第139話 ファーと竜の子
いきなり島から現れた小さな竜が、鳥の大軍に突っ込んでいく。
だけどそれは、あまりにも無謀だった。
小さな竜は鳥の一匹に噛みつくものの、その一匹にさえ振り払われて、それどころかクチバシで反撃されてしまった。
ピィィィィィィ!
小さな竜が痛みで悲鳴を上げる。
その声を聞いてか――。
いや、うんん、その声を聞いたからこそだろう。
巨大な竜がひときわの咆哮を上げた。
それは周囲に衝撃派をもたらすほどの強い魔力を含んだ咆哮だった。
鳥たちが散らばる。
巨大な竜は、小さな竜を守るように体を折り曲げた。
ああ、そうか……。
私はこの時、理解した。
きっと、この2匹は親子なんだ、と。
そして思い出した。
そういえば、竜種だけは、このキナーエで普通に生きているのだと。
死んで魔石になるだけの存在ではないのだと。
鳥たちは、すぐに体勢を立て直した。
残念ながら巨大な竜は、先程の咆哮が最後の力だったのだろう――。
反撃の体勢を取るどころか――。
気勢が沈んで、飛んでいるだけでやっとに見えた。
勝負はあったのだろう。
次に鳥たちが飛びかかれば、竜は殺されて――。
どうなるのだろう。
貪り食われるのだろうか。
私は録画をオフにして、スマホをアイテムBOXにしまった。
空いたその手を鳥たちに向ける。
全羽をロックオンして――。
闇魔法『スタグネーション』。
対象の意識を淀ませ、無気力状態へと変える。
鳥たちは、今までの戦意を忘れて、散り散りになってどこかに飛んでいった。
その様子を見てから、私は竜に近づいた。
竜には威嚇されてしまったけど、すでに私1人にすら噛みつくだけの力も、竜には残っていない様子だった。
「ごめんね、見ちゃってて」
すぐに私は光魔法『ヒール』を使った。
魔物に光魔法は大丈夫なのかな、という不安も少しあったけど、魔法はたちどころに効果を発揮して竜は元気になった。
小さな子にも、同じように回復魔法をかけてあげた。
「大丈夫だった? 勇敢だったね」
小さな子に笑いかけてあげると、最初はキョトンとされたけど――。
「ぴぃぃぃぃ!」
嬉しそうに鳴いてくれた。
だけど巨大な竜は、わかってくれなくて――。
まあ、仕方ないけど。
小さな子を守るように咆哮と共に噛みつこうとしてきたので――。
私は、その顔を両手で受け止めて――。
じーっと目を見つめて――。
「私は敵じゃないよ? わかる? わかって?」
と、訴えかけた。
もうすでに自覚はしているけど、私ことファーは、実は怖い存在だ。
なにしろ、ロード・オブ・ダークネスだし。
まあ、うん。
その称号は自由に変えられるのですが。
竜族は、魔族領に住んで、竜人族と共存している。
なのできっと、本能的にでも、私のことはわかってくれるよね。
そう思って訴えてみたのだけど――。
「がるるるる……。ひゅ……」
うん、よかった!
大人しくなって、自分から頭を下げてくれた。
「ありがとね。わかってくれて」
私は、その頭をヨシヨシと撫でてあげた。
小さな竜の子も寄ってきたので、一緒にヨシヨシしてあげた。
これで私たち、仲良しだね!
めでたしめでたし!
と思ったら今度は、大きな竜が小さな竜に怒り出した。
その様子は、うん。
まさに、勝手に家を飛び出して危険な場所に遊びに行ってしまった子供を叱っているお母さんのものだ。
まあ、うん。
そういうことなのだろう。
しばらくするとお説教もおわって、大きな竜は落ち着いた。
小さな竜はシュンとしてしまったけど。
「さあ、もうおうちにお帰り。いつまでもここにいると、また他の魔物が襲いかかってくるかも知れないしね」
私は2人を帰そうとした。
すると小さな竜に袖をつかまれて、ぴーぴーと鳴かれた。
「どうしたの? 私も誘ってくれているの?」
「ぴー!」
どうやらそのようだ。
小さな竜は、早くも元気を取り戻していた。
立ち直りの早い子のようだ。
「ねえ、いいのかな?」
「がぁ」
大きな竜にも異存はない様子だった。
「ならせっかくだし、お邪魔させてもらおうかな」
「ぴーぴー!」
私は小さな竜の子の先導で、近くに見える岩山の浮遊島へと向かった。
どうやらそこがおうちのようだ。
竜の家かぁ。
どんなところなんだろうね。
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