はべらせるは
Vanity慨destroyer
00 ︎︎大愚
入学して早数ヶ月、夏休みのとある昼下がり
俺こと
バイト中、客に刺された。
どう答えれば良かったのか、回らぬ頭に叱咤をかけても答えを導ける気がしない。そもそも急激に力が入らなくなっているから頭に血を回す余裕も無い。
重力のまま傾いていく景色は補正もしてないのにスローモーションに移り代わっていく。
「○○ッ!!○○ッ!○○ッ!」
何やら叫んでいるようだが俺には聞こえない、耳までイカれたのか。
何箇所か刺されたっぽいけどもう感覚が無い、痛覚遮断も無しに痛みを感じなくなるのは初めての体験だった。
その後、地面に押し付けられるような感覚がやってくる。ひんやりと冷たいフロアの床が気持ちよかった。
「ぅ......あ゙」
声が出ない。
肺に酸素が回っていないのか呼吸もままならない、ただ身体が重くなっていく。
「シオンッッ!」
夏の声がする、そういえばポジションは一番近い位置にいたっけ。
「○○○○○○ッ!○○ァ!」
また誰かが叫んでいる。
聞こえないんだよ、そう叫ばれても。
「早く救急セットを!早くッ!」
「警察、後七十秒後に到着します!」
縁さんと風磨君の声だ。
風磨君には悪いことをしたな、出来れば謝りたかったけど人生うまくはいかないな。縁さんはまぁ、大丈夫か、縁さんだし。
「ぁ゙...あ゙ぁ゙」
――指先から感覚が絶えていく
熱かった身体も急激に冷えていくのを感じる。視界が狭まり、周囲から音が消えた。
――意識が遠のいていく
涙も流れないこの身体では、悲しんでいるかどうかの判断も自分で出来ない。
身近に感じたことのない――死が迫り自分の中で揺れるかと思えばそれも無い。
けど今は浸りたい。
ここまでの日々に出会った人達に
ここまで連れてきてくれたあの人に。
この思い出に今は浸りたい。
消えかけた意識の狭間で俺はここに至るまでの日々を思い出す。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『生まれてくる子に罪は無い』
俺が世界で最も忌み嫌う言葉だ。
これは今でも変わらないし、これからも変わることは無いだろうと思っている。
ファンネル連邦国の第三皇妃だった僕の母は、一人の男と一夜限りの関係を持ち俺を孕んで産み落とした。
いわゆる不倫である。
生まれた俺は漆黒のような髪色をしており当時の皇帝と母のどちらとも違う髪色をしていたため、異母異兄弟から酷く疎まれていた。
周囲は母の不貞を怪しんだが
皇帝がそれを即し事なきを得た。
だが俺が五歳になった時、第一皇妃が秘密裏に行ったDNA鑑定で母の不貞が発覚した。愛する王妃の不貞に皇帝は激怒し、母は断頭され父に当たる人間は発覚した十日後に死体で発見された。
残ったのは第六皇子である俺と母が皇帝と作った第二皇女の義姉だけである。
罪と罰は表裏一体。
母は不貞という罪を犯し死刑という罰を受けた、父だった男も同様に死んだ。
なら子供に罪はあるのか?
簡単な事、答えはYESだ。
厳密には父と母の罪を背負わされていると言った方が正しいのかもしれない。
俺は母の不敬心の象徴であり、俺が死ぬその時まで皇帝は俺という存在に苦しまなければならない。
生まれた子に罪は無いではない、大事なのは誰から生まれてきたか。
――俺たちは断罪される、ハズだった。
皇帝は母の全ての罪を僕に背負わせ、義姉には何一つのお咎めも課さなかった。
俺だけが母と父の罪を背負い、罰を受け贖罪に励まなければいけなかった。
「やっと終わったんだ、もう忘れないと」
――だがそれも終わった。
この十年間、全てをかけて
ようやく罪を償い切れたのだ。
今度は誰が為国益の為じゃない
己の為に心身を捧げる事が出来る。
「日本国.....か」
母は日本国の出身だった。
幼い頃から故郷の話を聞かされていた俺は自由になったら必ず最初にと決めていた。
まず手始めに学校に入学しよう。
俺は失った時間を取り戻したい。
大量のパンフレットを並べながら
そう思うのだった。
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