11
――イリーネ領からギルドハウスに戻ってきて、数日が経ったある日、事前連絡もなく突然やってきたユルゲンスさんは、珍しく少し沈んだ様子だった。
「ヘデラさんには言わないでくださいね……」
そう前置きをして話し出す。
「例の死体達、パーツがツギハギで、別人同士をくっつけたものらしい……って、言ったでしょ?」
「はい」
ユルゲンスさんの話を思い出しながら頷く。ルードは足を組みながら、厳しい目つきでユルゲンスさんを見据えていた。
「そのくっつけ方が謎だったんですけどね……。謎のままにしときたかったんですけど……ルードさんが思いついちゃったから……検証するしかなくて……」
「思いついた、って?」
ユルゲンスさんは恨みがましくルードを睨めつけながら、私の疑問に答えてくれる。
「……例えば切り傷が治るときって、開いちゃった皮膚が時間をかけてくっつくわけじゃないですか。こう、ピタッと」
二本の指を、離して、くっつける。そんなジェスチャーつきだった。うん、わかりやすい。頷くと、ルードが話を引き取る。
「例えば、バルドルの肩に傷をつけて、そこに切り落としたユルゲンスの腕をくっつけ……その状態で超回復をさせる。そうすると……二人分の皮膚や組織が癒着して、元から一人のものだったかのように見えるのではないか、ということだよ」
息を呑む。……そんなことが、可能なんだろうか。
「例えが嫌だなぁ……。まぁそういうことです。普通は他人の皮膚とか血とかには拒否反応が起こることが多いんですけど、それをも凌ぐ超パワーで回復させたら、なんとかくっつくんじゃないかと。……更に、どうにかうまくいけばそれが一つの体として機能するようになるんじゃないか、と」
「……そして俺達は、それが可能になるくらい、強力な回復薬の存在を知っている」
「……まさか」
どんな怪我でも治療する、妖精の癒しの力。それを――凝縮した、奇跡、そして呪いの……小瓶。
「ヘデラさんの小屋の地下で回収してくださった小瓶の中身を使って、ハツカネズミで実験しました。……見事、頭が三つある化けネズミが爆誕しました」
「その実験、非人道的すぎません!?」
「ちゃんと生きてますよう。三つの口から元気にチーズ食ってます。名前はケルベロスになりました。ボスが喜んで飼ってます」
……想像すると、ちょっとかわいいな?
だがしかし、ネズミならまだしも……それを人間でやった結果が、あの奇妙な死体達だと言うのだろうか。
……なんのために?
「実験の目的は不明だが……それに使用した死体を廃棄するために森の魔物を利用していたんだろう」
ルードは難しい顔で、続ける。
「妖精の小瓶を持ち去ったレイディ。……その中身が使われた死体の遺棄現場から消えたフィミラ。顔が同じ二人。つながりがないとは言えなくなってきたな」
「ああー。ヘデラさんには言えないぃー。あなたの妹に極悪人の可能性でてきたよ?とか、言えないぃー!」
ユルゲンスさんは両手で顔を覆い、脚をバタバタさせている。この人はいつも軽薄なんだけど、この感じは初めて見るなぁ。ルードはその様子には興味がないようで、一瞥をくれるとしっしっと追い払う仕草でユルゲンスさんを追い払う。
「知るか。報告はわかったから、さっさと仕事に戻れ」
……冷たい。
「大丈夫です。ルードさんにはアドバイスとか求めません。僕以上のヘタレだもん」
「なんだと!?」
……不毛な喧嘩になりそうなので、慌てて話題を別に逸らす。
「そういえば、ユルゲンスさん。今度、ヘデラとご飯食べに行くんですよね?」
「え!?ご存知なんですか!?」
「はい。ヘデラ、楽しみにしてましたよ」
コレは極秘だが、何着て行けば良いか、なんて相談を受けたくらいだ。……これは、いい感じなんじゃない?
「へぇ……そうなんですかぁ……ヘデラさんが、楽しみに……へえぇぇ……ふうぅぅぅん……」
ユルゲンスさんは打って変わってデレデレと頬を緩めると、勢いをつけて立ち上がり、びしりと敬礼する。
「……僕のやることは、一刻も早いレイディ確保とその目的解明!これ以上よからぬことを、実行される前に!俄然燃えてきました!行って参ります!!では!!」
――そう言って私達の返事も聞かず、脱兎の如く飛び出していった。
ユルゲンスさんの後ろ姿を見送って、部屋にはルードと私の二人だけになった。
……今しかない、と。昨日から、鏡の前で何度もシミュレーションしたセリフを思い出しながら深呼吸して、ルードの方を向く。
「……ルード、今、いいでしょうか!?」
「う、うん。いいよ。どうかした?」
「明日!一緒に、出かけません、か……?」
「……え?」
私の圧にたじろいでいたルードは、唐突な提案に目を丸くしている。
「……明日、広場で大きな市場がたつみたいなんです……一緒に、見に行けたらいいなぁ……って……」
イリーネ領の宿屋で言われた「君のことを知りたい」に、どうお答えしたらいいのか。数日悩んで考えた結果である。一緒に出かけて、お話したら、お互いに色々わかるんじゃないかな……って、いう。
ルードはしばらくぽかんとすると、じわじわと目元を赤くして立ち上がり、私の手をとる。
「……勿論、行こう!……誘ってくれて……嬉しい」
――それはそれはもう、完璧な笑顔だった。
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