2 異世界召喚
バスの窓から見える光景は異質と言う言葉が似合う様相となっていた。
「壁……ってことは室内なのか。けど事故った訳でも無い……」
石造りの壁をメラメラと燃える松明が照らしており、どう考えても現代建築のソレでは無い。
そもそも室内である時点でおかしいのだが、その内装も大概おかしいものであった。つまるところ、どこかの建物に突っ込んでしまったと言う訳でも無いのだ。
そうして非現実的なことの連続にバス内が困惑している中、突然男の声が辺りに響く。
「よくぞ参られた勇者様方」
「勇者……?」
あまりにも非現実的な状況に、さらに追い打ちをかけるような勇者という言葉に疑問を持ったのか、生徒の一人が困惑しながらそう呟いた。それに対し男の声はすぐに反応を示す。
「その通り。我々があなた方を勇者として召喚したのじゃ。だがまずは……その妙な乗り物から降りていただきたい」
男がそう言うのと同時にバスの外に甲冑を装備した者が集まっていく。
「……ひとまず降りた方が良さそうだな」
そんな状況では従う他無いと判断した教師はそう言って運転手にバスの扉を開くように促した。
「ほ、本当に下りて大丈夫なのかよ……!?」
とは言え、この状況に対応出来ずにパニックになっている生徒もいた。今この状況でバスの外に出ると言う事がもたらす恐ろしさは計り知れないものだろう。
「気持ちはわかるが、このままじゃ埒が明かないのは確かだ。……まあ、まずは俺が降りるから、お前らが降りるのは安全だとわかってからでいい」
年長者としての立場からか真っ先にバスから降りる教師だったが、結局降りた瞬間に斬り刻まれるなんてことも無く、最終的にはバスから全ての生徒が降りたのだった。
もちろん駄々をこねてバス内に残ろうとした者もいた訳だが、そう言った者は力づくで引っ張り出されることとなった。
「……どうやら全員降りたようじゃな」
再び先程の男の声が辺りに響く。
その声の正体は玉座に座っている男のものであった。普段着と言うには明らかに絢爛過ぎるその風貌から、彼が相当な権力者であることは誰が見ても明らかだろう。
「我はこのアルタリア王国を統べる国王、タリア5世である」
「アルタリア……? タリア5世……?」
聞き覚えの無い国名に聞き覚えの無い国王の名を続けて言われたところで、それが何なのかを認識できる者はバスに乗っていた者の中には誰一人としていなかった。
もっとも国王もそうなることを理解しているのか話を続ける。
「それにしても……ふむ、今回の召喚者は随分と多いな。だがそれだけこの世界に脅威が迫っているということじゃろう」
「脅威って……もしかしてそれと俺たちを戦わせる気なのか!?」
「そのための勇者召喚じゃからな」
脅威と言う言葉を聞いた一人の生徒が思わずそう叫ぶ。
しかしこれまた国王はそうなることを予期していたかのように淡々と話を続けた。
「我が王国……いや、この世界自体に脅威が迫っているのじゃ。奴らを打ち滅ぼすためには其方ら勇者の力が......」
「ふざけんな……そもそもなんなんだよ召喚ってよぉ! 勝手に召喚して戦えって、無理に決まってんだろ!」
「そ、そうだ! 俺たちただの高校生なんだぞ!?」
一人がそう言い始めると、次第に一人また一人と文句を言う生徒が増えて行く。中にはパニックを引き起こしたり泣き始める生徒もおり、場は渾沌と化していった。
とは言えそれも当然である。むしろこの状況下で冷静でいられる者の方が少ないだろう。
「うむ、その反応も承知のうえじゃ。だからこそ、この勇者召喚には特殊な力がある。例の物を用意せよ」
国王がそう言うと使用人によって部屋の奥から石板が運ばれてくる。
そして妙な雰囲気を纏うそれは生徒たちの前に設置されたのだった。
「勇者は召喚される際に特殊な能力を習得する。それを使えば脅威を跳ねのけることも難しくは無いはずじゃ。そしてその石板を使えばその能力と勇者への適性がわかる……まあ、物は試しじゃ。確認してみよ」
国王のその言葉と同時に、勇者適性の確認が始まった。
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