D-BROKEN
雲雀
序章 北方での激戦
ー龍を狩りし者達の記録ー
太古より力の王に君臨するドラゴン族。
彼の地「リュゼリオン」には、エンシェントドラゴンの亡骸が眠るという。
大陸北部に位置する「サマルビア丘」。
北方征伐部隊隊長 ジルコ・マルクレアは、サマルビア丘に陣を敷くとした。
この大陸の北側を根城にしているドラゴン族を叩くため、
レイスグローリア国王、リュミオン・レイス・グローリアは王族直轄近衛騎士以外の、全戦力を北方へと派遣した。
この大部隊を率いる事になったのがジルコである。
リュゼリオン大陸の北方に位置するレイスグローリア。
この地域は、ドラゴン族でも気性の荒いことで名を知られる「ゼーガロン」が納める領地がある。
先のサマルビア丘はちょうど、人族とドラゴン族の領地の境目ともいえる場所に位置している。
このサマルビア丘には、古い洋館が一軒建っている。
誰かが住んでいる訳でもなく、ただただ朽ちるのを待つように佇んでいる。
かつてこの地には、人族の男性とドラゴン族の女性がおり、ここで愛を誓いあっていた・・・。などの伝承もあるが、それが本当の事かどうかも分からなければ。事実を知る者もいない。
ジルコは速やかに伝令を使い、サマルビア丘を起点に互いの領地の境目に沿い部隊を配置し、その後方に本司令部を置き待機し始める。
ジルコ「・・・こちらの軍勢が15万。この戦いで北方地域を良い様にしているドラゴン族を根絶やしにする。」
ゴナ「とは言え隊長殿。王はなぜにここまでドラゴン族を敵視するのですかな?ドラゴン族はあくまでも神話級生物。北の地のドラゴンを根絶やしにするとしても、こちらも大敗は無いにしても、無事ではすみませんぞ。」
ジルコ「・・・ふむ、現国王の意思がそうしろとの事なのだ。変に詮索するものではない。我々は、国の為に国のトップから言われた事をするまでだ。どれだけ犠牲がでようがな。」
ゴナ「・・・成程。その辺の魔物狩りとは訳が違う。少ない犠牲位で留めたいものですな。」
ジルコ「・・・。」
ゴナ「さて、わしは少し休むとしようかの。どうせ開戦は・・・。気まぐれな敵さんがいつ来るかなど、到底検討もつかめないのだし。休めるうちにってな。」
ジルコ「あぁ。そうしてくれ。恐らく、この戦いは長くなるだろうからな・・・。」
ゴナは今回の作戦にて副隊長の一人を務めている。
古くから人族と交流の深い、エルダードワーフである。
レイスグローリアに流通している武具などは、このゴナが仕入れや買い付けなどを任されている。
なお、ゴナはエルダードワーフの中でもクラフト系ではなくファイターとしての気質が強いため、戦闘に長けている。普段は王級内で近衛騎士達の育成をしているのだが、今回の戦に抜擢されたのだ。
この北方での戦に参加する15万の兵の中に。
50人だけ兵士では無い者たちが参加していた。
その名も「D-Slayer」
ドラゴン系種族を専門としたハンターで、各国に配備されている。
レイスグローリアにも存在し、その名は知られていた。
彼らは、5人一組を基本として、それ以上でも以下でも狩りは行わないを流儀としている。最短で且つ、被害も少なく比較的安全にドラゴンを狩る為に行きついたのが5人一組だったのだそうだ。
今回の作戦に参加はしているが、王国軍とは別にキャンプと模した拠点を構えている。
ゲイル「なぁ、この作戦・・・。大がかりすぎないか?なんか隠してねぇか、現国王様はよぉ。」
ニア「・・・どうでもいい。・・・そんな事より・・・。ハニーミルクは・・・まだ?」
ゲイル「あぁあぁ、はいはい!これだからお子ちゃまはよぉ!」
ニア「・・・ニアはお子ちゃまじゃない。早くしろ・・・。出来損ない。」
ゲイル「んだとてめぇ!!!しつけてやろうか!?ああぁん!!!」
ログナ「貴様らうるさいぞ。ドラゴンより先に死にたいのか・・・?」
ゲイル・ニア「!?・・・ごめんなさい(ニア)、す、すまねぇ(ゲイル)」
パヌマ「まぁまぁ、お嬢。こいつらもわざわざこんな作戦の為に食い扶持削って参加しているんだ。ちょっとした不満はたまってもしゃぁないっすよ。」
ログナ「・・・。とはいえ、私たちはともかく。王国の兵士達は無駄死にしに来たのか・・・。ドラゴンがどれほどの脅威かまるで分っていない。数が居れば勝てる訳じゃないのに。」
エルダ「なんだっていいさね。アタイ等はアタイ等の出来る事だけやってりゃいいんだから。」
ゲイル「そーそー。それに、俺らは討伐したら素材は好きにしていいって話だし。しかも、北方のドラゴンはみんな質がいいって言うしな!」
ニア「でも。その分ほかのドラゴンたちより強い・・・。簡単じゃないよ。」
ゲイル「・・・。」
ログナ「ニアの言う通り。この地域のドラゴンは私達でも数頭しか対峙したことがない。今回はそれがゴロゴロいる戦いだ。お前らも気合入れなおさなきゃ・・・だな。」
エルダ「なぁんだい?今回は龍滅のログナともあろうお方がビビってんのかい?いつも通り、そう。アタイ等はいつも通りやれば誰も死なないよ。それに。もしかしたらこの戦いで、アンタの・・・来るかもしれないんだろ?」
ログナ「・・・。兄さん。私は必ず兄さんを見つけ出す。何がなんでも。その為に、D-Slayerになったんだから。」
エルダ「ふっ。その意気さね。」
サマルビア丘は、陣を敷いたレイスグローリア軍・D-Slayer達の色々な感情を頂く者達の思いをよそに、一日目の夜に差し掛かった。
レイスグローリア軍本拠地。
ジルコ「初日はさすがに姿を表さん・・・か。ドラゴンとは生態も何もかもが謎に包まれすぎているな。」
ファルス「我々も、人相手の戦であればそれなりに経験があるのですがね。如何せん相手はドラゴン。まったく見当もつきませんな。」
ゴナ「ファルス辺境伯殿は、ドラゴンを実際に見たことは無いのですかな?」
ファルス「ゴナ殿。私は辺境を任されている故、オークやゴブリンなどはよく見ますが、ドラゴンはさすがに・・・。でも昔、父の持っていた伝記に記されたドラゴンなら・・・。」
ゴナ「がははははははははは!伝記のドラゴンとな!今回の相手も紙っぺらのようなドラゴンだと良いですな!がはははははは!」
ファルス「なっ!」
ジルコ「やめぬかっ!ゴナ、戦前に隊内でのいざこざを生む様な真似はよせ!ファルス殿、すまぬがここは穏便に頼む。」
ゴナ「おぉっと。これは失礼。」
ファルス「ぐぬぅ。まぁ、致し方ありますまい。」
サマルビア丘に陣をはったレイスグローリア軍。
相対するドラゴンへの緊張は、更け行く闇夜の中で一層高まっていった。
一方、D-Slayerキャンプでは。
ログナ「・・・。お前たち少し寝ておけ。恐らく今夜は来ない。交代で仮眠をとっておこう。」
ゲイル「なら俺が最初に起きておくから、ログナも休めよ。」
ログナ「いや、明日の朝までは私が見張る。」
エルダ「・・・。ほぉら、ゲイル!ログナがそう言ってんだ、黙って寝な。」
ゲイル「へいへい。そんじゃ、先に休ませてもらうぜ。」
ログナ「・・・。今夜は来ない。だから、兄さんも・・・。」
こうして、サマルビア丘での最初の夜は過ぎていった。
しかし、異変は起きていた。
早朝から、レイスグローリア軍の本司令部が慌ただしくなる。
ジルコ「一体どうなっている!?すぐに、D-Slayer達をここに集めろ!」
兵士「はっ!!!」
ゴナ「まさか・・・。この事態に、ワシどころか誰も気付いていなかった、とは。不覚であった・・・。」
サマルビア丘、一軒の洋館近く。
この辺りには陣を敷いておらず、特段なんの障害物もない。
洋館以外は見通しの良い場所になっているのだが、その洋館の横に。
昨日は無かったドラゴンの死骸が、数十頭分転がっていたのだ。
待機指示の為、キャンプで待機中のD-Slayer達のグループリーダーたちが、本司令部に集められた。
ジルコ「昨晩の状況を確認したい。君たちの中で何か異変や物音などに気付いたものはいるか?」
ログナ「・・・いえ。我々が設営しているキャンプから仰られている洋館までは多少距離が離れておりますので・・・。ほかのグループで気付いた者がいれば話は変わりますが。」
ユーリ「ログナさんが仰った通り。私達の隊も何も気づきませんでした。とはいえ、ドラゴンがこの数やられていて、咆哮すらしていないはずはないでしょうし。この死骸はどこか別の場所で討伐されたものでは。」
ギーツ「でもよ。この鱗、北方に生息しているドラゴン特有の鱗だぜ。別の場所ってどこだ?」
ユーリ「た、確かにそれは・・・。」
ログナ「そういえば、王国軍の兵士の中にこんな噂話をしている者がいた。そいつはどこのグループにも所属せず、たった一人で100頭以上討伐している奴がいると。まぁ、確証が無いからでたらめかも知れないが。」
ギーツ「おいおい、龍滅のログナの口から噂の話かよ。そんな話、ドラゴンを一番狩ってるアンタがよく分かってんじゃねぇのか。一人でドラゴンを狩るなんて無理に等しいって。しかも、100頭?尾ひれどころか、まんま魚一匹完成してるじゃねぇか。」
ユーリ「確かに、ギーツさんの言う通り。さすがに噂・・・なだけありますね。それにレイスグローリアのD-Slayer部隊もたかだか10部隊。それも我々、3部隊位じゃないですか?実戦でドラゴンを狩った事がある部隊は。」
ログナ「・・・、噂はともかく。これをやった奴がいるって事は確かだ。今夜あたり洋館周りも偵察してみよう。私の隊でやらせてくれないか?」
ジルコ「こちらは構わんが。1部隊で大丈夫なのか?こちらからも兵は出せるぞ?」
ギーツ「いーや、見回りは俺たちD-Slayerに任せてもらいたいね。一般兵を同行しての夜間見回りは、はっきり言って邪魔でしかねぇ。気持ちはありがたいが今夜からの見回りは、D-Slayerから1部隊ずつ交代でやらせてもらう。」
ジルコ「分かった・・・。ならば我々は何かあった時にすぐ動けるようにしておこう。」
ユーリ「お願い致します。では、今夜はログナさん部隊にお任せしましょうか。」
ゴナ「それにしても。どうします?このドラゴンの死骸、見せしめにつるしますか?」
ログナ「やめておけ。死に急ぎたいならそれでもいいが、むざむざ早死にする必要はないだろ。」
ゴナ「おぉ、こわ。ドラゴンよりこやつらの方が怖いのではないかの?がははははは!」
ゴナの発言に誰も笑う事はなかった。
明らかに王国軍の者たちは理解していないのだ。
ここで静かに火葬し、下手にドラゴンたちを刺激しない事が先決だという事を。
ゼーガロン率いる、北方領のドラゴンたちが相手だという事を。
サマルビア丘。二日目の夜が訪れようとしていた。
各陣営から、炊き出しの煙が立ち上がる。
ドラゴン狩り達のキャンプも同様に、夜の食事の準備が始まっていた。
ログナの部隊は、とてもオーソドックスなバランスの取れた部隊編成になっている。
ゲイル・キュリオン。
彼はこの部隊でも最年少であり、過去の経歴からその口の悪さが極まって、誰からも相手にされていないところをログナに拾われた。
見た目も幼さが残る短髪に茶色い髪色。眉毛には古傷なのか、二本のラインが入っている。体格もそこまでがっしりしている訳でもなく、あどけなさの残る青年と言ったところか。以外にも戦闘では前衛ではなく、中距離からサポートを得意としている。
ニア・キャンベル。
ゲイルと同じ境遇で育ち、その姿はゲイルを頼る妹のような状態でログナに拾われた。以外にもその時、ゲイルの手を握っていたのは意外ではあるが。
ニアに関しては、ハーフアップに淡い青の髪に、所々に濃い青色の髪が混じっている。今では光を取り戻したその瞳は、きれいなターコイズのような色合いだ。
昔から聖属性の魔力値が高く、部隊の中ではヒーラーとして活躍している。
パヌマ・オーウェン
部隊の中では兄貴分肌の立ち位置にいる。この部隊の中ではエルダと同じく基本は冷静なタイプである。また、部隊の中では一番料理が上手くパヌマが食事当番の時は、エルダが使い物にならなくなるくらいに酒を飲んでしまうという欠点もある。
パヌマは、体格もよく力もあるが前には出ず、守りに重きを置く戦闘スタイルで、部隊を守ることに注視した動きでサポートをしている。
そこまで見た目に拘ることをしないタイプで、少し癖のあるウェーブの掛かった肩まである黒髪に、あごに髭を蓄えている。
エルダ・スレンジャー
みんなの良い姉御。といえばエルダと言われるくらいの大人な女性。
真っ赤な長い髪と、赤い目。その吸い込まれそうなその瞳に魅了された男性たちを何人も振ってきた過去があるそうだが、エルダ自体は記憶にすらないらしい。
大の酒好きで一度飲みだしたらその酒場の酒がなくなるくらい飲みつくすほどだ。
パヌマの料理に惚れ込んでおり、パヌマに嫁に来いと冗談交じりに発言した事があるほどだが、実際、冗談なのか疑わしい所も多々ある。
ログナと共に、得意の大剣で前衛でその実力を発揮しまくっている。
そして、この部隊を率いているのが。
ログナ・フレデリン
ローグァード・フレデリンとヘレナ・エリュンデルの第一子として生まれた。
白銀の髪色と澄んだ蒼い瞳は母親譲りで、父から受け継いでいるのはその身体能力の高さである。扱う武器は双剣で父のローグァードから受け継いだものだ。
過去に、父が連れていたもう一人の子。その人を探すために、D-Slayerになった。ログナが生まれた時にはまだ一緒に住んでいたのだが、物心つく頃にはその子は、D-Slayerになると言って家を出て行ったのだとか。
戦闘ではエルダと共に前衛を張る。
それぞれに個性のある人員ではあるが、各々がそれぞれにドラゴン狩りに必要な知識をしっかり持ち合わせている。その為、今日まで生き抜いてきている。
そして、今日の料理当番はパヌマ。
エルダ「なんで今日に限って、パヌマが料理担当なんだよ!くそがっ!!」
ニア「・・・エルダ、お酒が飲めなくて言葉使い汚い。怖い・・・。」
ゲイル「ふん。酒飲みババアが。見回りに行くのに、酔ってふら付かれたら、たまったもんじゃねぇ。」
エルダ「おいこら、ゲイル。アタイはまだ26だ。ピチピチの26だ!そのふざけた口・・・。アタイが縫い付けてやろうか?」
ゲイル「はっ、なぁにがピチピチだ馬鹿野郎が。タプンタプンの間違いだろ!」
エルダ「ほほぉ。なめた口聞きやがるクソガキだね。酒樽に付け込んでやろうか。ゲイル酒。なぁんて、いい名前つけて売り出してやるさね。・・・でもあれだね。そのアホがうつりそうで呑む気も失せそうだねぇ。」
ゲイル「おぉおぉ、やってみろや!?このクソババア!ああ?コラ!!!」
ログナ「はぁ。お前らやめろ。ゲイルは誰にでも喧嘩売るような性格を治せ。いや・・・、治してやろうか?」
ゲイル「あ、いや、これはエルダが・・・。」
ニア「・・・別にエルダは悪くない。このポンコツが口出したのが悪い・・・。」
ゲイル「てめぇこら!!誰がポンコツなんだよっ!しつけるぞてめぇ!!!」
ここまでで、ゲイルの頭に大きなたんこぶが出来上がったのは言うまでもない。
ゲイル「クソぅ・・・。なんで俺だけ・・・、ブツブツ。」
いじけるゲイルを横目に、エルダとログナは、
エルダ「それにしても、ゲイルにニア。二人とも可哀そうな過去があるんだよねぇ。アタイもこんな売り言葉に買い言葉みたいなことしてちゃ、まだまだ。だねぇ。」
ログナ「・・・。エルダにはいつも感謝している。いつこの部隊をやめてもおかしく無いのに。なんだかんだで、いつまでもいてくれている。いい姉さんみたいな存在だだよ。」
エルダ「それは、兄さんが見つからないから・・・、かい?あぁ、いや。これは意地悪な質問だったねぇ。いつでも姉さんって呼んでくれてもいいんだよ?」
ログナ「確かにエルダの言う通りかも知れない。兄さんが見つからないから。疑似的な兄という存在や、姉という存在に憧れてしまっているのかもしれない・・・。」
エルダ「フッ。らしくない、さね。ほら、アタイはアンタの為に。この部隊の為に姉さんになってやるさね。」
こんな二人の会話をよそに、パヌマの作った料理が続々と運びこまれ、ログナとエルダもそれに舌鼓を打つうちにお互いにこんなやり取りすらも忘れていった。
そして、サマルビア丘の二日目の夜が徐々に更け始めた。
ログナ隊は、広い草原に優雅に佇む朽ちかけた洋館の周りを偵察していた。
ゲイル「なぁ、この洋館。異様にでかくねぇか・・・。しかもなんでこんなとこに建ってんだ。」
パヌマ「昔の伝承には、ここに人族の男性と、ドラゴン族の女性が暮らしていた。と伝えられているな。とは言え、本当の話かどうかまでは知らん。」
ゲイル「へぇ、人とドラゴンが、ねぇ。今の世界じゃ考えられねぇ話だな。でも実際そんな世界になってたら・・・。いや、なんでもねぇ。」
パヌマ「お?なんだゲイル。お前もずいぶんセンチメンタルな事言うやつだったんだな?あははは。」
ゲイル「な!?ばか!うるせぇよッ!笑うなッ!!!」
エルダ「ったく、どこに行っても誰と話してても煩いやつだねぇアンタは。」
ゲイル「なんだよ。パヌマに馬鹿にされたからだ。そんな事より、建物の中は見ねぇのか?」
ログナ「確かに。そうだな。一応中も見ておくか。何か手がかりがあればいいのだが。」
ゲイル「それにしても、広い建物だな。入口はどこにあんだ?」
サマルビア丘に佇んでいる洋館。
この地域にはあまりにも似つかわしくない程の広さを誇る。
所々、朽ちかけてはいるがその佇まいは堂々としている。
パヌマ「おーい!こっちだこっちぃ!」
ニア「扉が大きい・・・。これ、ここに住んでたの人間じゃない気がする・・・。」
ニアの言葉通り、この洋館の入口らしき扉は、建物の広さと同様に人間の身長や体格の比ではない大きさで建て付けられている。人の為に創られたと言う様な大きさではなかった。
エルダ「・・・。だいぶ前になるけれど。どこかの書物を漁っていた時に読んだ事がある一つに。太古のドラゴン、エンシェントドラゴンの一族は、その膨大な体躯を人の様な形に変えることで、人族と交流を図ったと言う伝承が残っていたのを思い出したさね。」
ゲイル「って事は、ここに住んでたのは、その太古のエン・・・なんだっけ?」
ニア「エンシェントドラゴン・・・。ポンコツ・・・。」
ゲイル「だぁ!うるせぇ!ポンコツじゃねぇ!!!」
エルダ「その書物に書かれていた事を鵜吞みにするなら・・・だけどねぇ。それに、伝承として言い伝えられている、人族とドラゴン族の繋がりに関しても。あながち本当の話なのかもしれないねぇ。とにかく入ってみたら何かしら分かるかもしれないさね。」
多少の緊張感を持ち、5人は大きな扉を一斉に押す。
古びた扉は、軋み音と共にゆっくりと開き始めた。
この夜、サマルビア丘は澄み渡った空をしており、月明かりが降り注いでいる日。
だが、あいにく逆光となり、建物内部の闇は一層暗がりを増していた。
扉が開き切ると同時に、誇りの匂いと同時に、ログナ隊の5人全員が戦闘態勢に入るほどのどす黒い殺気が漏れ出してきた。
ログナ「皆、気を付けろ!この殺気、圧、魔力・・・。ドラゴンだっ!」
ログナの言葉と同時に、他の4人はそれぞれ自分の立ち位置で構える。
扉から距離を取り、ログナとエルダを中心に扇状に展開。
5人は扉に目を固定すると同時に、異変があればすぐさま行動のとれる体制へと移行していた。
エルダ「ふふふ。これは少し、おぞましいねぇ。今までに感じたことのない憎悪さね。ログナ、大丈夫かい?」
ログナ「だいじょうぶ・・・。けどまさか、この洋館が当たりだったとはな。正直、驚いてる。」
エルダ「違いないねぇ。油断、するんじゃないよ。」
ログナ「もちろん!」
前衛の二人が冷や汗をかくほどの状況。
ある意味これは、他のメンバーは体験したことが無い事だった。
ログナとエルダ、それぞれ緊張感がはしり、他のメンバーはさらに緊張感が高まる。
武具を握る手に汗が滲む。
心臓が大きく脈打つのに対し、呼吸は出来ているのに息苦しさを感じる。
脚が思っている以上に、自分のいう事を聞かない。重い。
恐怖が身体を支配しようとしていた。
そして、扉からその元凶が姿を現す。
???「・・・なんだお前ら?何の用だ?」
見た目はそこら辺にいそうな青年くらいか。
だが、背にはドラゴン特有の羽。
頭には若干唸りのある角。
縦長に光る瞳。
月の光が逆光となり、詳しく分かる部分はそのくらいだった。
しかし、ログナ達には情報が足りなすぎる。うかつには動けない。
???「お前らから来たんだろ?質問に答えろよ?何しに来た?」
ログナ・エルダ「・・・!?」
視界は何も変化していない。
そんな間違い探しでもさせられている様な。
違いがあるとすれば、先ほど扉から姿を現したソレは、ログナとエルダの間に、そして二人の耳元に向かい問いかけたのである。
二人は身動きすら取れずに、ただただ正面を直視する事しか出来ない。冷や汗が頬を伝う。
ログナはかろうじて、他の3人へ動くなと合図をするのが精いっぱいだった。
???「・・・。バートとビオラの知り合いかと思ったが違ったみたいだな。俺は忙しいんだ。二度とこの家に立ち入るな。次は無いと思え。」
ログナ「ま、待ってくれ。お前は一体何者なんだ?」
アデル「人に尋ねるときは・・・。まぁいい。俺はアデル。何者かと聞かれると困るが、一応人間だ。さ、帰れ。」
二人は気付けば洋館の扉から離れた位置に吹き飛ばされていた。他の3人も近づいてくるが、2人は冷や汗が止まらないと同時に、彼の名前を忘れられずにいた。
この日、洋館で起きた出来事はログナ隊にとって大きな事柄になった。翌朝、ログナ隊は緊急と称し各部隊リーダーを招集した。
ギーツ「こんな朝っぱらから穏やかじゃないな。なんかあったって顔してるぜ?」
ユーリ「確かに、顔色が優れていないようですが。何かあったのですか?」
このギーツ・ローパーとユーリ・クリスウェルは、ギーツ隊とユーリ隊として、レイスグローリアの中でも有名なD-Slayer部隊の二つである。ギーツ隊はD-Slayerの中でも好戦的な部隊で知られており、ユーリ隊とよく行動を共にしている。
ログナ「あの洋館には、今後手を出さないでほしい・・・。」
ギーツ「そりゃまたなんでよ?さすがに理由なく手を出すな。は、ねぇんじゃねぇか?」
ログナ「そう、だな。実は・・・。」
ログナは昨晩の見回りで起きた出来事を各部隊長に包み隠さず話した。
動揺と緊張など様々な思いが渦巻く。
ユーリ「・・・そんな。もしそれが本当なら。いや、本当なのか。実際に遭遇しているわけですし・・・。」
ピノ「あ、あの。発言よろしいでしょうか?」
ギーツ「よろしいも何も。てめぇも部隊長だろ。ここに格差なんてねぇんだから、言いてぇ事言えよ。」
ピノ「ひっ・・・。あ、あ、では。その、洋館にいたとされる方がログナさんのご兄弟・・・。だとしたら、ログナさん・・・貴女もその・・・。」
ギーツ「ドラゴン。って言いてぇんだろ?誰もがそれは思ってる。気にすんな。で、実際のところどうなんだ?」
ログナ「すまない。答えは私自身も分からない・・・だ。幼いころに兄がいた。と、両親からは聞かされていたが。物心つく頃にはその兄も居なかった。両親にその事を言及しても詳しい事は何も・・・。それに、私自身も今まで生きてきた中でドラゴンの血が流れているような感覚も変異もなかった。」
ギーツ「ふん。それで、昨晩運命の再開したら。まさかの半分ドラゴンの姿になった兄貴がいたってか?にわかに信じがたい話ではあるが・・・。まぁ、何とも言えねぇな。お前がドラゴンなら狩るだけだし、そうじゃないならそうじゃないで今まで通りだろ。」
ユーリ「・・・。」
ピノ「その、はっきり言って。今回の作戦は北方のドラゴンの殲滅。今の発言が確かであれば、その方も討伐対象になるのではないでしょうか?」
このピノは、第五部隊のリーダーでD-Slayerとしての活動経歴はまだ1年に満たない。ピンク色のお下げ髪で大きな木で作られた魔石付きのロッドを大事にそうに抱えている。
クドゥ「それはそうだな。まずは王国軍に報告するべきなのではないだろうか?それと、この話を聞く限り。ログナ殿の素性が分からぬかぎり、謹慎して頂くしかあるまい。」
ギーツ「おいおい、流石にログナを抜いた状態で龍狩りはきちぃぞ?お前ら、実際にドラゴンとまだ対峙してねぇから分かってねぇだろうけど。」
ピノ「でも、ドラゴンの血縁って事になれば王国軍も黙っていないのでは?何かしらの処分を下されそうですが。」
これ以上ないほどの平行線で話が進んでいく。
ユーリ「そうだ!こうしましょう!とりあえず、ログナさん達は昨晩何も見ていない。幸い、昨晩は特に異変もありませんでしたし、何とか誤魔化せるのではないでしょうか?」
クドゥ「誤魔化してどうにかなる問題ではないのではないだろうか。それに、この状況下で我らにすら危険が及びかねない状況に変わりはないはず。」
ギーツ「おい、てめぇそりゃどういう意味だ?てめぇらの安全のために仲間を、まだドラゴンの血が混じってるかもわからねぇのにはじき出そうってのか?」
クドゥ「い、いや・・・、そういう意味では・・・。」
話し合いが難航する中、王国軍陣営の方から地響きの様な激しい轟音が鳴り響く。
ログナ「!?今のはッ!!!」
エルダ「王国軍の方さね!!!」
ギーツ「ちっ、この話は一旦保留だ!各部隊、部隊を纏めて直ぐに援護に迎え!!!」
ギーツの言葉を聞いた部隊長たちは一斉に走り出す。
ログナ隊も直ぐに王国軍に向かい出撃を開始した。
レイスグローリア軍が陣を敷いているサマルビア丘の西側。
激しい轟音と怒号に塗れていた。
ツヴァイ「敵はただのワイバーンだ!ひるむな!!!弓隊、魔導隊前へ!!!」
部隊長の一人、ツヴァイは西側の陣営を取り仕切っていた。
ツヴァイ・ティニー。
王国軍きっての智将と呼ばれており、数多くの戦場を経験している歴戦の猛者とも呼べる存在である。ドラゴンとの戦闘も何度か経験しており、場数で言えば王国では一番ドラゴンを知り尽くしている。
ツヴァイ「弓隊の放った矢に、魔導隊は水流系、氷結系の属性付与を!防御兵は、弓隊と魔導隊の援護を!こいつ等は、ここで確実に墜とすぞッ!!!」
ワイバーン。
ドラゴン程の強大な力を有している訳ではないが、その戦闘能力は人間の比ではない。腕が翼のように進化し、その両翼を駆使した空中戦闘において王国軍も手を焼いていた。
ツヴァイ「くっ、やはりワイバーンと言えどこの数を相手となると消耗が激しいな。皆の者!なんとしてもここを死守するのだ!!!」
戦況は王国軍が徐々に押され始めていた。流石に、北方のドラゴン族を相手ともなると経験の浅い王国軍兵士ではそれも時間の問題である。
そんな中、いち早く王国軍に合流出来そうなD-Slayer部隊がいた。
エルダ「アタイ等が一番乗りみたいだね。」
ログナ「ワイバーンか。厄介な相手じゃないが、あの数は・・・。」
エルダ「まぁ、やる事は一つさね。とにかく兵隊さん達を援護しに行くさね!」
ログナ隊は急ぎ王国軍に加勢に入る体制をとる。
ツヴァイ「このタイミングの加勢、心強い!!!」
ログナ「兵を後ろに交代させてくれ!ここは私達で食い止める。」
ツヴァイ「承知した!」
ログナの指示により迅速に王国軍が後退を始める。
それを見たワイバーンはさらに攻勢を強める。
ニア「ガチガチ・・・ビュンビュン・・・ボコボコ・・・。」
ニアの周りから魔力が沸き上がり、ログナとエルダを包み込むように纏った。
ゲイル「お前のその支援魔法の詠唱?みたいなよくわからない言語は一体何なの・・・。」
ニア「うるさい・・・。ガチ詠唱はめんどくさいの・・・。」
ニアは生まれ持った魔力量とその天性の魔導操作が卓越しており、ログナに拾われた後、魔導学院に入学。それを主席で卒業している。
パヌマ「守りは任せろ!
パヌマを起点に全方位にシールドが張られる。
ゲイル「クッソ!いつまでも高い位置から咆えてんじゃねーよ!!!おっ、らぁぁぁぁぁっ!!!」
ゲイルは得意の弓を使い、空中にいるワイバーンを地上へと誘導していく。ゲイルの行動に王国軍の弓兵も呼応し、頭上にいたワイバーンたちが徐々に地上戦へと移行し始めた。
D-BROKEN 雲雀 @Hibari_0318
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