固有能力『変身』を使いヒーロー活動をしていた私はどうやらファンタジーな異世界でも最強のようです

遠野紫

1 カルノライザーと龍ヶ崎咲

 突如として現れた謎の地球外生命体『ドラゴラゴン』の侵略により、瞬く間に人類は滅亡への片道を全力疾走で突き進むこととなってしまった。

 

 そんな時、人類に希望の光が現れた。そう、それこそがかつて大陸を支配した恐竜の力をその身に宿し、ドラゴラゴンと戦う正義のヒーロー『カルノライザー』である。

 彼の……いや、彼女の活躍によってドラゴラゴンの親玉は討伐され、人類は再び平和を取り戻したのだった。

 

 ありがとうカルノライザー! その活躍を、死闘を、人類は未来永劫決して忘れはしないだろう!


――――――


 そんなカルノライザーとドラゴラゴンの大激突から気付けば数か月が経ち……今や残党を狩るだけの退屈な毎日を送っている少女がいた。

 彼女の名は龍ヶ崎咲(りゅうがさき さき)。言わずもがな、カルノライザーの正体である。


「はぁ~……最近出てくるのは弱いのばかり。なんかこう、もっと骨のあるやつはいないのかねー」


「仕方ないぞ。幹部級の強いやつは咲が全部倒し尽くしちゃったんだからな」


 出てくるのは雑魚ばかりで面白くないと愚痴をこぼす咲。そんな彼女をなだめるように、恐竜のような姿をしたマスコットのような何かは彼女の周りをふよふよと浮遊しながらそう言う。

 

 彼……いや彼女……いや、性別があるのかもわからないその謎の存在は自らをカルノンと呼称し、恐竜の魂の集合体のようなものである……と自称している。

 咲とはドラゴラゴンとの戦いの中で出会って以降行動を共にしているようだが、咲もカルノンが何者なのかは結局今の今までわからずにいた。


「そうは言っても……まあ、それはそれで私強すぎってことだしいっか」


 カルノンの言葉によって何かが吹っ切れたのか、咲はとりあえず納得はしたようだった。

 

「あっ、いけない! そろそろ集合時間だ!」


 思い出したかのようにそう叫ぶと、咲はとてつもない跳躍力でビルの屋上へと跳び上がった。

 今日は彼女の通う高校の修学旅行当日なのだ。そしてその集合時間まであと数分といった状況だった。

 そのため走っていったのでは間にあわないと判断した彼女は、ビルの上を跳躍しながら目的地である高校へと一直線に向かうのだった。


「ふー、セーフセーフ」


 時間ギリギリで高校へと着いた咲は生徒が集合している所に混ざりこむ。そこで彼女に話しかけたのは彼女の友人である桜だった。


「咲ちゃん、結構ギリギリだったね」


「いやーちょっとばかしゆっくりしてたらこんな時間になっちゃってさ」


 キーンコーンカーンコーン


 咲が到着して数秒後、チャイムが学校中に鳴り響く。まさしく時間ギリギリであったのだが、咲自身その高すぎる身体能力によってなんだかんだ間に合ってしまうため、時間にはかなりルーズになっているのだ。

 いつか治そうとは思っているようだが結局今こうしてギリギリになっている辺り、残念ながら改善する兆しは見えそうに無い。


 その後バスに乗車し高校を出発した咲たち。車内では誰もが楽しい修学旅行が始まると思っていたことだろう。

 ……しかし、そうはならなかった。


「うわっ、なんだ!?」

 

 運転手のその声をきっかけにバス車内が騒然とする。トンネルを抜けた瞬間、突如としてバス全体が眩い光に包まれたのだ。


「ただの明順応……じゃないよねこれは」


 そんな中、咲はただ一人冷静に状況を分析していた。

 死闘を繰り返してきた彼女にとってこの程度は騒ぐことでも無いのだ。


「まるで何かしらに包まれているみたいだぞ」


「うわ出て来ちゃ駄目だってカルノン」


 そんな咲も、いつの間にか彼女のカバンから飛び出していたカルノンが急に話しかけてきた時には焦りを見せていた。

 と言うのも、彼女は自身がカルノライザーであることを明かしてはいないのだ。そんな中でカルノライザーと共に居たはずのカルノンと一緒にいるなんて、自分がカルノライザーですと言っているに他ならない訳である。


「……ふー、セーフ」


 幸いにも他の搭乗者は眩い光によって視界を奪われており、カルノンの姿を見た者はいなかったようだ。


 それから数秒が経ち、気付けばバスは止まっていた。そして眩い光は収まり、代わりにそれまで走っていた道路とは全く違う光景が窓の外に広がっていた。

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