黒猫耳研究室 〜黒猫と星の子の秘密〜
藤原 清蓮
第1話 人間には秘密の話
ここは、海の近くにある、とある田舎町。
人間が寝静まったころ、この町では不思議な出来事が起きている。
でもそれは、だぁーれも知らない。
だぁーれも、見たことのない、不思議で、秘密の出来事。
今日も、人間が寝静まったころ。
町はほんの少しだけ、賑やかになる。
どうやって賑やかなのかって?
キミは内緒にできるかい?
そしたら、この町の秘密をすこぉし、教えてあげよう。
♢♢♢
田舎に唯一ある、小さな学校の一室。
その教室の奥の奥。小さな小さな扉が、一つ。人間からは見えない様に、隠された扉。
扉には【黒猫耳研究室】の金メッキのプレートが。
その扉の隙間から、フレッシュな清涼感のある爽やかな香りが微かに漏れている。その扉の奥では……。
ローズマリーティーの香りが部屋いっぱいに香るのを、窓際で満足そうに口角を上げる黒猫が一匹。
二足歩行で出窓に腰をおろすと、可愛らしい猫手でティーカップを持つ。カップの中の香りをスゥーッと吸い込み、「ふぅ」と幸せそうに息を吐き出す。一口、口に含めば、これまた満足そうに深く、ひとつ頷いた。
カップをソーサーの上に静かに置き、ふと、窓ガラスに映る自分を見つめる。
雄猫にしては、小さな顔に大きくパッチリとした瞳。少し吊り目の目元が特徴的で、細身の体型ではあるが艶やかな黒い毛並みで見窄らしさは無く、非常に品が良い。お気に入りの黒スーツに、赤い蝶ネクタイがよく似合う美猫だ。彼の名は、クレバー。この町では一番賢い猫で、周りの猫からは『教授』と呼ばれている。
クレバーは、ぼんやりと自分の姿を眺めてから、その先にある夜空に視線を向けた。よく晴れた夜空だ。青く光る星が、こちらへメッセージを送っているのか、不規則にキラキラと瞬いている。その様をじっと見つめていると。
ガチャリと勢いよく部屋の扉が開かれた。
「教授! 今夜の天気は良好! 気圧変化も無さそうですし、明日は彗星観測には絶好のチャンスですね!」
クレバーは、ゆっくり声の主を振り向く。
部屋に入って来たのは、体型より若干キツそうな黒スーツを身に纏った、少し癖のある長い毛並みに、細い目をした黒猫だ。クレバーよりも雄猫らしく、少し大きめの顔だが愛嬌がある。彼の名前はカタス。クレバーの助手である。
「やぁ、カタスくん。私もいま、そう思っていたところだよ」
「ここ最近は、毎年雨続きでしたからねぇ。今年は、彗星の尾っぽから、星砂糖の採取が出来ますね!」
カタスと呼ばれた彼は、細い目を益々細くしてニッコリと嬉しそうに口角を上げた。クレバーは、カタスの様子を見て思わずクスリと笑うと、すぐにコホンとひとつ、咳払いをする。
「ああ、そうだな。だが、カタスくん。私は星砂糖よりも、星の光を捕らえて、どのくらいの期間、光り続けるのか研究をするために、彗星を待っているんだよ? 星砂糖は、その副産物であり、ついでだ。私は、星の光を利用して、どうしたら常にランタンの光を灯し続けることが出来るか。その研究が一番の目的だ。忘れないでくれよ?」
クレバーが軽くウインクをすると、カタスは軽く両肩を上げて、ニヒッと笑った。
「もちろんですよ! でも、教授が好きなローズマリーティーに星砂糖を入れたら、最高に美味しくなるのも確かですよ?」
「まぁ……それは否定しないよ」
クレバーがわざと口角を下げ難しい顔付きで言えば、カタスは声を上げて笑い、それに釣られてクレバーも笑った。
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