9 夜襲

 時は経ち、すっかりと日が暮れてしまう。

 夜空には月のような星が三つ光り輝いており、ここが紛れもなく異世界であるのだと咲たちに突きつけるのだった。


 で、その咲はと言うと。


「はぁ……露骨に扱いが良くない」


 ため息をつきながらそう文句をこぼしていた。

 と言うのも、彼女が案内された部屋はお世辞にも客人にあてがうようなものでは無かったのだ。

 埃っぽく薄暗い。おまけに壁や天井はところどころ崩れ落ちており、外れ勇者としての扱いの洗礼を受けていた。


「まあ、右も左もわからない世界でいきなり国外に放り出されるよりかはマシか……それにごはんとかお風呂とかは普通に使わせてもらってるしね」


 自身に言い聞かせるように咲はそう言って部屋の隅にカバンを置く。


「ふぅ、これでやっと出られるな」


 するとカルノンがカバンから出てくる。

 他の生徒にその姿を見せる訳にはいかないため、ずっと咲のカバンの中にいたのだ。

 窮屈な中にずっといたからか、久々の外の空気をこれでもかと吸い込んでいる。もっとも彼に呼吸の必要性があるのかは謎だが。


 コンコン


 そんな時、部屋の中にノックオンが響くのだった。


「こんな時間に誰? 夕食も風呂も終わったし、次の集合は明日になってからでしょ」


「俺だよ、佐上だ」


「何の用?」


 扉越しに咲はそう返す。


「なぁに、今朝の事を謝ろうと思ってね。性奴隷にするだなんて言って悪かったっす。……なあ、顔を見て謝りたいから扉を開けてくれよ」


「ああ、そういうこと」


「(お、おい……開けちゃうのか?)」


 咲が鍵を開けようとすると、それは不味いんじゃないかとカルノンは囁いた。


「(でも謝りたいって言ってるし)」


「(どう考えたって怪しいぞ……!)」


「(確かに……)」


 カルノンにそう言われ、考えを改めた様子の咲。

 しかし咲が一向に扉を開けなかったためか佐上は我慢の限界を迎えていた。


「開けないってんならこっちから開けてやるよ」


 そう言って佐上は扉に剣を突き刺した。


「うわっ大胆過ぎる……」


「ははっ、お前がさっさと開けないからいけないんだぞ。まあどちらにしても? この程度の扉じゃ俺に対して何の意味もないけどなぁ」


 何の躊躇いも無く扉を切り刻んだ佐上はそう言いながらズカズカと部屋の中へと入り込む。


「で、謝りたいっていう様子じゃないけど……何の用?」


「おいおい、この状況でわからない訳ねえよな」


 部屋には風呂上りで色気を纏う女子高生と剣を持った男子高生の二人。

 さらには片方はこの世界でもかなり強力なスキル持ちであり、もう片方は外れスキルの持ち主である。

 誰がどう見てもその理由はわかることだろう。


「……恋バナ?」


 ……一人を除いて。


「あぁ? ふざけてんのか?」


「うわっ」


 咲の発言が佐上をさらに不機嫌にしたようで、彼はそのまま咲を押し倒したのだった。


「どう考えたってお前を襲いに来たに決まってんだろうが」


「あー、そういうことか」


 それは納得、と言った表情で咲はそう言う。


「……随分と余裕そうじゃねえか。力じゃどう足掻いたって勝てないっての、本当にわかってんのか?」


 と、余裕綽々で佐上はそう言うものの、実際の所は未変身の状態でも咲の身体能力は凄まじく、今の彼が仮に数十人集まった所で咲には敵わないだろう。

 もっともそれを彼が知るはずもなく、自分の方が強いと思ってのこの行動であった。


「実際、私の方が強いからね」


「……は? おいおい、こりゃ傑作だ。そんなのハッタリにもならねえって」


 咲による自分の方が強い発現が相当ツボに入ったのか佐上は笑い続ける。

 しかし少しするとその表情を一転させ、咲の首元に剣を突き付けたのだった。


「いい加減にしろよ……散々俺をバカにしやがって。まあいいさ。どうせその余裕もすぐに無くなるんだ」


 佐上はそう言って咲の胸に手を伸ばす。

 同年代の女子生徒に比べると遥かに発育の良い彼女の胸を滅茶苦茶にしてやりたいと思っている男子は多く、もちろん佐上もその一人であった。


「触ったら吹っ飛ばすよ」


「あぁ? 無理に決まってんだろうが」


 咲がドスの効いた声で忠告するも佐上はその手を止めようとはしなかった。


「はぁ……。えいっ」


「うぐぇぁっ!?」


 これ以上は許容できないと、咲は佐上に頭突きをする。

 その瞬間、佐上は部屋の外へと凄い勢いで吹き飛んで行ったのだった。


「やば……やり過ぎちゃった」


 石の壁がガラガラと崩れ、その下で佐上は気絶していた。

 このままでは不味いと思った咲は佐上を男子生徒が寝泊まりしている部屋の前へと運んだ。そして昨夜は何も起きていないとだんまりを決め込むことにしたのだった。

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