界において、ひと握りの才能を持つ者がそこから更なる鍛錬を積んだ先にようやく習得出来るのが超位魔法だった。

 それを易々と使うばかりか、威力の調整をも容易にこなしてしまうメンシスがどれだけ異常なのか……仮にも騎士隊長であるガルドがわからないはずも無かったのである。


「リーダーも倒したし、残っている奴らの統率も取れなくなるはず。こうなればもう後は消化試合だな」


「だからと言って油断をしては駄目よ姉さん」


「するわけないさ。そう、一体たりとも通しはしない……もう誰一人として死なせはしないと決めたんだからな」


 そう言うメンシスの目は相も変わらず決意と覚悟に溢れている。

 戦闘を楽しんでいる様子こそあるものの、結局のところ彼女の根底にあるのはそれなのだ。

 過去への後悔を払拭するように、今生きている人を守るためにただただひたすらに魔物を狩り続ける。

 それが彼女なりの過去との向き合い方であった。

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