魔法訓練
時間が過ぎて、魔法の授業の時間になりましたわ。
「今日は、一対一の模擬戦を行う。呼ばれた者から前に出るように。」
『『『『『はい!』』』』』
「ではまず……」
この訓練場の舞台には、受けたダメージを肩代わりしてくれる結界がありますの。
ですので、大規模な魔法を使ったりしても大丈夫なのですわ。
受ける痛みも最小限となっておりますの。
また、補助魔法をメインに使う人のために、剣などの武器の使用も可能となっておりますわ。
「次は、アルベルトとノア。前へ」
「じゃあ、行ってくるよ」
「行ってきます。義姉様!」
「「「「いってらっしゃい((!))(ませ)」」」」
二人が舞台に上がり、結界が張られましたわ。
距離はそれなりに開いており、ノアは無手、アルはシンプルな片手剣をもっていますの。
「それでは、初め!」
まず動いたのはノア。
「『ロックゴーレム』!」
この魔法は、3メートルほどの岩でできた人形を作り、操る魔法ですわ。
一体でも完璧に操るのは難しいですのに、ノアは5体同時に操ることができますの!
「『クイックウィング』『ウィンドエンチャント』!」
アルは足に風を纏って宙を滑るように素早く移動。
その勢いのまま、襲ってきた3体のゴーレムを風で鋭さを増した剣で切り掛かりましたわ。
「やっぱり硬いな」
そうはいっても、ゴーレムの体は両断されていますの。けれど……
「『リペア』!」
そう。このゴーレム達はノアの魔力が続く限り、何回でも直せますの。
加えて、ノア自身の魔力量はかなり多いですので持久戦も厳しいですわ。
ですので……
「『クイックウィング』『ウィンドカッター』!」
ノアを直接狙いますわよね。
もう一段速度を上げてノアに近づき、風の刃でノアを守っていたゴーレム達を切り裂く。
「『ロックウォール』!」
ノアは土の壁を出して次の攻撃に備えますけど……
「これで終わりだね」
背後に回っていたアルがノアの首筋に剣を添えてチェックメイト。
「勝者、アルベルト!次は……」
結界が消え、訓練場に歓声が響きましたわ。
そして、アルが剣を下ろして、こちらに戻ってきましたわ。
「ただいま」
「アル、おめでとうございますわ」
「二人ともかっこよかったよー!」
「今度は、オレとやろうぜ!」
「お帰りなさいませ、ノア様、アルベルト様」
その後ろからノアもこちらにかけてきましたわ。
「義姉様〜!負けちゃった〜……」
「ノア、頑張りましたわね。次は勝てると良いですわね。」
「はい…。義姉様…」
ああ。しょんぼりと垂れるお耳と尻尾が見えてしまいますの。
思わず頭を撫でてしまいましたわ。
「例えば、短刀やナイフ、あとは何か護身術を使って、近距離の戦闘も練習してみたらどうかしら?
今も、少し、練習しているでしょう?」
「……はい!義姉様!ボクもっと頑張ります」
「それに、これならグレイが教えることができるでしょう?」
「…はい、リリエル様。私でよければどうぞお使いください」
「…うん。わかった!今度からよろしくね!
(けど、本当は義姉様から習いたかったなぁ)」
「ノア、何か言いましたか?」
「ううん。なんでもないよ、義姉様!」
どうかしたのかしら?
「次は、グレイとジェット。前へ」
あっ、グレイとジェットが呼ばれましたわ。
「それでは、行ってまいります」
「じゃ、行ってくるぜ!」
「「「「いってらっしゃい((!))」」」」
結界が張られましたわ。
ジェットは身の丈ほどありそうな大剣を持っており、グレイは一見無手に見えますけれど……
「それでは、初め!」
合図と共に、キンと硬質な音が響きましたの。
「びっくりしたなー!」
「……。」
グレイが投げたナイフをジェットが剣で弾いた音ですわ。
ナイフはグレイがいつも隠し持っているものですの。
……何十本も取り出しているのを見たことがありますけれど、どこに隠しているのでしょう?
「今度は、こっちから行くぜー!」
「……。」
そんなことより今は試合ですわ!
ジェットは一気に前に飛び出し、グレイは後ろに下がりましたの。
「『グラビィティエンチャント』!」
「…『ウォーターカッター』『ウォーターランス』」
もともと重い大剣を重力でさらに重くし、威力を上げたジェット。
それに対してグレイは、鋭い水の刃と激流の槍で迎え撃ちましたわ。
「こんなんオレには効かないぜ!」
「……。」
向かってくる攻撃を重さを増したとは思えない速さの大剣でいなしたり、切ったりして対処していきますわ。
「…(そろそろ良いですね)」
「ん?なんかいったか?」
二人の距離は着々と近づいてきていますの。
けれど、グレイは何か作戦があるようですわね。
「…………『アイスロック』」
「後ちょっと……って、なんだ⁉︎」
氷の拘束魔法ですわね。
先ほどからの水魔法で濡れていましたので、よく凍っていそうですわ。
「『アイスニードル』……これで、終わりですね」
動けなくなったジェットの首筋に氷の針を突きつけてチェックメイト。
「勝者、グレイ!次は……」
結界が消え、歓声が響きましたわ
グレイは魔法の氷を消して、ジェットと共に帰ってきましたの。
「ただいま戻りました」
「チッ。負けちまったぜ!」
「お二人とも、お帰りなさい」
「お疲れさま〜!」
「グレイはおめでとう」
「ジェットはドンマイ!」
あら、そういえば……
「グレイは今回、あまりナイフを使っていませんでしたけれど、どうしてなのですか?」
グレイは魔法も得意なのですが、ナイフ、特に投げナイフが上手ですの!
「…ジェット様は持ち前の動体視力や反射神経により、投げたナイフは全て弾かれてしまうだろうと判断いたしました。
故に、水による凍結という搦手を使った次第です」
「もしかしてオレ、褒められてる!冷徹、無愛想なあのグレイに!マジで!やったぜー!」
「……褒めているつもりはありません。リリエル様からの問いに答えただけでございます」
そうでしたのね。
てっきり、手加減をしていたのかと思いましたわ。
グレイはあのくらいの速度なら当てられると思いましたのに。
「最後は、ルビーとリリエル。前へ」
あっ。呼ばれましたわね。
「いってくるねー!」
「行ってまいりますわ」
結界が張られましたわ。私たちはどちらも無手。つまり……
「それでは、初め!」
「『ファイヤーアロー』!」
「『ライトアロー』!」
舞台の中央で何十本もの火の矢と光の矢がぶつかり合う。
魔法の撃ち合いですわ!
「『フレアストーム』!」
「『サンダーストーム』!」
次は、炎の渦と雷の渦がぶつかり合い、やがて消えていった。
「さすがリリー!どれも相殺してくるなんて、やっぱりすごいね!」
「ありがとうございますわ。ルビーも強いですわね!」
「ふふっ。そんなリリーにはとっておきを見せてあげる!」
「では私も、魅せて差し上げますわ!」
一瞬の沈黙。
「『マグマウェーブ』!」
「『ホーリーピラー』!」
赤く輝き、高温を放つ炎の波。
空から注ぐ、舞台を覆うほどの光の柱。
両者がぶつかり合い、大きな光と煙が生まれましたわ。
結界が消え、舞台の上には……
「私の勝ち、ですわね!」
私のみが立っておりましたの。つまり……
「勝者、リリエル!」
合図の後に、一際大きな歓声が響きましたわ。
「あー。負けちゃったー。けど、次は負けないよ!」
ルビーは舞台から降りていますわ。
肩代わりできるダメージはある程度決まっており、それを超えると舞台から下ろされてしまいますの。下ろされてしまったら、その時点で負けとなってしまいますの。
「私も、負けませんわ!」
そのためにはもっと経験を積みませんと!
「それでは、本日の授業はこれで終了とする。解散」
私たちは皆様と合流しましたわ。
「ただいま戻りましたわ」
「ただいま〜!」
「おかえり!義姉様の魔法もルビーの魔法も綺麗だったよ!」
「やっぱり二人は魔法が得意だね」
「オレも負けてらんないぜ!」
「お疲れ様でございます。リリエル様、ルビー様」
「ありがと〜!」
「ありがとうございますわ。それでは、教室に戻りましょうか」
「「はい(!)」」「「うん(!)」」「オウ!」
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