第65話 はね返った呪い
「今映っていたのは本当に呪いをかけた人なんですか?」
私は思わずサイモンに確認せずにはいられなかった。
どう考えてもキャロリンが私を呪ったとは思えなかったからだ。
キャロリンは私からセドリック王太子を奪って婚約解消させ、自分が婚約者として夜会に出席していたのだ。
わざわざリスクを冒してまで私を呪う必要などないはずだ。
「間違いありません。キャサリン様に似ていらっしゃいましたね。もしかしてご姉妹ですか?」
「……」
唇を噛み締めたまま、黙って頷いた。
信じたくはないが、あれは確かにキャロリンだった。
今のもやはキャロリンの元へ飛んでいったのだろうか?
「…今のもやの塊はキャロリンの所に行ったのですか? キャロリンに呪いがかかったのですか?」
「当然ですよ。呪いは解呪されたらかけた本人にはね返るようになっています。はね返った呪いは、ちょっとやそっとでは解呪出来ません。そんなリスクを覚悟の上で呪っているはずですからね」
サイモンは事も無げに言うけれど、キャロリンがそんな覚悟を持って私を呪ったとはとても思えない。
私の何が気に入らなかったのかは分からないが、きっと軽い気持ちで私を呪ったに違いない。
(元から浅慮なところは見受けられたから、何かで呪いの事を知って軽い気持ちで私を呪ったとしか思えないわ)
今更、キャロリンにはね返った呪いをどうこうしようとは思わない。
「キャサリン嬢、今はただ、呪いが解けた事を喜ぶとしよう」
アラスター王太子に優しく手を握られて、私はコクリと頷いた。
******
キャロリンは昼食を終えるとセドリック王太子に会いに行くために、身支度をさせていた。
姉であるキャサリンがこの公爵家を追い出されて以来、この家の中心はキャロリンへと変わっていた。
(キャサリンよりも私の方がセドリック様に相応しいわ。キャサリンったらセドリック様に会ってもちっとも嬉しそうじゃないし、私の方がセドリック様を愛しているんだから…)
セドリックに度々会ってはキャサリンについて、ある事ない事を吹き込んだ。
最初は取り合わなかったセドリックだったが、キャロリンの魅了の魔力に感化され、徐々にキャロリンの話を信じるようになっていった。
それからキャロリンと恋に落ちるのに時間はかからなかった。
そんな折、公爵家の本棚の片隅に見慣れない魔導書を見つけた。
そこに書かれていたのは他人に呪いをかける方法だった。
(ただ単にセドリック様との婚約解消をさせるだけじゃ勿体ないわ。せっかく面白い本を見つけたんだから試してみましょう)
キャロリンはその本の最後に書かれていた注意書きを読む事はしなかった。
そうしてキャサリンに呪いをかけたが、一向にその効果が現れたようには見えなかった。
(おかしいわね? 失敗したのかしら?)
再度かけてみたけれど結果は同じたった。
(この本は眉唾物だったのね。だから本棚の片隅に置いてあったんだわ)
そのうちにキャサリンとセドリックの婚約解消を告げる夜会が催され、キャロリンは満面の笑みでセドリック王太子の隣に立った。
呆然とした顔で会場を出て行くキャサリンを見送りながらキャロリンは優越感に浸っていた。
しかも翌日、公爵家に置いておく価値がないと、キャサリンは追い出されてしまっていた。
(いい気味だわ。たった一年早く生まれたからって、セドリック様の婚約者に選ばれて当然のような顔をしているからよ)
呪いが効かなかったのは残念だったが、自分の目の前から消えてくれた事でキャロリンは満足していた。
そして、それきり呪いの事など忘れていたのだが…。
侍女達に着替えを手伝わせている時、窓の外に何やら黒い雲のような物がこちらに近付いてくるのが見えた。
(あれは、何かしら?)
こちらに向かっているような黒い雲は、窓の近くに来るとフッとその姿を消した。
(今のは何だったのかしら?)
侍女達は誰もそれに気付かなかったようで、黙々とキャロリンにドレスを着せ付けている。
(お腹がいっぱいになったせいかしら? 何だか眠くなってきたわ)
手で口元を隠しながら、キャロリンは小さく欠伸をした。
「ポン!」
そんな音と共にキャロリンの身体は猫へと変化していた。
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