35 レイナの過去②
レイナはそれまでとは打って変わって、力強さを感じる声で話し始める。
「だからこそ、あんな兄を放っておくわけにはいかないのです。ブルーローズ家の名誉のためにも私が彼を止めねばなりません」
その目は確かな覚悟が感じられ、意思の強さで満ち溢れていた。
しかしそこで咲は疑問を持つのだった。
「そう言えば、お兄さんは連れ子なんですよね? どうしてその……レイナさんの方が分家と呼ばれているんですか?」
咲はそう言った後、あまりにもセンシティブな話題だったかと思い直しレイナに謝ろうとする。
しかしそれよりも速くレイナが口を開いた。
「ええ、本来は直系である私がブルーローズ家の次期当主となる予定でした。……ですがどういう訳かダニエルを次期当主として認めるといった内容の遺書が父の自室から見つかったのです。父は兄がおかしくなったのと同じくらいの時期に病に倒れてしまい今も意識を失っています。なので遺書について確認することも、その内容を覆すことも恐らくもう出来そうにないのです……」
「……そう言う事だったんですね。嫌なことを思い出させてしまったみたいですみませんでした」
「構いませんよ。我々が兄の元から独立し、ブルーローズ家の名誉のために戦うことを選んだ時から一度たりとも忘れたことの無いものですから」
咲はレイナに覚悟に満ちた声でそう返され、腕に抱えている革袋を見ながら少し考え込む。
その後、咲は抱えていたその革袋をレイナに返したのだった。
「それなら、このお金はお返しします」
「そう言う訳にはいきません!」
レイナは咲に革袋を渡し返そうとする。
しかし、実際のところ彼女には金が必要だった。貴族同士の関係を保つうえで常に屋敷を煌びやかに維持しなければならないのだ。
金が無い……つまりは貴族としての威厳が無いと言う事を悟られた瞬間、対等な関係は気付けなくなる。
今の彼女にとってそれが一番避けなければならないことだった。
とは言え咲の決意は固い。
渡し返された革袋を再びレイナに渡し返した。
「あんな話を聞いてしまっては受け取れませんよ。このお金はお兄さんを止めるために……ブルーローズ家のために使ってください」
「……本当によろしいのですか?」
レイナのその言葉に対し、咲は微笑みながらコクリと頷く。
「……それではここは咲さんに甘えるといたしましょう。ですが全てが解決したその時は改めてお礼をさせてくださいね」
「はい、その時は是非」
結局、咲は金貨を受け取ることなく屋敷を去った。
もちろん大金に未練が無いと言えば噓になるが、それ以上にレイナの事を心配しての行動だった。
「ねえ、本当によかったの? あれだけの大金……多分そうそう手に入るものじゃないと思うけど」
「確かにあるに越したことはないけどね。少なくとも今は私たちよりもレイナさんの方が必要としていた。それだけだよ」
「ふふっ、流石は私の咲ちゃん。……かっこいい」
「ひぅっ」
桜に耳元でそう言われ、咲は思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
「もしかして咲ちゃん……耳弱かったりする? えへへっもっとそのかわいい声聞かせて~」
「まって桜、本当にだめだから……あぁっ」
弱点を知られてしまった咲はなすすべなく桜に溶かされてしまう。
あのカルノライザーの正体である少女がこんな姿を晒しているのだ。その姿はカルノライザーのカッコイイ姿に惚れていた者の癖を容易に捻じ曲げてしまうだろう。
……そう、桜はそうなっていたのである。
あんなに強くてカッコよかったあのカルノライザーを自らの手でとろとろに溶かしている。
その背徳感を知ってしまった桜はもう戻れないだろう。
そう言う事もあり、そのまましばらくの間湧き出る欲望のままに咲を弄んでいた桜だったが……。
「きゃっ!?」
咲の反撃により、攻守が反転するのだった。
「はぁ……はぁ……あれだけ言っておいて、桜も耳弱いんじゃないの」
「あっ、その、そうなの……。ごめん、つい出来心でやっただけだから許して……ひぁっ」
命乞いをする桜だったが、既にあれだけ好き放題してしまったのだ。
咲が反撃を止めるはずが無かった。
「んぅっ咲ちゃん……や、やさしくしてね?」
桜のその反応が咲の心に火を付ける。
結局、突然始まった二人のイチャイチャは互いに攻守を交代しながら陽が真上に上るまで続いたのだった。
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