第42話 二人のオリヴァー
けれど、私はケンブル先生が手にしている物に目が釘付けになった。
(あれって… もしかしてコピー◯ボット?)
ケンブル先生が持っているのは白一色のぬいぐるみのような人形で、その顔はのっぺらぼうだったが、鼻の部分が魔石で作られていた。
まるでマンガに出てくるコピー◯ボットのようだ。
アラスター王太子もオリヴァーもケンブル先生が持っている物を不思議そうに見ているが、国王陛下とサリヴァン侯爵は何の反応も見せない。
まるで最初からその存在を知っているかのようだ。
ケンブル先生は魔法陣から降り立つと、国王陛下とオリヴァーの前までやってきた。
「オリヴァー様。こちらの人形の鼻に触れてください」
オリヴァーはケンブル先生に人形を差し出されたものの、言われたとおりにしていいのか戸惑っているようだ。
オリヴァーが横にいる国王陛下に目を向けるとコクリと頷かれた。
それで意を決したように恐る恐る魔石に指を伸ばした。
オリヴァーが鼻の魔石に触れると、オリヴァーの指先から魔力が流れ込み、人形が大きさを変えてオリヴァーそっくりの姿になった。
「ぼ、僕が二人になった?」
「人形がオリヴァーになったぞ!」
オリヴァーとアラスター王太子が驚きの声をあげる中、私も思っていた通りの展開に思わず声をあげそうになり、慌てて口を両手で押さえた。
(ケンブル先生ったら、一体この世界でどれだけのひみつ道具を作ったのかしら?)
前世とは違って魔法や魔道具が溢れているこの世界では、さぞかしいろんな物が作れる事だろう。
他にどんな物があるのか気になるところではあるが、今はそれどころではない。
もしかしたらこのコピー◯ボットをオリヴァーの身代わりにするのだろうか?
国王陛下は人形がオリヴァーに変化したのを見ると満足そうに頷いた。
「これで準備は整ったな。ケンブル、すまないがしばらくオリヴァーを匿っていてくれ。エイダ、オリヴァーの世話を頼む」
国王陛下に名指しされたエイダはオリヴァーの側に来ると、素早く二人のオリヴァーを見比べている。
よく見ると片方のオリヴァーは鼻の頭が微妙に黒い色になっている。
エイダは本物のオリヴァーを立たせるとケンブル先生と共に魔法陣の上に乗った。
「オリヴァー、しばらくケンブルの所で身を隠していろ。後で必ず迎えに行くからな」
オリヴァーはコクリと頷くと、ケンブル先生とエイダと共に魔法陣に乗り消えて行った。
本物のオリヴァーがいなくなると、国王陛下はサリヴァンに次の指示を出した。
「サリヴァン、騎士達を呼べ。このオリヴァーを牢獄に閉じ込めさせるんだ」
「かしこまりました」
サリヴァンは執務室の扉を開けると、そこに立っていた騎士に何かを伝えた。
しばらくすると数人の足音が近付いて来て執務室に入ってくると、国王陛下の隣に座る偽のオリヴァーを取り囲んだ。
「オリヴァー様、国王陛下の命により、拘束させていただきます」
偽のオリヴァーは騎士達に逆らう事もなく大人しく立ち上がると、両脇を支えられるように執務室から連れ出されて行く。
「オリヴァー、さらばだ」
国王陛下から声をかけられた偽のオリヴァーは軽く頭を下げると、そのまま扉の向こうに消えて行った。
その一連の動きを見ていたアラスター王太子と私は、バタンと扉が閉まるとようやく詰めていた息をふうっと吐き出した。
あれが偽のオリヴァーだとわかってはいても、あんな小さな子供が騎士達に連れて行かれるのを見るのは忍びない。
それにしても国王陛下はいつから今回の事を準備していたのだろうか?
私が尋ねて良いものかどうか迷っていると、私よりも先にアラスター王太子が声をあけた。
「父上、もしかして先程ベッドに寝ていたのは偽の父上だったのですか?」
え?
まさか、あれも人形だったの?
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