12 ダンジョン訓練とパーティ決め
実戦訓練が始まってから数日が経った頃。
とうとう咲たちは国外のダンジョンで実戦訓練を行うことになったのだった。
ここアルタリア王国付近には多くのダンジョンが存在しており、それぞれに難易度が設定されている。
トラップの数やその凶悪性、出現する魔物の危険度など、色々な要素によってその難易度が設定されている訳だが、今回彼女たちが挑むこととなったのはその中でも一番難易度の低い場所である。
彼女らにとっては初めてのダンジョンとなるため、そうなるのもやむなしだろう。
それでも得られる知識や経験は相当な物であり、魔物やダンジョン内に自然発生する宝箱からは希少な道具や装備品もドロップするのだ。
少なくとも超初心者と言える彼女たちが挑むのであればメリットしかないレベルではある。
しかしそれを良く思わない者もいた。
「はぁ? なんで俺がこんな低級ダンジョンなんか挑まないといけないんすか」
佐上は騎士団長ガルドに向かって抗議するかのようにそう言う。
上級剣術と高い勇者適性を併せ持つ彼は低級ダンジョンなどに挑む意味が無いと考えていた。
「君の能力が高いことは理解している。だがダンジョンには危険が多い。難易度の低い所から慣らしていくのも重要なことなんだ。どうか受け入れて欲しい」
ガルドの言う事ももっともだった。
佐上の戦闘能力は高く、確かに低級のダンジョンには過剰過ぎる程ではある。しかしそれだけでは無いのがダンジョンなのだ。
油断や慢心、そういった物に殺された者たちが大勢いた。それを知っているからこそ、ガルドは佐上にそう返すのだった。
結局佐上も納得……と言うより、どれだけ言っても無駄だと思ったのかそれ以上は何も言わなかった。
そうしてひと悶着あった後、ダンジョンの入り口前へとやってきた咲たちはそこで説明を受けるのだった。
「このダンジョンには危険なトラップも無いし、現れる魔物も今の君たちには大した脅威にならんだろう。だが危険であることに変わりは無い。しっかりと注意しながら進むように」
ガルドはそう言うと、次に数人のパーティを作るように言ったのだった。
「パーティ……」
咲は辺りを見回す。
気付けば他の生徒は咲から距離を置いていた。
それどころか視線を向けると目をそらされ、露骨に無視されているのが見て取れる状況であった。
それも仕方がないだろう。
咲に対して表面上は今まで通り接している生徒たちだったが、やはり心のどこかでは外れ勇者であることを気にしているのだ。
それがダンジョンと言う危険地帯で命を預けるのであればなおさらだろう。
「咲ちゃん……」
そんな咲の元に桜が駆け寄ってくる。
「誰もいないなら私と組もう?」
「ありがとう桜。でもそれだと桜が……」
「いいの。咲が一人でダンジョンに挑むことになるくらいならその方がずっと良い」
桜の持つ超級治癒スキルはこの世界においてとても貴重な高位の回復魔法を使えるようにするスキルである。
どんな大怪我を負っても瞬時に回復できる……それがどれだけありがたいことかは語るまでも無いだろう。
だからこそ彼女は引く手あまたであり、外れ勇者なんかと共に居る必要は無いのだ。
それでもなお、彼女は友人である咲を選んだ。ただそれだけの事である。
「やあ、桜ちゃん。……それに外れ勇者の咲」
と、そんな二人の元に佐上がやってきたのだった。
「何か用?」
「おいおい、そう睨むなよ。桜ちゃんは俺にとっても重要な存在なんだ。だから二人を俺のパーティに入れてやるって話。桜ちゃんにもしもの事があったら将来的に俺の活躍に支障が出るからな」
佐上はそう言うものの、今の彼は一人である。つまり本来はパーティに入れるも何も無かった。
結局のところ彼もまた腫物扱いだったのだ。他の生徒とパーティを組めず、最後まで余っていた。
そのため自分がリーダーであるというプライドを維持するために、咲と桜をメンバーとして迎え入れる形でパーティを作ろうとしたのだ。
「……はぁ、他に組めそうな人もいないし、仕方ないか。桜はそれで良い?」
「うん……そうするしかないんだもんね」
咲と桜は再び辺りを見回した後、他に選択肢は無いことを察して不本意ながらも佐上のパーティに入ることを承諾したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます