50 指名手配
日が昇り、朝日が優しく街を照らし始める。
「あ゛あ゛あ゛っっ!! 忘れてたぞ!!」
そんな爽やかな明朝に、突如としてカルノンの叫び声が部屋内に響き渡った。
「な、なに!? どうしたの……!?」
「敵!? ……あれ?」
そのあまりにも迫真の叫び声に二人は叩き起こされたのだった。
「そうだ、おいら大事なことを言い忘れてたんだ!」
「大事なこと……? それって今じゃないと駄目かな……」
咲は寝起きでぽやぽやしている頭を精一杯回転させて、なおかつ今すぐにでも二度寝してしまいそうな程にぼけーっとした表情を変えずに、慌てた様子のカルノンにそう言った。
「……いや、緊急なんだね」
しかしカルノンがこれ以上ない程に真剣な表情をしているのを見た彼女は速攻で気持ちを切り替えた。
「いいか、落ち着いて聞いてくれよ!」
「カルノンの方が落ち着きないけど……まあそれはいいか。それで、大事なことって?」
「咲、お前アルタリアの中央都市で指名手配されてるぞ……!」
「えっ」
それは予想だにしていないものであった。
「なんでそんなことに……?」
「そうだよ、指名手配なんて……!」
知らない内に指名手配されているなんて考えもしていなかったし、そんな事をされるいわれも無いと思う咲。
桜も同様に咲の扱いに憤慨していた。
「よくわからないけど、おいらが見た張り紙には優秀な勇者を失ったのは外れ勇者である咲のせいだとかなんとか書いてあったな……」
「あぁ……」
カルノンのその言葉を聞いたその瞬間、咲の脳内に桜と佐上の二人の名前が思い浮かんだ。
あの時ダンジョン内で転移トラップにかかった三人の内、二人は強力なスキルを持つ優秀な勇者だったのだ。
そんな将来有望な二人を外れ勇者である咲のせいで失った……と、言う事になっているのだろう。
「ううむ……確かにそうかもしれないけど、流石に八つ当たりが過ぎる……! そもそも私は転移に巻き込まれた側なのに! 原因は佐上の方でしょ!」
咲はあまりにも自分の扱いが酷いことに文句を言う。
そもそも転移トラップに引っかかったのは佐上であって、彼女は完全に巻き込まれた側なのだ。
なのに知らない内に自分が諸悪の根源みたいに扱われていれば誰だって腹を立てるだろう。
それは彼女であっても例外では無かった。
「はぁ……これからどうしよう。指名手配ってことはその内に他の街でも行動できなくなるよね」
しかしいつまでも怒り続けるのではなく、咲は既に今後の事を考え始めていた。
こうしてすぐに冷静な思考に移れるというのも、いくつもの修羅場を超えてきた彼女だからこそ持っている強みであった。
「それどころかここから王城のある中央都市までは馬車で一週間程らしいから、多分そろそろこの街にも指名手配書が回って来ちゃうんじゃないかな……」
咲に続いて桜も今後の事を考え始める。
アルタリア王国内にはいくつかの都市があるものの、そのほとんどが彼女らが召喚された中央都市アルタリアから馬車で数週間以内の距離にあるのだ。
そのため桜の言ったように、指名手配書が今彼女たちのいるフェーレニアに回って来るのも時間の問題であり、このままでは移動手段を得るまでの間この街で冒険者として生活していくことすら難しくなってしまうだろう。
それを理解した咲はとある決断をする。
「よし、こうなったら直接行って直談判してやる」
そう、それは単純にして明快だった。
自ら中央都市に戻り、国王と直接話をつける……それが一番手っ取り早いと咲は判断したのだ。
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