8 勇者の力
魔龍王がカルノライザーによって討伐され、アルタリア王国は平和を取り戻した。
しかし、魔龍王が最後に残した言葉が国王にとっての新たな悩みの種となるのだった。
「魔龍神王……か。まさか魔龍王でさえ、より上位の者に従っているだけだったとは」
彼が最期に零した魔龍神王という存在。その存在を知る者はアルタリアにはおらず、もちろん国王ですら聞いたことも無かった。
一切が謎に包まれたその存在を知ってしまった以上、国王も対策せざるを得ないだろう。
でなければ魔龍王以上の存在に容赦なく蹂躙されることになるのだから。
しかしその対策となる勇者はほとんどが魔龍王によって殺されている。
誰がどう見ても手詰まりと言える状況だった。
ただ、国王はまだ望みを捨ててはいなかった。
「そ、そうだ……! あの戦士を……! 魔龍王を打ち倒したあの戦士がいればあるいは……!」
国王の唯一の希望……それはカルノライザーだった。
突如として現れ、王国の窮地を救ったヒーローであるカルノライザーを頼りにしないはずが無かった。
「ですがあのような人物、王国で見たことも聞いたこともありません。それどころか他の国でもあのような者がいると言う話は……」
しかしそう簡単にはいかないものである。
カルノライザーの正体はつい先程この世界にやってきた咲であり、それ以前の情報などこの世界にあるわけが無いのだ。
「ええい、仕方がない。あの戦士を捜索している間、残った勇者の育成を行うしかあるまい」
「ば、馬鹿言うな! あんな化け物と戦えってのか!?」
国王の言葉に反対するように佐上はそう叫んだ。
「そのために其方らを呼んだのだ。戦うための能力だって与えたじゃろう」
「どう考えても無理に決まってるじゃないっすか! なーにが上級剣術だ! あんなのと剣でやりあえるはずが……」
「では見てみるか? 上級剣術の力を」
「……へ?」
そう言うと国王は使用人を呼び出し、残った生徒を闘技場へと案内するように命令した。
「咲と言ったか。急な事態じゃ。其方も一応は勇者として扱ってやろう。もっとも、待遇は期待せん方がいいがの」
「……」
随分と上から目線だね、と言いそうになった咲だったが、流石に今ここでそれを言ったら余計ないざこざが増えるだけだと言うことは理解していた。
そうして闘技場へと案内された咲たちはそこで模擬戦を見ることとなった。
「ほう、この子らが新しく召喚された勇者か。俺もあの頃は何もわからなくて混乱したっけか」
「なんだかんだで私たちもこっちに来てからずいぶん経つわね」
模擬戦を行うのは共に勇者としてこの世界に召喚された元日本人であるらしく、咲たちを見るなり過去を懐かしむ素振りを見せていた。
片方は大剣を構えた筋骨隆々の男性で、もう片方は全身をローブに包み杖を構えた女性である。
どちらも日本人らしい顔立ちとこの世界では目立つ黒髪であるため、咲たちはその姿に安心感を覚えていた。
「まあそれはそれとして、新人に戦うための自信を持たせるためにもいっちょ派手にやってやるかぁ!」
「そうね。百聞は一見にしかずって言うくらいだし」
「お、それ久しぶりに聞いたぜ。まったく、日本が恋しくなること言いやがって!」
大剣を構えていた男はそう言いながら女性の方へと突っ走って行く。
そして背丈ほどもある大剣だと言うのに、それを軽々とぶん回したのだった。
「いい攻撃じゃない。前に会った時よりもさらに強くなったんじゃないかしら」
ローブの女性は男の攻撃を地面から突き出させた土の塊で受け止めつつ、余裕そうにそう言った。
そして上空に大量の光の矢を生み出したと思えば、即座にそれを男に向けて高速で射出し始めた。
「おぉっと、殺す気かよ!」
そう言いながらも大剣使いの男は得物である大剣を器用に使い、飛んでくる大量の光の矢を容易くさばいて行く。
「まさか。どうせこの程度じゃ死なないでしょう?」
「当たり前だ。まだまだこんなもんじゃないぜ」
共に軽口を叩きつつ、二人は定期的に攻防を入れ替えながら戦いを続けた。
その勢いと規模は凄まじく、だんだんと闘技場の地面や壁が破壊されていく。
「両者、やめい!」
そこで国王の声が闘技場中に響いたのだった。
「其方ら、また闘技場を壊すつもりか」
「おおっといけねえ」
「少しやり過ぎちゃったみたいね」
てへぺろとでも言いたそうな二人に対して国王は呆れにも似た表情を浮かべる。
彼の言葉からして、過去にも同じように二人に闘技場を壊されかけたのだろう。
だがそれは裏を返せばこの二人にはそれだけの能力があると言う事の裏付けでもあった。
「なんなんだ、今の……」
それを見ていた佐上は無意識にそう漏らしていた。
「これが勇者の力じゃ。大剣使いの彼は其方と同じ上級剣術を所持しておる。其方も鍛えぬけば同じような動きが出来るようになるじゃろう。それでも戦えないと思うか?」
「はは……やっぱ、俺には才能があるんすね……!」
国王にそう言われ、佐上の表情が緩む。
その奥ではまたよからぬ事を考えていたようだが、それに気付く者はいなかった。
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